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2008.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
『女性ライフサイクル研究』第18号(2008年11月発行)

report18.gif年報18号は「世代を超えて受け継ぐもの―家族・コミュニティ、社会」を特集しています。上の世代のひずみが、下の世代に影響を及ぼすことは少なく ありません。上の世代の基盤が回復しなければ、下の世代はより良く生きられないのではないでしょうか。その中で、私たちの世代が果たせる役割とは何でしょ うか。次世代に、何をどのようにつないでいけば良いのでしょうか。本書では、世代を超えて受け継ぐものについて、家族、社会、援助者とコミュニティの視点 から取り上げ、考察しました。


〈目次〉

●序/(女性ライフサイクル研究所)村本邦子
    世代を超えて受け継ぐもの

●戦争とトラウマ/(女性ライフサイクル研究所)村本邦子
    家族を通じて受け継ぐもの
    戦争とトラウマ

●戦争の記憶/(女性ライフサイクル研究所)渡邉佳代
    戦争の記憶の受け継ぎを阻むもの
    孤立を超えて

●善と悪/(女性ライフサイクル研究所)長川歩美
    世代間の受け継ぎへのアプローチ
    善と悪のスプリッティングという視点から

●宗教からの脱却/(女性ライフサイクル研究所)前村よう子
    受け継がされた宗教とそこからの脱却

●家族の物語/(女性ライフサイクル研究所)西 順子
    家族の物語を紡ぐ
    次世代に受け継ぐために

●女性の地位/(女性ライフサイクル研究所)窪田容子
    家庭における女性の地位と尊厳
    世代を超えて受け継がれたもの
●お雑煮/(女性ライフサイクル研究所)桑田道子
    わが家のお雑煮
    台所から受け継ぐもの

●家業/(女性ライフサイクル研究所)下地久美子
    家業を継ぐとき

●育児空間/(女性ライフサイクル研究所)森﨑和代
    子どもたちに「育つ空間」を受け渡す
    「ならMsねっと」の取り組みから

●保育現場/(女性ライフサイクル研究所)津村 薫
    次世代に受け渡すもの
    保育の現場から


104頁 1,050円

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2007.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
『女性ライフサイクル研究』第17号(2007年11月発行)

ワークライフバランス社会をめざして


report17.gif保育所や育児休業制度を整えることで、子育てしながら働く女性を支援する従来のファミリー・フレンドリー施策に対し、ワークライフバランス施策は、 性別や年齢に関係なく、労働者の仕事と生活全般のバランスを支援するという考え方であり、生活には、子育てや家庭だけでなく、地域活動や趣味・学習などあ らゆることが含まれる。根底には、人生は仕事か家庭かという二者択一でなく、さまざまな側面からなり、それらを多様に生きることが仕事上もプラスに働くだ ろうという考えがある。

本号では、女性の視点からワークライフバランスを考えてみる。「女性の視点から」と入れるべきかどうか迷ったが、入れないことにした。ワークライフ バランスを考えるうえで、女性の視点は主流となるはずだからである。これまで、女性たちは、仕事と家族の狭間で悩み、考え続けてきた。完全な役割分担も苦 しいが、両方を担うには倍の頑張りが要求される現実において、どちらに転んでも不完全感と罪悪感にさいなまれ、個としての楽しみは手放さざるを得なかっ た。女性の視点から仕事について見直すとき、それはそのまま普遍的なワークライフバランス論議となるのではないか。女性たちからの問題提起として読んでも らえると嬉しい。

(本号序「ワークライフバランスをめざして」〔村本邦子〕より)

 


〈目次〉

●序/(女性ライフサイクル研究所)村本邦子
    ワークライフバランス社会をめざして

●仕事観の形成/(女性ライフサイクル研究所)村本邦子
    仕事観の形成とワークライフバランス

●キャリア教育/(女性ライフサイクル研究所)津村 薫
    若者たちへのキャリア教育を考える

●シングル女性/(女性ライフサイクル研究所)渡邉佳代
    漫画『働きマン』にみるワークライフバランス

●子育て/(女性ライフサイクル研究所)窪田容子
    子育て期のワークライフバランス

●男性の育児休業/(女性ライフサイクル研究所)下地久美子
    父親とワークライフバランス
    男性の育児休業のゆくえ

●病児保育/(女性ライフサイクル研究所)桑田道子
    病児保育にみるワークライフバランス

●夫の単身赴任/(女性ライフサイクル研究所)森崎和代
    夫の単身赴任による夫婦のワークライフバランス
 妻の立場から

●再就職/(女性ライフサイクル研究所)前村よう子
    四十代からの再就職にみるワークライフバランス

●離婚/(女性ライフサイクル研究所)西 順子
    離婚とワークライフバランス
  女性の人生に仕事がもたらす意味


96頁 1,050円

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2006.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
想像力とレジリエンス

女性ライフサイクル研究所 西 順子

1. はじめに

日頃の臨床活動では、女性が人生で出会う様々な問題や悩みについて相談に応じているが、なかでも子ども時代の逆境を生き延びてきた方と出会うことが 多い。例えば、虐待やいじめ、親からの見捨てられ、前世代から家族が受けてきたスティグマやトラウマなど、子どもにとってはただそこに生まれてきた運命と しか言いようのない状況、環境のなかで、子どもは持てる力を最大限動員させて逆境を生き延びている。なかでも、「想像力」は、子どもが「自分」という感覚 を保ち続けるうえで重要な役割を果たしているのではないかと感じてきた。例えば、絵を描くのが好きで子ども時代にいつも絵を描いていたという方、本を読む のが好きでいつも本を読んでいたという方など、想像力を使って自分の世界に入り込み、心を満たすことによって、子ども時代の虐待的な環境を生き抜いてきた 方々がいる。

しかも、「想像力」は子ども時代だけでなく、その後の新たなライフサイクルの段階を生き抜くためにも重要な力と感じてきた。例えば、虐待によって受 けた心の傷は、虐待的環境を抜け出した後もなお影響を与え、生き辛さとなって顕在化することがあるが、大人となった今、これからどう生きるのかと方向喪失 しているときにも、「想像力」が必要となる。「理想的自己の再創造にはイマジネーションとファンタジーとを積極的に練磨することも必要となる」(ハーマ ン)と言われるように、新たな自己を創造し、新たな未来を創造するとき、想像力はなくてはならないものだからである。

そこで、本稿では、想像することで子ども時代の困難を生き抜いた女性へのインタビューをもとに、想像力とレジリエンスについて考えてみたい。

2. れい子さんへのインタビュー

れい子さん(仮名)は現在大学4回生、21歳。落ち着いた穏やかな雰囲気のなかに芯の強さを感じさせる女性である。家族は、両親と妹、弟と5人家族。インタビューは2006年6月、就職が内定し、ほっと一息つかれているという時期に行った。

