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FLCスタッフエッセイ

2014.11.30 性的虐待
性虐待の発見と対応・ケアを

                                            西 順子

今日はいいお天気の日曜日。掃除洗濯日和で嬉しい。久しぶりに一日家で過ごせる日は、命の洗濯デイ。

 少しほっと一息とSNSをちょこっと見てみると、友だちからの情報で、ある記事が目に留まる。弁護士ドットコムのニュース〈家庭内で起きている児童への「性虐待」、大人たちは子どもの「サイン」に気づけるか?〉。11月25日に子どもの性被害について考える内閣府主催のシンポジウムが開催されたと言う。

 記事は日本子ども家庭総合研究所で子どもの虐待問題を研究している山本恒雄さんの講演のもので、「子どもがぽろっと発したサインに大人が気づき、早期に調査・保護することが求められる」と語られていた。そして保護した後は、「トラウマとどう向き合うか、どう立ち直るかが問われます」とのこと。フランスでは、性被害にあった子どもに10年にわたって専属のソーシャルワーカーがつくと言う。日本でも中長期的支援を社会が保障していくことが求められている。

 山本さんとはちょうど2年前の12月、日本子ども虐待防止学会大会の分科会「身体と虐待~ソマティックアプローチの有用性」の発表者としてご一緒させて頂いた。ここにもぜひ紹介させて頂ければと、シェアします。⇒記事はこちら。

 ついでに、少し・・日頃思っていること・・。
 女性ライフサイクル研究所では1992年から性的虐待の問題取り組んできたが、子どもへの性虐待は家庭内にとどまらず、広い社会で起こっている。子どもの身近にいる顔見知りの人が加害者であることも多く、子どもの生活圏内、つまり家庭や親族内の他、保育所、幼稚園、学校、習い事、友達仲間・・等のなかで起こっている。加害者は大人から子どもも。性虐待が発見されたとき、子どものケアはもちろんのこと、子どもの家族への支援やケアも欠かせない。 

 そして、子どもへの防止教育と親や教師など子どもと関わる大人への予防啓発活動も重要だ・・。
研究所開設の初期は性的虐待の予防啓発活動に取り組んでいたが、今は被害にあった後の子どものトラウマケアに携わることがほとんどである。でも、予防教育・介入・保護・ケアと、第一次予防から第三次予防まで整っていければ・・と願っているので、また何か自分にできる予防啓発活動はないか・・ささやかなことでも自分にできることを自分の足元から考えてみたい。

 さて、そろそろ日も暮れてきた。明日からの一週間も、無事に乗り切れますように。一つ一つの仕事を丁寧に大切にしていければと思う。

■性的虐待の関連記事・文献
FLCエッセイ「カウンセリングの窓から~性暴力被害への理解と対応を」
FLCエッセイ「子どもへの性的虐待を考える~臨床的援助と予防と」
年報2号「チャイルド・セクシャル・アビューズとは何か」
年報2号「チャイルド・セクシャル・アビューズを子どもの様子から知る指針」
年報2号「サバイバーと関わる人のための手引き」
著作『子ども虐待の防止力を育てる~子どもの権利とエンパワメント』←性的虐待防止教育の実践のまとめ

2014.11.02 カウンセリング
カウンセリングの窓から~私って誰?、本当の私らしさって?


西 順子

 「私って誰?」「本当の私って・・?」「自分のことがわからない」・・など、カウンセリングをお受けするなかで、自分自身についての悩みをよくお聞きします。
 特に青年期は、「自分とは何か」「自分はこれからどう生きていくのか」と自分に問い、考える時期ですので、自分について悩むのは自然なことです。

 エリクソンは、青年期の発達課題は「アイデンティティの確立」として重視しました。「自分とはこういう人間だ」「自分は自分である」とはっきりとした自分を感じ、自分を発見的に知ることで、アイデンティティ(同一性)が形成されるといえるでしょう。

 さらに、アイデンティティ形成は、青年期のみならず一生涯を通じて続く無意識的な発達プロセスです。女性心理学によれば、女性は「個の確立」よりも「関係性」が優先されて発達すると言われます。現代では女性の生き方も多様化しているため、「個の確立」と「関係性」との相互作用の中で、自分らしさを獲得し、人生の段階によってアイデンティティも変容していくと言えるでしょう。

 今回ここでは、「私らしさ」について知るためのツールの一つとして、ギリシァ神話に登場する「7人の女神」を紹介したいと思います。7人の女神は、女性のなかにある「行動や感情に影響を及ぼしている内的な力」「強力な生得的パターン」あるいは「元型」を人格化したものです。
 これを理論化したのは、ユング派でフェミニストの精神科医ジーン・シノダ・ボーレンで、「自分が何者であるのか」について、女性のなかにある内なる力と、文化や家族がどう影響を及ぼすかの両方の視点から、「女神の物語」を通して記述しています。

狩りと月の女神・アルテミス
 短いチュニックをまとい、弓と矢をたずさえ、ニンフを従えて荒野を歩き回る、野生に親しんだ女神です。月の女神でもあることから、光の使者としても表されます。
 アルテミス元型は、女性の自信と独立心を表しています。好奇心旺盛で、自分の狙った目標に集中し、追求していくことに喜びを感じます。犠牲になっている女や幼い者への思いやりがあり、女同士のつながりを大切にします。男性とは対等につきあいます。
  
