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2005.08.01 FLCアーカイブ
NL特集:15周年記念シンポジウム「戦争・ジェンダー・トラウマ」報告

ニュースレター No.55 / 2005年8月 

特集 15周年記念シンポジウム「戦争・ジェンダー・トラウマ」報告

シンポジウム写真
シンポジスト 右から 
中村氏 内藤氏 大越氏 村本

 女性ライフサイクル研究所15周年を記念し、7月10日(日)、山西福祉記念会館にて、「戦争・ジェンダー・トラウマ」をテーマにシンポジウムを開催しました。小雨の降る中、遠方からもたくさんの方にご参加いただき、熱い一日となりました。

 女性ライフサイクル研究所では、設立以来、女性や子どもへの暴力・虐待と向き合ってきましたが、60年前の戦争責任とトラウマへの対処が未処理であることが暴力の加害・被害の問題に影を落としているのではないかと感じ続けてきました。心理学的観点からこの問題に眼を向けていく第一歩として、昨年、女性ライフサイクル研究所年報14号で「戦争とトラウマ」の特集を組みました。そして、次のステップとして企画したのが、このシンポジウムです。

 今回のシンポジウムでは、大越愛子さん、内藤和美さん、中村正さんをシンポジストにお招きし、社会学、女性学、男性学、それぞれの立場から、戦争についてお話いただきました。詳細については、次号でご報告しますが、大越さんは、従軍慰安婦の問題に触れ、彼女たちは被害者であるにもかかわらず、なぜ恥意識を感じて生き続けなければならなかったのか。権力の悪意を裁くことなしに、「正義」を取り戻すことができない。重い沈黙を強いられてきた被害女性たちの声を聞き取り、復元し、その意味を問い直す必要性についてお話くださいました。また、内藤さんは、暴力被害者の回復を支援するために、専門職の取るべきスタンスについて、まず信頼関係があること。当事者の力、自律性、主体性が尊重されること。当事者と援助者の関係を不均衡にしてはいけないこと。当事者自身が語れる状況を創ることの四点を強調されました。最後に、中村さんは、加害者男性について、いかにして学習パターンを変えていくか。社会がつくる男らしさ(masculinity)と暴力の関係。憎悪の時代の危険性について、さまざまな例をあげて、説明してくださいました。

 シンポジストの意見に触発され、シンポジウム後のディスカッションでは、会場から活発な意見が飛び交いました。「戦中は、正義の名のもとに、多くの男性や女性たちが、戦争に加担していったが、現代も、知らないうちに戦争へ組み込まれていく危険をはらんでいるのではないか」。「戦争の問題から眼をそむけていてはいけない。戦争体験者らの責任を私たちが自らの問題として引き継ぎ、次世代へ伝えていく使命がある」。「日本人として、加害性に向き合い、何が解決していないのかをしっかり見つめていかなければならない」。「加害・被害を複眼的な視点でとらえ、社会変化を起こしていくには何をなすべきか。そのためには、加害トラウマと被害トラウマの両方を聞いて、正しく苦しみ、正しく悩む。トラウマがきちんと受け止められることが大切なのではないか」などが話し合われ、とても有意義な時間となりました。

 戦争とトラウマの問題は、日本では、やっとスタートラインについたばかりです。私たちができることは、戦争体験者の声にじっと耳を傾け、証人として共に在ることなのではないでしょうか。このシンポジウムを足がかりに、一人でも多くの人が、戦争を過去のものにするのではなく、明日の問題として考えていくことができれば、それほどうれしいことはありません。今後も女性ライフサイクル研究所では、「戦争とトラウマ」について、さらに理解を深めていきたいと思っています。
(下地久美子)

◆八年前から沖縄の戦争体験者の研究をしていて、今回のシンポジウムは、大変興味深く参加させて頂きました。有り難うございました。三世代の人間として何ができるか、具体的にどういうことが始められるか、改めて考えさせられました。日々の活動を通して、おじい、おばあの魂の語りを聴かせてもらっていると、戦争体験は、辛い体験であると同時に、忘れてはならない体験だと感じています。
(うちなんちゅ~)

◆大越さん、内藤さん、中村さんの指摘のそれぞれに、「そうか・・・」と知った喜びを感じました。特に、内藤さんの指摘には、支援者としての居心地の悪さを解きほぐす端緒につけた気がした。
(石打澄枝)

◆アディクション、差別、暴力、全ては複雑にからまって、被害者、加害者は戸惑うばかり。社会システムは無傷のまま、その巧妙な装置を強化していく。その錯綜した問題(特に、女性に現れやすい、気づかれやすい問題)に、「戦争」「記憶」という一本の縦線を入れてみると整理しやすい。この輪を(小さくても)地方、全国に拡げましょう。ずいぶん、勇気づけられる人たちがいますよ。特に女性。そして、男性も救われます。
(小谷省吾)

◆「ジェンダーと戦争」について、国や社会のあり方を論じるものはよく聞くけれど、個人(しかも心)への影響に着目している話は初めて聞きました。とても関心を持てました。日本は、戦争の被害を語り継ぐことには熱心だと思う(児童書や教育現場など)けど、加害についての反省が少ないのではないかといつも思います。だから、「サバイバーの叫び」を聞くということは、とても大事だと思う。でも、そのときに、「同じ女性だから、わかるわー」と、安易な気持ちで物事を共有してはいけないという内藤さんのお話がとても大切になってくると思った。暴力について語る時だけでなく、差別についてなど、あらゆる「支配」について「語る側」となったときに、よく考えないといけない問題だと思った。あと、暴力をふるわれる側の女性からの提案は多くあるが、ふるう側の男性の視点が少なすぎると思っていたので、中村さんの話は「未来がひらけているなー」と思いながら聞いていました。
(エリザベス)

◆テーマ設定については正直言ってただただ頭が下がる思いです。よくぞ世代間トラウマ、戦争とジェンダーなど大きなテーマに挑戦されたと思います。
特に印象深いのは「この問題を意識化し相対化するのに、3世代60年が必要だったのかなあ」との村本所長の言葉です。今これだけ戦後問題、あるいは戦争責任の取り方の問題、従軍慰安婦問題、靖国問題などが、逆風の中にあるということと、「60年が必要だったこと」とは、決して無関係ではないと思います。これらの問題をどう扱い、いかに立ち向かうか。私達の真価が問われているのだと思います。今後もこの問題を継続的に扱いたいとのこと。「戦争・ジェンダー・トラウマ」これだけ大きなテーマから決して逃げない真摯かつ誠実な姿勢に改めて敬意を表したいと思います。
今回シンポジストがそれぞれ提起された方向性が、多くの市民に共有され、意識化されること。多くの市民が自らの問題として考えるようになる事を期待します。そして私自身、FLCとは視点・立場を異にしながらも、今回のシンポジウムで学んだことを生かしながら、改憲阻止に向けて尽力したいと思います。今後ともどうかよろしくお願いいたします。
(九条あきら)

※アンケート用紙にニュースレター、ホームページに掲載可として頂いたご意見・ご感想をすべて紹介させて頂きました。その他の参加者の皆さんからも、たくさんの暖かいメッセージを頂きました。この場を借りて、御礼申し上げます。

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