(1)辛かった体験

「これまでの人生で一番辛かったのは、小学校5年生からシンガポールに住んだことです」。子ども時代に困難だったこと、辛かったことは? という質問に対して、れい子さんは迷いなく即答した。れい子さんは小学校5年から中学2年の冬までシンガポールの日本人学校に通ったが、そこでは「今まで 普通にできていたことができなかった。普通に出来ると思っていたことができなかった」と言う。それは、「友人関係」である。

シンガポールの日本人学校は世界で一番大きい日本人学校で、1クラス生徒が約40人、学年で9クラス、毎年クラス替えがあった。5年生、6年生と友 人ができず、中学1、2年のときは、1人の友人ができた。れい子さんは、友人ができないため、学校では1人で過ごしたが、1人でいることより、「1人の私 を周りがどう思ってるんやろう・・」と、周りが自分をどう見ているかということが気になり、そのことが辛かったと言う。

れい子さんは、ある日突然異文化のなかに身をおくことになったと言えるが、仲間関係が重要となりつつある思春期の始まりに、学校という集団のなかで「1人」であったことは、どんなに心細く、孤独であったことであろうか。

その後、れい子さんは、中学2年の冬に小学4年までを過ごした土地に帰国、地元の中学に通うことになる。しかし、そこでも「仲良かった友人はどう思 うんやろう。帰国子女と言われたくないし・・」と、自分がどう見られるかが気になり内気になった。帰国してからの中学時代も辛かったと言う。「1人でいる ことは平気。でも、一人でいる自分を周りがどう見ているのか、1人でいることが変じゃないかと気になった。特に、体育の時や授業のなかでの班づくりが、嫌 だった。班づくりは自由に生徒達に決めさせるもので、最後に1人になるのが辛かった」。れい子さんは冷静に落ち着いてお話くださったが、「今思えば子ど もって残酷。子どもは好きではない」と言う。その言葉から、言葉では表現し得ない心の傷つきが今もなお残っているのであろうと推察された。

(2)辛かった時の心の「オアシス」

小学校5年~中学時代が一番辛かったというれい子さん。当時、れい子さんを支えていたものは何だったのか。れい子さんは、小説を読むのが好きだっ た。小学校に入学時よりいつも図書館で本を借りて読んでいた。シンガポールでは日本の本は高価だったが、自分が読みたい本は親が買ってくれていた。ある 日、家にパソコンがきた。れい子さんの母はタイプ打ちが早く、その姿に憧れて、「自分も早く打てるようになりたい」と練習したが、それが楽しかったと言 う。そして、れい子さんは小説を書き始めた。読み手は家族だったが、中学の時は1人の友達に読んでもらう。友達から「好きな子との恋愛のお話を書いて」と 頼まれて、友達を主人公にした小説を作り、友人にも喜んでもらった。

れい子さんが書いた小説を、母は「天才だ!」と喜んだ。絵を描くのが好きだった弟と妹が小説に挿絵を入れ、母が編集、製本してくれた。シンガポールでは安くて製本が出来たからとのことだが、「それもとても嬉しかった」とれい子さんは言う。

シンガポールでは、子どもが外で遊ぶのは危険なこと。近所に同年齢の子どももいなかったため、放課後帰宅してからは家のなかで過ごす。家で、小説を読んだり、描いたりして過ごすのは、「オアシス」だったとれい子さんは語られた。

れい子さんが書いていた小説って、どんなテーマだったのだろうか。「だいたいは変な話。もぐらが人間になって、またもぐらに戻るような。ファンタジーもの」とのこと。

大人になった今は、当時のことを振り返ってどう思うのだろうか。「中学時代から、『自分は変』って思っていたけど、無理に周りに馴染もうとしていた、そこまでしなくてもよかったな、悩みすぎていたなと思う。今は、変わっていると思われても、平気」と言う。

(3) 「自分らしさの発見」から「人生の選択」へ

「今は、変わっていると思われても平気」と言えるれい子さん。れい子さんは子どもの頃の辛い体験を超えて、今や「私は私」という確固としたアイデンティティを築いておられる。その後、れい子さんはどのような過程を歩まれたのだろうか。

れい子さんは、高校選択の時期、自分の意志で進路を決めていた。「高校は、地元から出たかった。中学時代の人と誰も一緒じゃないところにいきたかっ た。そのほうが、新しい生活をしていけるんじゃないか、友人ができたり、楽しく過ごせるんじゃないか」と、地元以外の高校も受験できる専門科を志望。人文 学科に入学する。

高校では演劇部に入ったが、そこでは、男子も女子も皆、個性が強かったと言う。「こんなんでもやっていけるんや」「自分を表現するのってカッコい い」「皆と同じと思わず、好きなようにしたらいいんや」と思った。また、「負けないように、自分の個性、芯というものを持ちたいと、それにエネルギーを傾 けた」。役者には関心はなかったので、脚本を書いたり舞台の裏方にまわり、照明や演出にエネルギーを傾ける。演劇部に入っているというと、「なんで、役者 しないの?」と言われることが多かったが、「私は裏方が好き」と裏方の仕事にプライドを持ってやっていた。

特に、高校2年の春、三本立てのオムニバス風の劇をすることになったが、れい子さんに演出の声がかかり、はじめて演出を担当。新入生歓迎会で発表す るも、アンケートでは、れい子さんが演出した劇に人気が集まった。れい子さんが演出した劇は、不思議系の劇。演技指導はできないので、照明や音など全体の 雰囲気を演出したという。その経験によって、れい子さんは「自分にしかできないものがある」と、自分の個性を確認すると同時に、「みんなで物をつくるのっ て好き」と、物づくりの喜びを発見されている。

その後、れい子さんは高校を卒業し、志望大学に入学。3回生から就職活動を始め、現在は総合職としてテレビ製作部門の採用内定を得ている。内定の評 価では「物づくりの大変さもわかったうえで、物づくりのおもしろさも知っている」と返ってきた。「実際、どこに配属されるかはわからないし、不安もあるけ ど、ちゃんと自分のことを見てくれているからと、信用できると思う」と嬉しそうに語られた。

就職活動での困難はなかったのだろうか。大学の就職課に求人はほとんどこないため、まずは情報収集をしたが、焦りからも、やりたいと思ったところか ら手当たり次第に申し込んだ。しかし、どれも落とされた。れい子さんは、どうして落ちるのかと考えた。就職セミナーで聞いたことがあった「自己分析」から やってみようと思い立ち、自分はどんな人間か、何がやりたいのか・・と、自分でシートを作って書いていったという。内定をもらった会社は、自己分析をした あとに申し込んだ会社であった。

れい子さんは「物づくり」という好きなことに携われる仕事を簡単に手に入れたのではない。「落とされる」という痛い経験をばねにしながら、「自分と は何か」と自分と向き合い、考え、挑戦し、決断することで、自分の人生を切り拓いていかれている。れい子さんは今度の春には、家を出て、1人暮らしの生活 をはじめるとのことであった。