知恵と工芸の女神・アテーナー
 ゼウスの頭から、完全な大人の姿で飛び出してきたと言われる女神です。美しい戦いの女神として知られ、鎧に身を包んで、都市を守り、知性を支配していました。
 アテーナー元型は、論理的で計画的な性質です。よく物事を考え、感情的な状況のさなかでも冷静でいられます。英雄を好み、自分が見込んだ男性には、その片腕足らんとし、有能な部下(または妻)になります。手先が器用で、タピストリーなど美しく実用的なものを生み出す才能があります。

炉の女神・ヘスティアー
 炉の中で燃えている火の女神。画家や彫刻家によって、描かれたことがない女神です。人間の形で表されたことはありませんが、神聖なものを象徴し、儀式の中で非常に尊敬されていました。家庭や神殿や都市の中心で燃えている炎の中に存在しています。
 ヘスティアー元型は、日常生活になくてはならないものです。一人の人格のなかにヘスティア元型が現れることも同様に大切であり、自分が無傷であり健全だという感覚が生じます。ヘスティアーが求めているのは静かな心の安らぎであり、孤独のうちに見出せます。

結婚の女神・ヘーラー
 最高神ゼウスの配偶者、正妻として知られています。名前は「偉大なる淑女」を意味します。ギリシァ神話では対照的な二つの側面をもっており、一つは結婚の強力な女神として儀式で崇拝されました。もう一つは、復讐心に満ち、嫉妬深い女として貶められました。
 ヘーラー元型は、喜び、もしくは苦しみを生み出す強力な力です。妻になりたい女性の願望を表しています。パートナーがいないと根本的に何か不完全と感じます。絆を結び、パートナーに誠実となり、一緒に幾多の困難を乗り越えていく力を与えてくれます。

穀物の女神・デーメテール
 娘である乙女ペルセポネーの母親として崇拝されました。冥界のハーデスに誘拐された娘を不眠不休で捜しましたが、ついに失望して一切の女神の仕事をやめてしまったことから、地上の穀物が育たなくなりました。困り果てたゼウスのとりなしによって娘を取り戻すことができました。娘と再会してから、大地に豊穣を回復させました。
 デーメテール元型は、母親元型で、母親になりたいという深い欲求、本能を表しています。他の人を養い育て、寛大な気持ちで与え、世話をやいたりすることに満足を覚えます。育てたいという欲求が拒絶されたり邪魔されるなら、抑うつ状態になります。この元型の養育的側面は母親に限定されず、援助職など職業を通じても表現されます。

乙女、冥界の女王・ペルセポネー
 ハーデスによって地下世界に誘拐された女神です。神話の始まりは、無邪気な少女でしたが、成長してのち、冥界の女王として成熟した姿で描かれています。
 元型としては、永遠の乙女のようで、行動するのではなく他の誰かから働きかけられるのを待っています。従順に行動し、態度が受容的です。また二つの元型パターンとして、乙女から女王に成長するか、心の中で乙女と女王が存在するかになります。春を象徴し、若さ、生命力、新しい成長に向かう潜在力をもっています。

愛と美の女神・アプロディーテー
 誕生と起源には二つの説があります。一つはゼウスと海のニンフとの間に生まれた娘、もう一つは暴力行為の結果として生まれています(「ビーナスの誕生」として描かれています)。アプロデイーテーは錬金術(変容)の女神でもあります。インスピレーションを吹き込んで、変容と創造をもたらす愛の力を象徴しています。
 アプロディーテー元型は、女性の愛、美、性、官能の喜びをとりしきります。誰かに恋し、恋におちるとき、アプロディーテーが存在します。創造的機能、生殖機能の両方を成就させることができます。

 皆さんはどの女神たちに親近感をもたれたでしょうか? どの女神たちが内側にいると感じるでしょうか?
 どの女性の心のなかにも女神がいます。そしてまた、一人の女性のなかにも多くの女神がいます。どの女性も、女神から学び、ありがたく受け入れるべき「女神」から与えられた天賦の才を持っています。魅力、強み、潜在的な力が備わっているのです。
 そしてまた、子ども時代・思春期~成人期(仕事、対男性関係、対女性関係)~中年期~晩年と、人生のライフサイクルに応じて、7人の女神それぞれの人生の物語があります。傷つきと苦しみ、成長のための課題もあります。女神たちの人生の物語から、女神の素晴らしさを知ることはもちろんのこと、女性が苦悩や困難を乗り越える知恵や方法も教えてくれます。
 

 「私ってどういう人間?」「私らしさって?」「私は今どこにいて、これからどこに行くのか?」・・等、人生の道の途中で悩むとき、「女神の物語」を知ることでヒントが得られるかもしれません。自分のなかにある女神元型に気づくことで、「ああそうか」と私であることに納得し、「ありのままの自分でいること」を理解され、肯定され、力づけられたと感じられることでしょう。