(4)れい子さんのレジリエンス

れい子さんは、小学校高学年、中学校と心理的困難のさなかにありながらも、想像力によって「心のオアシス」をつくってきた。想像力はまさにれい子さ んのレジリエンスであったと言える。そして、れい子さんは想像力を使って空想の世界で心の翼を拡げるだけでなく、想像的創造によって他者とつながりを回復 し、創造の喜びを他者と共有し、よりひろい世界へとつながりを拡げてきている。

また、れい子さんは15歳の時に自分で自分の進路を決めている。しかも、人に合わせたり、人と比べたりすることなく、15歳の子どもが最善を尽くし て自分の進路、つまりは人生の第一歩を決断した勇気には感嘆する。困難を超えるために、未来に希望を見い出し、自分を信じ、世界を信じて一歩踏み出せるれ い子さんの強さは、子ども時代より育まれてきた想像力が源になっていると言えよう。想像力は自己の内的な力となっている。

このように、れい子さんの想像力は、子どもの頃の困難を超えて生き抜く力となるだけではなく、人生を切り拓く力として未来に活かされ、未来を創るレジリエンスとなってきたと言える。

3. 想像力とレジリエンス

子ども達は、小説、漫画、アニメ、映画などファンタジー物語が好きである。宮崎駿(2001)は自分の子ども時代の体験から、「現実を直視しろ、直 視しろってやたら言うけども、現実を直視したら自信をなくしてしまう人間が、とりあえずそこで自分が主人公になれる空間をもつっていうことがファンタジー の力だと思うんです」と述べているように、想像の世界のなかでは誰もが主人公になり得、自由になれる。

想像することは、子ども誰もにとって力となるのはもちろんのこと、逆境におかれた子どもにとっては、想像力があるからこそ、闇のなかを生き抜くこと ができると言っても過言ではない。なぜなら、「想像力は生の根底にある暗黒物質を変貌させることができる」(ル=グゥイン、2006)からである。ここで は、特に虐待サバイバーの想像力とレジリエンスについて考えてみたい。

(1)子ども時代を生き抜く

筆者はカウンセリングを通して子ども時代の虐待サバイバーと出会うなかで、彼女たちの生き抜く力には感嘆させられてきた。子どもは親に愛着を求める が、それが得られないばかりか、理由もなく怒られ、殴られ、あるいは見捨てられ、性的な対象と見られ、本来子どもとして与えられるべき愛情と保護を受けら れず、子どもにとっては訳がわからず理解できない、理不尽な、不条理な世界を生き抜いてきている。理解できない世界に身をおくとは、なんと不安で恐怖であ ることであろうか。しかし、それでもその世界を生き抜くために子どもは想像力を駆使する。たとえば、ある日、叔母さんから誕生日のプレゼントにもらった漫 画本に感動し、親から見捨てられ、何をやってもダメな主人公に自分を重ね、漫画の世界に自分の世界を見い出し、その世界を楽しむことで子ども時代を生き抜 いたサバイバー。絵を描くときは何時間でも没頭でき、すべてを忘れることができた、絵を描いている時間だけが幸せだったというサバイバー。孤児のファンタ ジー物語の主人公に自分をなぞらえ、「この親は本当の親ではない。どこかにきっと本当の親がいるはず。私の生きる場所はここではない」と空想することで、 外の世界に希望を見出し、家を出れる時期を待つことで生き抜いたサバイバー。他にも、音楽の世界、詩の世界、歴史の世界、植物の世界・・など、さまざまな 想像の世界に没頭したサバイバーたちがいる。

子ども時代に酷い虐待を受けながらも人生の主人公でありえた女性たちは、子どもの頃に「心のなかの神話、空想生活、想像上の友達をもっていた」と ボーレン(1991)は言う。「これらの子どもたちは、自分のことを自分で選んでいくヒロインであった。彼女らは、自分がどのように扱われているかとは別 個に、自分についての感覚を維持した。状況を評価し、現在はどのように反応したらよいかを決定し、将来に備えて計画をたててきたのである」と。子どもは環 境を選べない。しかし、子どもは、想像の力によって、想像の世界に身をおくことで、「自己の感覚」を維持することができる。

(2)人生の物語を創る

逆境を生き延びた後、トラウマを超えて生きようとするときにも、想像する行為はレジリエンスとして必要である。では、どのように必要とされるのか。筆者は臨床経験から、サバイバーが大人になって新たな物語を切り拓こうとする時について、次のようなイメージをもっている。

子ども時代は真っ暗闇のトンネルのなかを手探りで歩くようなものであった。闇の中の光を頼りにとにかく出口を求めて、生き延びてきた。トンネルから 出れば、そこには幸せが待っていると希望をもって。しかし、やっと闇から出られたという時、そこには安堵と共に新たな苦悩が待っている。闇から新しい世界 に出たが、そこはどこなのか、どういう世界なのか、何が待っているのかわからない。その世界はあまりにもまぶしくてよく見えない、見るのも怖いし恐ろし い。知っているのは、闇のなかの経験だけである。これからどの方向に向いて旅をすすめていいのかわからない。手がかりになる指針・羅針盤は手元にはない。 焦り、不安になる。一歩踏み出せば、お化けや亡霊が見えて恐怖に脅える。この世界もまた闇に包まれているのではないか・・。

サバイバーがカウンセリングを訪れる時とは、このように方向を見失い、人生の物語が行き詰ってしまった時でもあるだろう。と同時に、未来へとつなが るために、物語の再創造に向き合おうとするときでもある。方向を見失った時、必要なことは、内なる声に耳を傾け、道が見えるのをじっと待つことであるが、 その答えは無意識からイメージの形をとって現れる。イメージは無意識からのメッセージであり、それ自体に自律性がある(老松、2004)。「無意識は物語 や神話の創造に常に関わっている」(エレンベルガー、1980)と言われるように、自我が無意識からのメッセージを聞きとっていくことで物語は創られてい く。

カウンセリングとは、想像的創造の場を提供し、クライエントが人生の主人公として自分の羅針盤を見つけ、人生の舵をとっていくのを見守ることに他な らず、その物語は主人公自らが創っていくものである。物語を創る(物語を語らせる)ことについて、ル=グウィン(2006)は「いつも、絶えず、生き延び るためにこれをしているのです。世界を物語にできない人は発狂します」と言う。人生を生き抜くためには、想像力によって自己の物語を創っていくことが必要 なのである。

4. 終わりに

本稿では、想像力とレジリエンスについて、女性へのインタビューをもとに、カウンセリングでの経験を照らし合わせながら考えてきた。未来を生きる子 どもたちに私達大人ができることは、子どもの未来を決めることではなく、子どものもつ力を信頼し、子どもの内なる世界を尊重し、見守ることであると、その 思いを強くした。筆者自身は、カウンセリングの場が、物語を紡いでいく想像的創造の場となるようエネルギーを注いでいきたい。