 詳しくは、『女はみんな女神』をご覧ください。⇒こちらからダウンロードすることができます。

 なお、今年度は第一日曜日の午前中、『女はみんな女神』の読書会・女性心理学グループを開催しています。関心がある方はぜひご参加ください。⇒グループのご案内 

 女性が、私が私であることを肯定し、自分らしく、自分の人生の主人公となることを願っています。

2014.10.17 コミュニケーション
「あたりまえやん」,ほんとかな?  ――コミュニケーションのヒント――

 福田ちか子

 

  「そんなんあたりまえやん」「え~,空気読めへんなぁ」「最近の若い者は...」などなど,相手の行動に違和感があってつっこんだり,自分が言われて落ち込んだりする言葉の数々。つっこむ側にいるときは,結構イライラするし,言われたときは結構傷つくのではないだろうか。

 

  実はこれらは,ある一定の「常識」があって,相手や自分がそれを知っていることが前提になって初めて成立するということを,かつて友人から教わった。

 

  一度目は,アメリカに留学していた先輩から。

   突然だが,"古池や 蛙(かわず)飛び込む 水の音"という松尾芭蕉の句から,どんな情景が思い浮かぶだろうか。解釈の道は奥が深いので脇へ置くとして,目を閉じてイメージしたとき,そこに蛙は何匹いるだろうか? 私は,同じ質問をされたとき一匹の蛙が思い浮かんだし,本やTVでたまに見かける際のイメージ映像でも一匹の蛙のイラストが自然に添えられている。

   ところが,アメリカ人に同じ質問をすると,どうやら蛙が一匹とは限らないのだそうだ。初めてそれを聞いた時,「たくさんの蛙がポチャンポチャンと飛び込む......そんなん情景台無しやん!」と心の中でつっこんだ(英語に翻訳されたものには,"A Flog"と冠詞がついている。俳句や日本語に詳しくない英語圏の人が訳しようとすると,"Flogs"と複数になる場合もあるのだとか)。でも自分がそうだと思い込んでいることが,実はあたりまえではないのかもしれない,ということがとても新鮮だった。

 

   二度目は,イスラエル人の友人から。

 学生時代に,お互い留学生という立場で,彼女と仲良くなり,お互いの自宅に招き合ってお茶をすることになった。最初は友人のお宅へ,そして次は私の下宿へ。下宿に友人が来て,テーブルについて,ちょっとお部屋を案内という段になったとき...す~っと,ごく自然に,まるで自分の家のようにその友人が冷蔵庫を開けた。その瞬間の驚きといったら!後で友人に尋ねると,友人の文化圏ではあたりまえのことだそう。内(ウチ)と外(ソト)の境界の感覚が文化や生活圏によって違う,ということを肌で感じた瞬間だった。

   相手が,自分が,「知っていてあたりまえ」「わかってあたりまえ」という気持ちがあると,相手がわからなかったとき,自分がわからなかったとき,腹が立ったり傷ついたりする。そういったコミュニケーションの中で起こる違和感の小さな塊は放っておくと心に降り積もる。でも,実は「あたりまえ」ではないかもしれない,ということを心に留めておくと,今まで見えていなかった新しい側面に気がついたり,積もった塊を小さくすることができるように思う。

2014.10.06 カウンセリング
女性のストレスとストレスマネジメント

西 順子

 ストレスは、私たちが生きていくうえで避けることができないものです。何か生活に新しいことや変化があり、そのことに適応していかなければならない時、人はストレスを経験します。人は新しい課題に挑戦し、ストレスを乗り越えようとして成長していくものです。しかし、人生にはうまくいくときもあれば、なかなかうまくいかないときもあり、うまく乗り越えられないときには危機的状況となります。ときには予期せずトラウマとなるようなストレスを経験することもあるでしょう。

 女性のストレスには、対人関係、家族やパートナーとの関係からくるストレス、流産、不妊、妊娠・出産にまつわるストレス、育児ストレス、介護ストレス、職場ストレス、大切な人との別れ・・など、人生のライフサイクル上で起こる様々な出来事や状況があります。

 ストレスやトラウマを乗り越えていくには、たくさんの助けやケアが必要です。ここでは、ストレスを乗り越えていけるよう、ストレスと上手につき合う(=ストレスマネジメント)ためのヒントを提供できればと思います。

ストレスとは
 ストレスとは何でしょうか。ストレスという用語は、もともとは物理学の分野で使われていたもので、物体の外側からかけられた圧力によって「ひずみ」が生じた状態を言います。ストレスをゴムボールに例えると、ゴムボールを指で押さえる力を「ストレッサー」と言い、ストレッサーによってゴムボールが歪んだ状態を「ストレス反応」と言います。それをハンス・セリエ博士が生理学の領域で適用したのが始まりです。

 ストレッサ-には、物理的ストレッサー(暑さや寒さ、騒音や混雑など)、化学的ストレッサー(公害物質、薬物、酸素欠乏など)、心理・社会的ストレッサー(人間関係や仕事上の問題、家族の問題など)があります。私たちがストレスと呼んでいるものの多くは、心理・社会的ストレッサーを指しています。
 また、ストレッサーには、日常的に起こる厄介な出来事(デイリーハッスル)やライフイベント(人生のなかでの大きな変化。死別や失業、結婚や就職など良いことも悪いことも含まれます)、トラウマとなりうる出来事(自然災害、人的災害、交通事故、暴力被害など)もあります。