最後になりましたが、快くインタビューに応じ、自分の言葉で語って下さったれい子さんに、心より感謝いたします。

【参考文献】

ボーレン、J.S(1991)『女はみんな女神』(村本詔司・村本邦子訳)新水社

エレンベルガー、H.(1980)『無意識の発見(上)』(木村敏・中井久夫監訳)弘文堂

ハーマン、J.L(1996)『心的外傷と回復』(中井久夫訳)みすず書房

宮崎駿(2001)「自由になれる空間」『ユリイカ』8月臨時増刊号、第33巻第10号

老松克博(2004)『無意識と出会う』トランスビュー

ル=グウィン、A・K(2006)『ファンタジーと言葉』(青木由紀子訳)岩波書店

『女性ライフサイクル研究』第16号(2006年)掲載

2006.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
レジリエンス~苦境とサバイバル

レジリエンス~苦境とサバイバル

女性ライフサイクル研究所 村本邦子

1. はじめに

トラウマに関わっていると、「そんなに暗い話ばかりで、しんどくならない?」と問われることがある。しんどくならないわけではない。それでも、実際 には、サバイバーと関わることで、希望と勇気をもらうことが多いのも事実である。人はいったいどこまで残虐になり、悪をなすことができるのか、嫌というほ ど思い知らされる一方で、人は、受難を越え、どこまでも誇り高く生き抜くことが可能なのだと学ばされる。

レジリエンスという言葉に初めて出会ったのは、もうずいぶん前のことだ。気になって調べてみても、ほとんど情報がなかったが、最近になって、急激に この言葉を見かけるようになった。もともとは、生態学に由来する概念のようである。生体のホメオスタシスと同様、生態系にも環境変化に対する復元力(レジ リエンス)が備わっており、その結果、安定性や恒常性が保たれると考えられているという。化粧品業界では、早くから、レジリエンスと呼ばれる商品が出回っ ていた。加齢による変化に打ち勝つための美容液である。その他、ビジネス界でも盛んに取り上げられている。事業リスク・安全性を把握して順応性のあるメカ ニズムを創り出し、自らのリスク・危機耐性(レジリエンス)を高めていくことが企業に要求されている。回復力、復元力、危機耐性、しなやかさ、逆境をはね 返す力など、さまざまな訳語が試されているが、どうにもピンとこない。カタカナのままが良いとも言えないが、本特集では、とりあえず、レジリエンス、生き 抜く力としておく。

幼い頃の虐待体験は、後の人生に多大な影響を与えるという事実と、そんなものに人の一生が規定されてしまうほど人生の可能性は閉ざされていないとい う事実。その両方の事実を含むものとして、レジリエンスの語を使いたい。それは、「心の傷なんてたいしたことはない。子どもは、そんなもの忘れて生きてい くさ」といった言い分とは正反対のものだ。レジリエンスの本当の意味を理解するのは、トラウマによる破壊的影響について、十分に理解した後である。そろそ ろレジリエンスをテーマに据えて取り組んでも良い頃ではないか。人生に逆境は避けられない。避けられないとしたら、逆境のなかで、私たちに何ができるの か。平常時にどんな力を蓄えておけば良いのか。私たち援助者がどんな関わりをすれば、逆境にある人のレジリエンスをうまく引き出すことができるのか。本特 集で、そんなことを考えるためのヒントを見出すことができたらと思う。

2.レジリエンスを構成する要因

いったい何がレジリエンスをもたらすのか、レジリエンスを構成する要因を特定する研究は多い。たとえば、ワーナーとスミス(Werner & Smith, 1982)は、レジリエンスを示す子どもは、養育者(おもに母親)と肯定的な関係を維持している、拡大家族にも養育者がある(祖父母など)、積極的であ る、変化に適応しやすい、物事を肯定的にとらえようとするといった特徴を示すことを明らかにした。ガーマシー(Garmezy, 1983)の研究では、人から好かれやすい、親しみやすい、攻撃的であったり防御的でない、協力的で情緒的に安定している、両親や周囲の大人が子どもに関 心をもち暖かい家庭環境にあるなどの特性を持つことが示されている。

グロットバ-グ(Grotberg, 1997)は、3歳から11歳までを対象として14カ国で行った調査結果から、レジリエンス・チェックリストを作成した。レジリエンスは、①"I HAVE"要因(持っているもの) ②"I AM"要因(自分の属性) ③"I CAN"要因(できること)の3つからなる。たとえば、「私のことを愛してくれ、助けてくれる人たちがいる(I HAVE)」「私は良い子で、自分のことも、みんなのことも大切に思う(I AM)」「私は問題があっても対処できるし、自分をコントロールすることができる(I CAN)」などである。"I HAVE"要因は、安心の基盤と友情によって、"I AM"要因は、肯定的価値観と社会的能力によって、"I CAN"要因は、教育、才能、興味によって高めることができる。

レジリエンスを高める介入についての研究としては、ダニエルとワッセル(Daniel & Wassell, 2002)のものがある。彼らは、レジリエンスを、①健康 ②教育 ③情緒的・行動的発達 ④家族関係と仲間関係 ⑤セルフ・ケアとコンピテンス ⑥アイ デンティティ ⑦社会的自己表現の6領域に分け、学童前、学童期、思春期のそれぞれの時期にある子どものレジリエンスを査定し、具体的に関わっていく方法 を提示している。

日本での研究に目を向けてみると、小塩ら(2002)が、先行研究から、レジリエンスの状態にある者の心理的特性を反映する尺度を作成し、大学生を 対象に実施している。因子分析の結果、新たに作成された精神的回復力尺度は、①新奇性追求 ②感情調整 ③肯定的な未来志向の3因子で構成されることが明 らかにしている。

また、小花和(2004)は、レジリエンスの構成要因に関するさまざまな研究をレビューし、整理した(表1)。小花和の研究は、幼稚園児を対象に、 母親と保育者の認知を通じて、幼児期の心理的ストレス反応(引きこもり、攻撃的行動、対人緊張)とレジリエンス(意欲、資源、楽観)の関連を検討し、介入 を検討したものである。

■表1 レジリエンスの構成要因

環境要因 子どもの周囲から提供される要因(I HAVE Factor)
安定した家庭環境・親子関係、両親の夫婦間協和、家庭内での組織化や規則
家庭外での情緒的サポート、安定した学校環境・学業の成功
教育・福祉・医療保障の利用可能性、宗教的(道徳的)な組織
個人内要因 子どもの個人的要因(I AM Factor)
年齢・性、共感性、セルフ・エフィカシー、ローカス・オブ・コントロール
自律性・自己制御、信仰・道徳性、好ましい気質
子どもによって獲得される要因(I CAN Factor)
コンピテンス、問題解決能力、ソーシャル・スキル、衝動のコントロール
知的スキル、根気強さ、ユーモア