 セリエは「ストレスは人生のスパイス」と言いました。ストレスが適量なスパイスとなれば、人生を豊かに味わい深いものにしてくれます。しかし、ストレスが過剰であったり、ストレスとのつき合い方がうまくいかないと、害が生じてしまいます。心身の健康に影響を与えます。

●ストレス反応
 ストレッサー(ストレス状況)によって引き起こされるストレス反応は、身体面、心理面、行動面に現れます。

身体面:不眠、睡眠過多、食欲不振、食べ過ぎ/飲み過ぎ、下痢/便秘、胃痛、頭痛、
     身体のふしぶしの痛み、肩こり/腰痛、動悸・息切れ、過呼吸・・

心理面:イライラ/怒りっぽい、抑うつ(気分の落ち込み、興味・関心の低下)、不安感/緊張感、     無気力、集中できない、自分を責める、悲観的思考/否定的思考・・

行動面:引きこもり、攻撃的行動(人や物にあたる)、アルコール量やタバコ量の増加、ミスの増      加、能率が悪くなる、遅刻・早退・欠勤の増加、金銭の浪費・・

 ストレスを感じたとき、心や身体が変化するのは自然なことです。ストレス反応はストレスのサインです。何より「気づき」が大切です。ストレス反応は人それぞれ違いますので、自分にはどのようなストレス反応が生じやすいのか、自分の特徴を知っておくとよいでしょう。
 ストレスのサインに気づいたら、ストレス反応が軽減するよう、ストレスと上手くつきあっていくための対処(=コーピング)を工夫してみましょう。

●コーピング
 ストレスに対する対処行動をコーピングと言います。コーピングには主に、問題焦点型コーピング、情動焦点型コーピング、認知に対するコーピング、ソーシャルサポートがあります。

・問題焦点型コーピング:情報を収集して問題の所在を明らかにし、問題そのものを解決しようとする方法です。問題解決のために積極的な行動にでる、話し合う、状況を変化させる・・などがあります。

・情動焦点型コーピング:直面している問題にとらわれないように気晴らしをしたりして、ネガティブな情動的なストレス反応そのものを軽減させる方法です。散歩する、漫画を読む、カラオケ、映画をみる、音楽を聴くなどの気分転換、瞑想や自立訓練法、アロマテラピーなどリラクセーションの方法もあります。睡眠を十分にとること、栄養のある食事、休養や適度な運動なども大切です。

・認知的コーピング:認知とは、ものの考え方や見方のことで、それ感情や気分に影響することがわかっています。私たち誰にでも「認知の癖」がありますが、「バランス良く柔軟な考え方をすること」が大切です。例えば、「失敗してしまった」というとき、「もうダメだ。どうせ私は何をやってもうまくいかない」と考えるとドンドン落ち込みます。でも、「失敗は成功の元。何がよくなかったか原因を考えて、次また活かしていけばいいんだ」と思うと、落ち込みも緩和されるでしょう。

・ソーシャルサポート:友達、家族、職場の同僚や上司など人に相談したり、話を聞いてもらうことです。人は、批判したり否定されたりせずに、「そう思うのね」と肯定して話を聴いてもらえると、それだけでも随分とほっとするものです。あなたが信頼できる人に話を聴いてもらいましょう。助けを借りて、自分を労わりケアしましょう。

 みなさんは日頃、どのようなコーピングを使っていますか?人によって有効な方法は違うので、自分のやりやすい方法を見つけておくことが大切です。ストレスの種類や程度によっても有効なコーピングの方法も違うので、いろいろなコーピングの方法を身につけておくとよいでしょう。

 しかし、対処できないほどのストレッサーを経験したり、ストレッサーが長期間続いたりするとストレス反応も慢性化してしまいます。さまざまなコーピングを使っても症状が長引く場合は、早めに専門家に相談しましょう。

●リラクセーション法
 情動焦点型コーピングの一つ、リラクセーション法を紹介しましょう。リラクセーション法は、ストレス反応を低減させ、リラックス反応を誘導し、心身の回復機能を向上させる方法です。リラックス反応は、環境や刺激が、安全・安心で、脅威でないと判断したときに起きる反応で、副交感神経系の活動が優位な状態にあります。多くの文化圏で古来より様々なリラクセーション法が実施されてきましたが、近年、医学的にもその有効性が確認されています。

 リラクセーション法には、漸進性筋弛緩法(筋肉の緊張と弛緩を繰り返し行うことにより身体のリラックスを導く方法)、呼吸法、アファメーション(自分を励ます言葉を声に出す)、瞑想法、自律訓練法、芳香療法(アロマセラピー)、ヨガなどがあります。ここでは、セルフケアとして簡便にできる呼吸法を紹介しましょう。

腹式呼吸法は、下腹部が膨らんだり、へこんだりするように呼吸する方法です。(臍の上に手をあて)体の力を抜いたまま、口からゆっくりと息を長く吐いていきます。このとき下腹部をへこます感じで息を吐いていき、苦しくならないところで、下腹部を膨らませる気持ちで、鼻から息を自然に吸っていく。これを繰り返していくのが腹式呼吸です。
 吐く息に気持ちを落ち着ける効果があるので、吐く息に注意を向けて、ゆっくりと息を吐いていきます。この時に、「リラ~ックス」「落ち着いて~」と体の緊張も息とともに吐き出すようにイメージしながら脱力すると、リラックス効果が高まります。一回5~10分程度行いましょう。

 ストレスに気づいたら、早目の対処が必要です。女性ライフサイクル研究所では、女性が人生で出会うストレスについて、カウンセリングでのご相談を受けています。心身の健康を回復し、ストレス状況を乗り越えていけるよう、ストレス対処からストレス・ケアまで、共に考えていければと思っています。

参考文献:
『女性ライフサイクル研究13号:特集ライフサイクルにおけるストレス・危機とケア』
『女性ライフサイクル研究19号:からだの声を聴く』
『ストレス・マネジメント入門』中野敬子著、金剛出版。・・など。

2014.09.07 ライフサイクル
女性のライフサイクルと仲間

西 順子

 8月最後の日曜日、30年ぶりに大学の友達と再会を果たす。場所は京阪神と中国・四国地方に住む友達との中間地点、神戸三ノ宮。まず開口一番「変わってない~!」「声もしゃべり方も変わってないね~!」と互いに再会を喜び合った。

 ランチは友達お勧めのイタリアン・レストラン。ホテルの17階にあるレストランの窓からは神戸の山が見えてロケーションも最高。見た目も綺麗で美味しい食事を頂きながら、思い出話から近況まで話も弾む。思い出話には、私自身が覚えてなかったり、忘れていたりするエピソード、しかも面白いエピソードに思わず赤面。大笑いしながらも、自分は覚えてなくとも、友達の記憶のなかで私を覚えてくれていることに、ありがたい気持ちになる。自分が覚えている当時の記憶に、友達から聞くエピソードが加わり、当時の自分の姿が多面的になった。人生のある時期を共に過ごしてきた仲間、思い出話を語れる仲間がいることをしみじみと有り難く感じる。

 話は、大学卒業後から就職、結婚、子育て、家族の生老病死・・などを経て、今取り組んでいる仕事や家族との関わり、そして更年期を迎えての体調のことや目の前に迫っている親の介護にも話が及ぶ。女性の人生30年のライフサイクルを、皆それぞれが生き抜いてきたんだなと、しみじみと愛おしい気持ちになった。そして30年を経ても、その人らしさは変わらず、その人らしく仕事をしたり、活動をしたり、子育てをしたりしていて、マトリョーシカ人形のように、当時の姿と今の姿が重なった。時空を超えて「今、ここ」に一緒にいることが不思議で、とても懐かしくも温かさに満たされた。
 
 大学時代は親許を離れて下宿し自分の人生を歩み出した過渡期、そして今、中年以降の人生をどう生きるかと歩み出す過渡期と、女性のライフサイクルの思春期後期と更年期は共通点が多いことに気づく。過渡期に迷いや悩みはつきものだが、過去・現在・未来と縦軸だったり、家族や人との関わりとの横軸だったりと、縦横に行きつ戻りつしながら時空を超えて話をしていると、普遍的なつながりを感じて、心が楽に自由になれる。それぞれの人生は違っても、女性として、ライフサイクルの段階を共に歩む仲間がいることは心強い。

 楽しいひと時の後、余韻を味わうように女性のライフサイクルについて思い巡らせた。年報創刊号「女性のライフサイクルについての試論」(1991,村本)を読み返す。結論として書かれていた「・・結局のところ、重要なのは、各々が自分の人生を全体との関係のなかでとらえていき、しかも、個人を超えた力や他者とつながりながら、自分の人生を生きていくことである」という言葉に納得。「生かされている」という謙虚な気持ちを忘れずに、他者とのつながりを大切にしながら、自分らしく歩んでいければと思う。

 女性ライフサイクル研究所は伸び伸びと自由に自分の人生を生き、自分とは違った他者をも受け入れ、社会全体がもっといきいきと活気づくことを願って設立された。これからも女性のライフサイクルに寄り添いながら、生命を信頼し、生命の声を大切にする場所であり続けたいと願う。

2014.08.24 本/映画
思い出のマーニー~思春期のこころ~

                                                                                                                           

                                                                                                                          仲野 沙也加

  先日、今話題のジブリの映画、「思い出のマーニー」を鑑賞した。

 物語は12歳の主人公 アンナと不思議な女の子マーニーの話。不思議で、優しくて、せつない中に温かさを感じる物語。原作はジョーン・G・ロビンソンで長年親しまれている児童文学の一つである。この物語は、アンナとマーニーの友情を描く前半と、不思議なつながりの秘密に近づいていく後半で構成されている。舞台は北海道で、豊かな自然に囲まれ、日常の中にある非日常な空間が綺麗に描かれている。