※小花和(2004)より一部抜粋

トラウマ・サバイバーがトラウマ経験に反応する肯定的方法、治療的介入の有無を問わず、回復する力を表すレジリエンスについての研究もある。成人し たトラウマ・サバイバーのレジリエンスに関する研究によれば、レジリエンスの表れは多面的、かつ複雑であり、トラウマ・サバイバーは、機能の異なった領域 で、傷つきやすさとレジリエンスの両方を示す(Chambers & Belicki, 1998; Grossman et al, 1999; Lam and Grossman, 1997; Liem, James, O'Toole and Boudewyn, 1997)。

ハーベイ(Harvey, 1996)は、生態学的視点から、極度のストレスに対する反応を形づくる「人×出来事×環境」の相互作用に注目し、トラウマの影響、回復、レジリエンス は、相互に関連する8つの心理的経験領域、①記憶の再生への権限 ②記憶と感情の統合 ③感情への耐性と統制 ④症状管理 ⑤自己評価 ⑥自己の凝集性  ⑦安全な愛着関係 ⑧意味づけによって記述することができるとし、これを査定する「MTRR/MTRR-I(トラウマの影響、回復、レジリエンスの多次元 尺度とインタビュー)」を開発した。トラウマが起こり、トラウマ後の条件を形成していく個人の内的・外的資源、そして生態学的環境のあり方によって、これ らの領域のそれぞれが、否定的影響を受ける場合もあれば、そうでない場合もある。ある領域が相対的に影響を受けずにすんだ場合、また、影響を受けた個人 が、影響の少なかった他の領域の力を駆使して、別の領域の影響を修正した場合、そこにレジリエンスを見ることができる。しかし、MTRR/MTRR-Iに よって査定されるのは、あくまで、トラウマ後、結果として保持された心理的機能のレジリエンスである。

3.トラウマとレジリエンス

考えてみると、トラウマ反応とは、本来、苦境を生き延びるための手段であり、それ自体、レジリエンスの表れと捉えることもできるのではないだろう か。危機状況において、人は、感情を麻痺させることで冷静にサバイバルのための行動を取り、過覚醒状態によって、小さな危険信号をキャッチし、平常以上の 力を発揮して身を守ることが可能になる。平和時の正常性を戦時下に持ち込めば、生き延びる確率は限りなく低くなるだろう。侵入的思考は、人が、トラウマ経 験を何とか人生に統合しようとするあがきのように思われる。危機状況が去り、トラウマ反応が不要になってもなお、それが続くとき、それは平和時の生活を妨 げるものとなるだろう。すなわち、症状である。

したがって、トラウマとレジリエンスを考えるとき、①プレ・トラウマ ②ミドスト・トラウマ ③ポスト・トラウマのどの時点にあるかによって、レジ リエンスを引き出す援助は違ってくるのではないか。プレ・トラウマは、いまだトラウマが起こっていない状態であり、2で紹介したようなレジリエンスを構成 する各要因を増強する働きかけが有効である。ミドスト・トラウマとは、トラウマの最中であり、虐待やDVなど長期反復型トラウマが進行中であることを示 す。この状況において、プレ・トラウマと同様、レジリエンスを構成する各要因を増強する働きかけが有効であるが、症状と見えるトラウマ反応を安易に治療し ないことが重要であろう。可能な限り、安全を提供することは言わずもがなであるが、重要なことは、その人が、その苦境を生き延びているレジリエンスの要因 を特定し、支持することである。

DV家庭に育つ子どもたちに関するマレンダーら(Mullender, Hague, Iman, Kelly, Malos & Regan,2002)の研究は、この点で、非常に示唆的である。彼女らは、一般の子どもたちとシェルターの子どもたちに、たくさんのインタビューを行っ た結果、①DVに巻き込まれた当事者として自分の声に耳を傾けてもらい、真剣に取り扱ってもらうこと ②解決法をさがし、意志決定の援助に積極的に関われ ることが、子どものコーピングに重要であるとした。実際、子どもたちは、DVを生き延びるための短期的、および長期的コーピング・ストラテジーを持ってい る。

たとえば、短期的コーピング・ストラテジーとしては、①出来事を扱うための反応や考え方(泣く、無視する、何も起こっていないふりをする、自分のな かに引き籠もる、ふとんにもぐりこむ、どこかに隠れる、忙しくする、TVや音楽に没頭する、外に逃げ出すなど) ②安全のための戦略(助けを求める、知り 合いに電話する、警察を呼ぶなど)③きょうだい同士の助け合い(きょうだいで一緒にいる、小さい子の世話をする、上の子のところへ行くなど) ④母親を助 け、暴力的状況に介入する手段(直接暴力の間に割って入る、部屋に留まる、やめとて言う)が挙げられた。

長期的コーピング・ストラテジーとしては、ほとんどのケースで防衛的、適応的戦略をとっていた。①外界へ向けた戦略として、信頼できる誰かに話す (必ずしも事実を打ち明けない)、逃げ場をつくる(友達の家や親戚の家)、安全な自分だけの場所をさがす、助けてくれる人をさがす(警察、先生など)、母 親やきょうだいを助ける、積極的解決策を考える ②内面的な戦略としては、こっそり泣く、何も起こっていないふりをするなどが挙げられた。

レジリエンスという語は使われていないが、ミドスト・トラウマにある子どもたちのコーピング・ストラテジーは、まさにレジリエンスの存在を示すもの だろう。とくに、この研究で集められた子どもたちから子どもたちへのアドバイスには、興味深いアイディアがたくさん含まれている。

①適応するのに役立つ考え方:「座って、何が起こっているのか考えて みること。平静を保って、ちゃんと自分の頭で考える努力をすること。そうでないと、めちゃくちゃな方向に行っちゃうから」「自分の考えや気持ちを書いてみ る」「嫌なことは無視して、他のことに精を出すこと。おもちゃで遊ぶとかテレビを見るとかして、自分のことに専念する」「楽しいことを考えるようにする」 「スクラム組んで、助け合うんだ。お母さんや親戚が助けてくれるかも知れない。生活を落ち着かせて、成り行きにまかせないこと」「勇気をもって」「心を落 ち着かせること」「ヒステリックにならないこと」「心を穏やかにして、リラックスを心懸けること。ぬいぐるみを抱っこするといいよ」

②お母さんときょうだいを助けること:「お母さんが強くなれるように 助けるんだ」「お母さんはちゃんと考えられなくなっている時があるから、そんな時には、アドバイスしてあげるんだよ」「お母さんやきょうだいと抱っこし合 うこと」「きょうだいと話をすること」「心配になったら、お母さんに愛してくれているか何度でも確認するんだ」「お母さんのそばを離れないこと」

③助けてくれる人をさがすこと:「誰か話せる大人をさがすんだ」「おばあちゃんや親戚の人に相談する」「お兄ちゃんやお姉ちゃんや親戚に助けてもらう」「大人に言えば、きっと何とかしてくれる」「心細い時には誰かと一緒にいてもらうといい」