 「思い出のマーニー」には思春期のテーマや、愛着対象の不在のテーマが背景に存在している。自分のことが嫌いで人の輪の外にいると感じる主人公アンナ。多くも少なくも自分と周りとのズレを感じる思春期。アンナには思春期特有のアンバランスさがあり、物語の感情ラインにも独特の緊張感を与える。信じるものを探して大人になっていく。異性では描けない同性同士のつながりや問題をジブリらしい流れの中で魅せられていく。心の支えとなる同性同士の絆や愛情、心のつながりの大切さを通して成長していく少女の過程が描かれている。

 この作品のキャッチコピー、「あなたのことが大好き」という言葉。監督である米林宏昌氏は、「きっとあなたのことを愛してくれる人がいる、誰かに愛されている、あなたも誰かを愛することができると感じてもらえたらいいなと思いながらこの作品を作りました」とコメントしている。

 さてこの映画は不思議なマーニーの謎を考えながら観るとさらに楽しむことができる。

・マーニーは誰なのかとはどういう意味?

・マーニーを誰かが演じている?

・マーニーという存在は実在しない?

 答えは映画の最後まで観ないと分かりません。映画のところどころにヒントが隠されている。映画は苦手という方は原作もとても素晴らしく、読むたびにいろんな発見ができる読み物であり、おススメしたい作品である。

 

2014.08.13 カウンセリング
『モモ』の世界と現代社会 ――時間泥棒...VS心理療法?!――



福田ちか子

 お盆前の多忙な時期,気がつけば,「最近忙しくて~できないなぁ」とか,「なんか楽しいことないかなぁ」とつぶやいている。 そんなおり,必要にせまられて学生の頃国語の教科書に載っていた『モモ』(ミヒャエル・エンデ作,大島かおり訳,岩波少年文庫)を手に取ると,そこには思いがけず立ち止まって考えることの大切さや,毎日にただ流されていくことの怖さにハッと気づかせてくれる物語が広がっていた。

 物語の主人公モモは,どこの誰ともわからない小さな女の子。ある日突然街にあらわれ,街の人たちに住みかを修理してもらったりご飯を分けてもらったりしながら廃墟に住み着いて暮らしている。モモは街の人たちにとって大切な存在になった。モモが,だまって話を聞くと,喧嘩をしていた人も,悩んでいた人も,自分自身と向き合って,自分の意志に気づくことができるのだ。モモが特別なことをするわけではない。モモは、ただだまって聞くだけ。物語の街は,そんなモモを受け入れて,モモの大切さに気づくことができる街だった。 

 そんな街が,人間から時間を盗もうと企む「灰色の男たち」によって,規律だらけで窮屈でせかせかした世界に変わってしまう。――もしもちゃんとしたくらしができてたら,いまとはぜんぜんちがう人間になっていたろうになぁ―― そんな大人たちの心は,「灰色の男たち」に付け込まれ,「良い暮らし」のためと信じて必死に時間を節約する毎日に追われていく。大人たちは,時間を節約することばかり考えて,時間を無駄にすることがとんでもない罪となり,イライラしたり互いを責めてばかりで,モモのことをすっかり忘れてしまった。

  子どもたちも,「灰色の男たち」に支配されてしまった。

  子どもたちはモモと一緒に、いつも新しい遊びを考え出して遊んでいた。子どもたちにとってはモモが心の中心人物で,モモがいなくても、モモがいるかのように遊ぶと、段ボールが海賊船になったり,石ころが宝物になって、イメージがどんどん広がり楽しい遊びを工夫できた。

 「灰色の男たち」は子どもたちを支配するのにとても手を焼いたが、大人たちを使って子どもたちの心を支配することにした。大人が時間を無駄にしないために、将来時間をたくさん節約できる大人に育てるために、と大人をそそのかした。子どもたちは決まった場所に放り込まれ、大人に教えられた決められた遊びしかできなくなってしまう。そのうちに、子どもたちは、楽しいと思うこと夢中になることを忘れて、大人たちと同じ顔つきの「小さな時間節約家」になってしまう。子どもたちは、最後には自分たちの好きなようにしていいといわれると、こんど何をしたら良いか全然わからなくなってしまうのだ。そしてモモとも遊べなくなってしまった。

 訳者の大島さんは、モモは「自然のままの人間」のシンボルのような子だと述べている。別の言い方をすれば、モモはありのままの自分のシンボル、とも言えるのではないかと思う。そう考えると、モモを大切にする=ありのままの自分を大切にする、ことによって、自分自身の気持ちに耳を傾ける余裕が生まれたり、落ち着いた気持ちを取り戻せたり、本当にしたいことに気づけたり、楽しむ力が湧いてきたりするところが、とてもしっくりくる。

 モモがどんな風に「灰色の男たち」から時間と元通りの街を取り戻したのかは、まだ読んでいない人のために取っておくけれど,物語の中では,「灰色の男たち」に立ち向かうために、過去・現在・未来のそれぞれの大切さに気づくことや、友だちとつながっている感覚を実感すること、心地よい音楽や香りを体験すること、成長するために深く眠ることなどが、とても重要な意味をもっている。