④安全計画:「家の外に逃げたっていいんだ」「庭や道路に走って出 る」「暴力が終わるまで隠れる場所を作っておくこと」「怖ければ電気をつけたらいい」「ドアのところにベッドを動かすこともできる」「きょうだいで集まっ て別の部屋に行く」「逃げる場所を決めておく」「逃げて助けを求める」

⑤暴力の中に入っていかないこと:「けんかから離れておくこと」「声や音が聞こえない部屋が必要だ。暴力があることをわかっていても、聞こえない方がましだ」「家にいるのなら、当たらない場所にいること」。

レジリエンスを構成する要因を驚くほど示しているではないか。トラウマの最中にいる子どもたちは、より良い生き方を求めて、ありとあらゆる工夫をし ている。マレンダーらは、現実には、周囲の大人や援助職者が子どもの声を無視することで子どもを無力化しているという。子どもたちの存在に関心を持ち、耳 を傾けることによって、子どもたちのレジリエンスを特定することが、ミドスト・トラウマの子どもたちのレジリエンスを高めることにつながるのだろう。

そして、ポスト・トラウマになって初めて、ハーベイの言うような、トラウマの影響とレジリエンスを査定した上での回復が問題になってくる。

4.レジリエンスへの道

レジリエンスが発揮される逆境は、トラウマに限らない。アメリカ心理学会APAセンターは、レジリエンスを、逆境、トラウマ、悲劇、脅威、重大なス トレス(家族の問題、人間関係の問題、深刻な健康問題、職場のストレス、経済的なストレスなど)に直面しても、うまく適応していくプロセスとする。そし て、レジリエンスは特別な人のものではなく、誰もが学習したり発達させたりできるものであるという。APAによって提起されている「レジリエンスの道」を 紹介しておきたい(http://www.apahelpcenter.org)。

①関係をつくる
家族、友人、その他の近しい人と良い関係をつくることが重要である。あなたのことを気にかけ、あなたの言うことに耳を傾けてくれる人々からの助けとサポー トを受け入れることがレジリエンスを強化する。市民活動、宗教組織、地域活動などに関わることで社会的サポートを得、希望を持つことができる人もあれば、 誰かが助けを必要としているときに力を貸すことが自分の役に立つかもしれない。

②危機を克服できない問題だと捉えるのを避けること
極度にストレスフルな出来事が起きるという事実を変えることはできないが、それをどのように解釈し、どう反応するかを変えることはできる。苦しい現在に囚 われないで、未来は少し良くなっているかもしれないと考えてみよう。困難な状況を少しでもうまく扱えたと思えそうな小さなことに目を向けよう。

③変化を人生の一部として受け入れよう
逆境の結果、いくつかの目標はもはや達成不可能になったかもしれないが、変化させられない環境を受け入れることで、自分が変化させることのできる環境に力を注ごう。

④目標に向けて歩むこと
実現可能な目標も持とう。小さなことでも良いから、目標に向けて進むための何かを規則正しく重ねていこう。達成不可能な課題に囚われるのでなく、「自分が向かいたい方向に進めてくれることで今日できることは何だろう?」と考えてみよう。

⑤きっぱりと行動しよう
出来る限り逆の状況に働きかけよう。問題やストレスから逃げてしまったり、なくなればいいのにと空想してばかりいるより、きっぱりと行動しよう。

⑥自己発見のチャンスをさがそう
人はしばしば、喪失との闘いの結果、ある意味で、自分について何かを学んだり、自分が成長したことを発見する。悲劇や辛苦を経験した多くの人々が、より良 い人間関係、傷つきやすいときでも強さの感覚を増すこと、自己価値の増加、スピリチュアリティの発達、人生に感謝することを得たと言っている。

⑦自分自身についての肯定的な見解を養おう
自分の問題解決能力に自信を持ち、自分の直感を信頼することがレジリエンスを築く。

⑧物事の展望を持ち続ける
苦痛な出来事に直面しても、ストレスフルな状況をより大きな文脈のなかに置いて見るようにし、長期的な展望をもちなさい。釣り合いの取れない考えを持たないように。

⑨希望に満ちた見解を保つ
楽観的な見解は人生に良いことが起こると期待することを可能にする。心配や怖れよりも自分の望むことをイメージしなさい。

⑩自分のケアをする
自分自身の欲求と感情に注意を払うこと。自分が楽しんだり、リラックスできる活動に取り組みなさい。定期的な運動をすること。自分の世話をすることで心と体がレジリエンスを要求する状況を扱えるようになる。

5.おわりに

レジリエンスについて分析することは、どうにも、その豊かさを損なうように感じられてならない。そこで、今回の特集では、それぞれにレジリエンスを 感じられる人へのインタビューによって、その表れを描き出せるよう試みた。そもそも、レジリエンスを理論化することに無理があるのではないだろうか。レジ リエンスは個性的であり、理論で捉えられない生き物のようにも思える。

個人的には、長年にわたってサバイバーの心理学を研究してきたシーバート(Siebert, 1996)の挙げる逆境に負けない条件のうち、①遊び心にあふれた好奇心を発揮し、自分から進んで学んでいくこと ②矛盾を受け入れ、多様に開かれた柔軟 性 ③場を読み、全体を見る力 ④潜在能力(五感、直感、創造性、想像力)を大事にすること ⑤苦境を受け入れ、前に向かって行動する そして、何より、 ⑥生き残るという強い意志が気に入っている。レジリエンスとは、生きようとする意志であり、命を肯定する力であると思う。

シーバートは、生まれつきサバイバーの特徴を備えた人も少ないながら存在するが、大半の人は意識してその力を伸ばしていかなければならない、逆境が その力を呼び覚ますこともあるという。大変な苦難を克服した後では、それ以前では考えられないほど高い能力を発揮できるようになり、逆説的だが、逆境が救 いになることもあるという。避けられる逆境を好んで引き受ける必要はない。しかし、避けられない逆境ならば、逆境を乗り越え、ただ単に、損なわれずに現状 を保つという以上に、新たに獲得されるものがあるという考えは魅力的ではないか。そして、私たちがトラウマ・サバイバーと関わりながら力をもらうのは、そ んな奇跡の証人となれるからに違いない。

 

Chambers, E. & Belicki, K. (1998). Using sleep dysfunction to explore the nature of resilience in adult survivors of childhood abuse or trauma. Child Abuse & Neglect, 22, 753-758.

Daniell, B. & Wassell, S. (2002) The early years: Assessing and promoting resilience in vulnerable Children I. London: Jessica Kingsley.

Daniell, B. & Wassell, S. (2002) The school years: Assessing and promoting resilience in vulnerable Children II. London: Jessica Kingsley.

Daniell, B. & Wassell, S. (2002) Adolescence: Assessing and promoting resilience in vulnerable Children III. London: Jessica Kingsley.

Garmezy, N. (1983) Stressors of childhood. In N. Garmazy & M. Rutter (Eds.) Stress, coping, and development in children. NY: McGraw-Hill.

Grossman, F.K., Cook, A.B., Kepkep, S.S., & Koenen, K.C. (1999). With the pheonix rising: Lessons from ten resilient women who overcame the trauma of childhood sexual abuse. San Francisco: Jossey-Bass.

Grotberg, E. (1995) The international resilience project. In M. John (Ed.) A charge against society: The child's right to protection. London: Jessica Kingsley.

Harvey, M.R. (1996) An ecological view of psychological trauma and trauma recovery. Journal of Traumatic Stress, 9 (1), 3-28. メアリー・ハーベイ(村本訳)「生態学的視点から見たトラウマと回復」『女性ライフサイクル研究』第9号(1999)。

小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治(2002) ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性-精神的回復力尺度の作成 カウンセリング研究、35、 57-65.

Lam, J.K. & Grossman, F. K. (1997) Resiliency and adult adaptation in women with and without self-reported histories of childhood sexual abuse. Journal of Traumatic Stress, 10, 175-196.

Liem, J. H., James, J.B., O'Toole, B.A., & Boudewyn, A.C. (1997). Assessing resilience in adults with histories of childhood sexual abuse. American Journal of Orthopsychiatry, 67, 594-606.

Mullender, A., Hague, G., Iman, U. Kelly, L., Malos, E. & Regan, L. (2002)Children's perspectives on domestic violence. London: Sage.

小花和W.尚子(2004)幼児期のレジリエンス ナカニシヤ出版

Siebert, A. (1996) The survivor personality. Perigee. アル・シーバート(林田レジリ浩文訳) 逆境にまけない人の条件 フォレスト出版、2005

Werner, E. E. & Smith, R. S. (1982) Vulnerable but invincible: A longitudinal study of resilient children and youth. NY: McGraw-Hill.

『女性ライフサイクル研究』第16号(2006年)掲載

2006.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
『女性ライフサイクル研究』第16号(2006年11月発行)

※この号は売り切れました。

生き抜く力を育む
レジリエンスの視点から


report16.gif子どもは成長する過程で、いろんな逆境に遭遇します。しかし、それに翻弄されてしまうばかりではありません。逆境 をはねとばしたり、たとえ傷つきうずくまってしまったとしても、またそこから立ち直り、成長していく力、生き抜く力を持っています。日本ではまだ一般的な 言葉ではありませんが、欧米ではこのような力を指す「レジリエンヌ」という言葉があります。
人生に逆境は避けられません。避けられないとしたら、逆境のなかで、私たちに何ができるのでしょうか。平常時にどんな力を蓄えておけば良いのでしょうか。 周りの大人が子どもにどのように関わることが役立つのでしょうか。逆境にある人の「レジリエンス」をうまく引き出すために、援助者がどんな関わりをすれば よいのでしょうか。
女性ライフサイクル研究所では、カウンセリングや講演、執筆活動を通して、幼い頃の虐待やさまざなトラウマ経験のある人たちと出会い、また子育て中の親や 子どもの育ちへの支援を行ってきました。これらの活動を通して得た知見を含めて、レジリエンスの様々な面についてとりあげました。レジリエンスについて考 えるヒントが満載です。


〈目次〉

●序/(女性ライフサイクル研究所)村本邦子
    レジリエンス~逆境を生き抜くために

●遊び/(女性ライフサイクル研究所)津村 薫
    遊ぶことは生きること

●トラウマを受けた子ども/(女性ライフサイクル研究所)小田裕子
    レジリエンスに着目した子どもへの支援

●レポート/(女性ライフサイクル研究所)森崎和代
    しなやかな子どもの心

●協同関係/(女性ライフサイクル研究所)渡邉佳代
    思春期の協同関係から生まれるレジリエンス

●非行/(女性ライフサイクル研究所)下地久美子
    非行歴を持つ少女のレジリエンスに学ぶ

●想像力/(女性ライフサイクル研究所)西 順子
    想像力とレジリエンス

●トラウマ・サバイバー/(女性ライフサイクル研究所)窪田容子
    トラウマからの回復とレジリエンス


96頁

 〈掲載論文〉
レジリエンス~苦境とサバイバル 村本邦子
想像力とレジリエンス 西順子

2005.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
『女性ライフサイクル研究』第15号(2005年11月発行)

人生の選択に迷うとき
新しいライフサイクルをめぐって


report15.gif人々の生き方は多様化し、選択肢が増え、一見、自由度は高くなった。年齢とともに、娘、妻、母と女性の役割が決められ、一定のライフコースに添って生きて いた時代と異なり、現代女性は、いつ、誰と、結婚するのか、いつ就職し、いつやめるのか、やめないのか、いつ、子どもを産むのか、産まないのか、何人産む のか、婚姻を持続させるのか、離婚するのか、再婚するのか、老親の介護をどうするのか、自分の老後をどう暮らすか、ありとあらゆることを選ばなければなら ない。そうれだけに迷いは多く、自由の幻想に惑わされたまま、実際には選ぶことなく、状況も流される可能性も高くなる。自由度が高そうでいて、じつは選択 肢に格差が大きく、妬みや恨みばかりが募る。こんななかで、現代女性は、どうやって賢明に自分の人生を形成していくことができるのだろうか。(本書「序」 より)


〈目次〉

●序/村本邦子
    現代女性のライフサイクルと人生の選択

●働く/渡邉佳代
    働くことを選択するとき
    ライフストーリーから働く意味の変容を追って

●からだ・性/西 順子
    産婦人科医・加藤治子さんへインタビュー
    女性トラウマとからだ・性

●子どもをもつ/安田裕子
    産み育てるということ
    不妊治療経験のある女性の語りから

●シングル/小田裕子
    「シングル」で生きるとき
    「個」の確立をめざして

●夫婦/窪田容子
    夫婦関係に迷いが生じたとき
    関係を見直す集団認知行動療法の試み

●離婚/下地久美子
    女性が離婚を選ぶとき
    自分らしい生き方を求めて

●制度/前村よう子
    女性の人生と社会制度
    三世代を想定して


92頁 1,050円

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2004.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
『女性ライフサイクル研究』第14号(2004年11月発行)

特集:戦争とトラウマ


report14.gif戦争のニュースを耳にしない日はないといっても過言ではないほど、戦争が身近なものとなりつつあります。海外ではここ20年、ホロコーストや戦争などマス レベルで起こつたトラウマの世代伝達についての研究が盛んに行われてきましたが、戦争による破壊は目に見えるものばかりではありません。マスレベルのトラ ウマは、何世代にもわたって私たちの人間性を蝕んでいきます。戦争の惨禍を繰り返さないために、今こそ、その破壊の恐ろしさを正視し、過去の戦争が意義あ る形で世代を越えて伝えられ、受け継がれてゆく必要があります。この本は、そんな戦争とトラウマの関連に迫る最初の第一歩です。