 これら一つ一つが、様々な心理療法の中で心身の回復や支援のために重要と考えられていることとリンクすることが,とても興味深いことだった。私たちの心にも「灰色の男たち」が深く入り込んでいるように感じる。そういう意味では,心理療法が「灰色の男たち」に立ち向かい,モモを大切にする心のゆとりを取り戻す役に立つことがあるともいえる。

  読み終えて,大切なもののために,自分のために,自由に時間を使う心地よい感覚を思い出せたように感じた。忙しい日々だけど,ちょっと立ち止まって考えることも大切にしたいなぁと,あらためて反省反省。次の休日は,ゆっくり時間をつかうことにし~よう♪

2014.08.09 DV
DV被害者支援と支援者支援

西 順子

 来月、第4回目となる「DV被害者のトラウマと回復~女性と子どもの視点から援助を考える」講座(以下、DV講座)を開催する。

 これまで女性ライフサイクル研究所を中心としながら女性センターで数年、総合病院で数年以上、「カウンセリング」という枠組みでDV被害者の支援に携わってきたが、現在進行形のDVの場合、多層的に様々な支援や連携が必要であると実感してきた。特に、DV家庭に子どもがいる場合、子育て支援は欠かせない。レジリエンス(回復力)を強めるためには何が役立つのか、何が必要か、どんな支援が求められるか・・等、当事者の方々からたくさんのことを学ばせてもらってきた。

 DVに晒された母子を支えるためには、女性への支援、子どもへの支援、母子への支援と、福祉、司法、医療、教育/保育、心理などの支援から生活コミュニテイでの支援(友人、知人、地域の方々)まで必要であり、危機介入から中・長期的支援まで長期的スパンにたって、切れ目なく支援がつながるよう支援システムを整えていく必要がある。
 そのためには、安全なコミュ二ティへの「橋渡し」となるような支援が必要であると、このDV講座を企画した。支援者同士が互いに学びあい、つながれるよう、ネットワーク作りも視野に入れて、今年で開催して三年目を迎えた。これまで女性相談員、母子支援員、助産師、児童相談所ケースワーカー、子育て支援センター相談員、心理カウンセラー、教師・・など、DV家庭の母子と関わる様々な立場の皆さまにご参加いただいてきたが、問題意識や経験を共有しながら共に学びあえる「場」となっていることは本当に有り難いことである。

 そして本講座終了後も、受講くださった方々が継続して学びあい、支えあい、エンパワメントできる場を創りたいと、当初より「フォローアップ・グループ」もセットで企画し、現在まで年二回のペースで開催している。こちらのグループは、活動の趣旨からNPO活動の「支援者支援」として位置づけているが、参加くださった皆様に好評であるピア・グループスーパービジョンと、セルフケアのためのアートセラピーも定例となってきている。緩やかに、細くとも長く続けていければいいな・・と願っている。

 この支援者支援グループの発想は、これまで講師として関わらせて頂いたり、グループに参加させて頂く機会があったDV被害者支援グループの活動に触れてのことである。この出会いも、長期に渡って村本が講師を務めてきた婦人相談員の方々との温かいネットワークがあってのこと。熊本、長崎など九州で活動している支援者の皆さまのコミュニティに参加させて頂き、「温かくサポーティブでエンパワメントの場、いいなぁ~。こんな場が大阪にもあればなぁ~」と思い、「それなら自分に必要な場を自分たちで作れれば・・」というのが原点である。なので、主催者としてこの「場」を提供してはいるけれど、私も支援される一人として、仲間とのつながりを感じ、エンパワーされている。このグループは、私にとっては一つの居場所でもある。

 こんな講座ができればいいな~、こんなグループができればいいな~と思っても、一人ではできない。趣旨に賛同してくれて、思いや志しを共有し、共に歩んでいける仲間の存在、サポートし応援してくれる仲間の存在があってのことである。また、講座に参加くださった皆さま、継続してグループに参加してくださる支援者の仲間があってのことである。

 コミュニティのなかで被害者へのサポートが網の目のように張り巡らされることを願いながら、DV被害者への支援、支援者同士の支援と、私たちにできることを一歩ずつ積み重ねていければと思う。
 今年の講座、ぜひ皆さまのご参加をお待ちしています。

※関連ページ:
1. 今年度の講座「第4回DV被害者のトラウマと回復☆女性・子どもの視点から援助を考える☆」のご案内
2. DV講座、フォローアップグループを共に創ってきた桑田道子さんが代表を務めるVi-Project(子どものための面会・交流サポートプロジェクト)のホームページのご紹介
3. 参加者の皆さまから頂いた感想のご紹介

2014.07.23 カウンセリング
カウンセリングの窓から~性暴力被害への理解と対応を

西 順子

 女性ライフサイクル研究所では1990年の開設当初より、「子どもへの性被害/性虐待」の問題に取り組んできました。子どもへの性的虐待防止教育の実践、意識啓発活動に始まり、性的被害の関西コミュニティ調査、グループセラピーなど新たな手法も試みてきました。こうしたプロセスを経て、私自身はこの10数年、トラウマ臨床に力を注ぎ、個人カウンセリングを通して回復支援に携わってきました。 