〈目次〉

●序/村本邦子
    戦争とトラウマ~語り継ぎと歴史の形成・教育
●特別寄稿/メアリーハーペイ(ハーバード大学/ケンブリッジ病院暴力被害者支援プログラム指揮者)
    日本におけるトラウマ研究と戦争のトラウマについて
 

1 戦争体験を語り継ぐ

●沖縄/下地久美子・渡邉佳代
    沖縄戦とひめゆりを語り継ぐ
●広島/西 順子
    広島被爆体験を語り継ぐ
●自己との対話/粟野真造(アンラーンの会世話人、元北教大非常勤講師)
    いくつかの戦争、自分史を見つめて~心の内戦、国家間戦争、内向きの軍隊、構造的暴力、性戦争

2 戦争の歴史と平和教育

●平和教育/小田裕子
    今日の中学生に見る「平和と戦争」
●レポート/原田光恵
    ある小学教翰のホームページにみる「平和教育」
●戦時・性暴力/窪田容子
    戦時・性暴力を防止するために
●女性の戦争協力/津村 薫
    銃後の女性の戦争協力を問い直す~国防婦人会の活動から


約138頁 1,050円

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2003.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
『女性ライフサイクル研究』第13号(2003年11月発行)

特集:ライフサイクルにおけるストレス・危機とケア


report13.gifライフサイクルの中で、ケアを必要とする時期である子育て中や老齢期ばかりでなく、障害、犯罪、大事な人の喪失などによっても、人はケアを必要とする状況 に何度も出会うものです。ケアされる立場、ケアを提供する立場の両方から、誰もが必要なときにはケアをうけ、できるときにはケアを提供する社会を展望し、 さまざまな立場からケアとその危機について論じています。


〈目次〉

●序/(女性ライフサイクル研究所)村本邦子
    ストレス・危機とケア 新しい価値の創造へ

1 ケアとジェンダー

●女性/(群馬パース学園短期大学教授)内藤和美
    「ケア役割」と危機
●母と娘/(女性ライフサイクル研究所)西 順子
    心理的ケアの喪失による女性の人生の危機
●レポート/(神戸ポリオネットワーク代表・全国ポリオ会連絡会役員)柴田多恵
    神戸ポリオ・ネットワーク(元「ポリオ女性の会」)の活動から

2 子どもとケア

●母親/(女性ライフサイクル研究所)窪田容子
    子どものケアと母親のストレス
●保育士/(女性ライフサイクル研究所)津村 薫
    保育士の役割と危機

3 高齢者とケア

●高齢者/(女性ライフサイクル研究所)前村よう子
    受ける立場から高齢者ケアを考える
●家族/(女性ライフサイクル研究所)窪田容子
    高齢者の家族介護とストレス
●介護士/(女性ライフサイクル研究所)前村よう子
    介護を職業とする者の役割と危機

4 ストレス・危機とケア

●ステップファミリーの子どもたち/(立命館大学大学院)桑田道子
    ステップファミリーの子どもたちのストレスとサポート
●レポート/(カウンセリングスペース「リブ」代表)佐藤まどか
    親の自殺を語る会
●養護施設の子どもたち/(兵庫教育大学教授)富永良喜 (兵庫教育大学大学院)養父雄一
    児童養護施設で生活する子どものためのストレスマネジメントプログラム
●犯罪被害者/(大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター専任講師)新 恵理
    危機における犯罪被害者へのケア 直接的支援の展望と課題


約170頁 1,050円

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2002.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
『女性ライフサイクル研究』第12号(2002年11月発行)

特集《非暴力プログラム─その思想と実践》


report12.gif非暴力の思想を伝え豊かな人間性を創るための、思想と実践について、各世代の非暴力プログラム、修復へのさまざまな試みについて書かれています。

〈目次〉


序 (女性ライフサイクル研究所)村本邦子

(1)非暴力の思想と実践

思想と実践 (女性ライフサイクル研究所)村本邦子
非暴力の思想と実践

(2)非暴力プログラム

子ども (女性ライフサイクル研究所)津村薫
非暴力の思想を伝え、豊かな人間性を創る

高校生 (立命館大学大学院)野池雅人・松田祥
暴力に頼らない自己実現を目指して

思春期 (女性ライフサイクル研究所)前村よう子
授業の中で非暴力を体験する

成人 (女性ライフサイクル研究所)津村薫
非暴力を学び、より良い生き方を探る

(3)修復

加害男性 (立命館大学教授)中村正
家庭内暴力の加害者たちとともに
非暴力グループワークの実践から

加害少年 (女性ライフサイクル研究所)村本邦子
グループ・プログラムによる女性との修復の試み

 (女性ライフサイクル研究所)窪田容子
虐待しない子育てのための、グループによる援助

被害女性 (女性ライフサイクル研究所)長谷川七重
ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者グループの試み

パートナー(妻) (女性ライフサイクル研究所)西順子
男女のパートナーシップを結ぶために


約130頁 1,050円

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2001.11.23 年報『女性ライフサイクル研究』
『女性ライフサイクル研究』第11号(2001年11月発行)

特集《子どもの虐待》


report11.gif危機介入、被虐待児への援助と治療、援助者のメンタルヘルス、虐待サバイバーの回復、連鎖を断ち切るための援助、予防、システムと法について考察しています。

〈目次〉


序 (女性ライフサイクル研究所)村本邦子
子ども虐待の理解と変遷

危機介入 (神戸女子大学)前田研史
虐待事例への危機介入的アプローチ

被虐待児の治療 (女性ライフサイクル研究所)西順子
被虐待児の心理と治療的アプローチ
セラピストとケアワーカーによる治療的関わり

子どもの日常を支える専門家 (女性ライフサイクル研究所)津村薫
子どもに関わる専門家ができることと、そのメンタルヘルスを考える
援助者のメンタルヘルス (女性ライフサイクル研究所)村本邦子

子どもと日常的に関わる人 (女性ライフサイクル研究所)窪田容子
虐待の被害から子どもを守るために、周囲の大人ができること

サバイバー (女性ライフサイクル研究所)村本邦子
虐待サバイバーの回復

虐待者
「虐待の連鎖」を断ち切る (女性ライフサイクル研究所)村本邦子
虐待のサイクルを断ち切るために 回復に向けての日々 koh

予防 (女性ライフサイクル研究所)前村よう子
虐待予防の実践 女性ライフサイクル研究所の試みから

システムと法 (大阪市立大学大学院)新恵理
子ども虐待の対応について 施行後の児童虐待防止法を考える


1,050円

>>神戸新聞2001年11月25日で本書が紹介されました。

>>朝日新聞2001年12月26日で本書が紹介されました。

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