 トラウマ臨床は日進月歩と言われますが、カウンセリングに来談くださった方のお役にたてるよう、新しい情報に目を向けるよう努めています。どうすればトラウマとなった出来事が過去のこととなり、「今」を生きるお手伝いができるのか、心と身体の健康を回復していけるのか・・と、様々な心理療法を学ぶなかで、EMDRやソマティック・エクスペリエンス(SE)というトラウマ療法との出会いもありました。トレーニングを通してトラウマと身体について理解を深め(今も現在進行形)、身体の叡智(=生体に備わる自然治癒力)を知るなかで、その学びと経験を臨床に役立て、回復への道案内ができればと願って取り組んでいます。生命には、回復力、自然治癒力が備わっていることを尊いことと思います。

 一方で、社会の中で性暴力被害が後を絶たないことには痛みを感じます。女性ライフサイクル研究所でのカウンセリングは、性暴力被害の長期的影響(子ども時代のトラウマ)へのご相談を受けることが多いですが、病院臨床では性暴力被害直後あるいは性暴力が発覚した後の短期的影響について、特に子どもやご家族のご相談を受けることが多いです。子どもへの性暴力が社会問題として認知された今も、子どもへの性暴力/性虐待が後を絶たないことには胸が痛みます。

 コミュニティ心理学の予防の概念によると、第一次予防は「発生予防」、第二次予防は「早期発見と早期対処、危機介入」、第三次予防は「回復への支援と再発予防」となります。近年、性暴力被害者支援センターが各地で立ち上がっていますが、公衆衛生の問題として、第一次予から第三次予防まで、予防の観点から更なる支援体制の充実が求められます。

 まず私が臨床で関わっているのは第二次予防、第三次予防ですが、子どものトラウマ臨床においては、さまざまな工夫が必要だと実感しています。子どもは性暴力被害の影響を言葉で表すことは難しく、行動上の問題や身体症状として現れることが多くなります。特にトラウマの回避反応、解離症状は表面的には見えにくいため、アセスメントが必要です。
 子どもに「どうやって、しのいでいるの?」と対処を尋ねると、様々な対処戦略を使ってしのいでいることがわかります。しかし、回避や解離(トラウマとなった出来事を切り離すこと)は一時的には役立ちますが、解離された「恐怖」が残ってしまう等、メンタルヘルスに長期的な影響を与えます。恐怖を少しずつ消化・解放しながら、生活全般が安定し落ち着いた後に、トラウマ記憶に焦点をあて、トラウマの中核にある恐怖を消化しておくことが必要と考えています。

 被害直後のケアから、中・長期的な影響のケアまで、子どもや家族に対して、医療、心理、司法、教育、福祉・・など多層的な支援が必要です。これからもトラウマ臨床に携わりながら、第一次予防から第三次予防まで性暴力被害者への支援体制が整うことを願い、被害者支援機関・支援者との連携、協働、ネットワークづくりに努めていければと思っています。

 なお、下記に性暴力被害にあった直後に見られる反応とご家族や周囲で支える方に求められる対応についてまとめました。早期発見と早期対応の参考にして頂ければと思います。

※社会資源の一つとして、被害者支援ポータルサイト(立命館大学法心理・司法臨床センター)も紹介させていただきます。⇒ http://www.lawpsych.org/higai

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■被害直後に起こりやすい反応

直後のショックが落ち着いたあとも、しばらく不安定な時期があります。一ヶ月後くらいまで、次のような症状がみられることもあります。疲労や苦痛がひどい時、長引く時には、専門機関に相談しましょう。

自分の気持ちがひどく動揺し、混乱していると感じる。
□精神的にとても不安定だと感じる
□抑えられないような怒りや悲しみを感じる
□気分の浮き沈みが激しく、落ち着かない

心や身体が麻痺してしまう
□事件の時や前後の記憶がない
□事件の時に身体が凍りついたような感じがした
□事件が他人事のような感じがする

事件に関することが頭によみがえってくる
□考えたくないのに頭に浮かぶ
□事件の夢を見る
□事件を思い出させるようなものを避けるようになる

落ち着かない
□夜寝つけない、眠りが浅い、途中で眼を覚ます
□イライラして落ち着かない
□集中力がなく、テレビが見れない、本が読めない
□いつも警戒してビクビクする、物音に敏感になる

■回復のために

被害後に、身体と心に起こる変化を理解して、回復のために必要なケアをしてあげましょう。あなたのペースで、できることからはじめましょう。

からだと心を休め、いたわりましょう。
□十分な休息をとりましょう。
□十分な睡眠と、健康的な食事をとりましょう。
□リラックスできることをしましょう。
 (呼吸法、瞑想、気持ちが落ち着く音楽を聴く等)

自分の生活を取り戻しましょう。
□マイペースを心がけましょう。
□いつもの日課を維持するようにしましょう。
□適度な運動をしましょう。
□気分転換をしましょう(趣味、読書など)。
□日記をつけましょう。

助けを求めましょう。
□信頼できる人に、体験や気持ちを話して支えてもらいましょう。
□信頼できる人に、そばにいてもらいましょう。
□あなたが必要としていることを伝えましょう。

■ご家族や周囲の方へ
 自分の大切な家族や友人が被害にあうと、周りの人も動揺してしまい、どうしてあげたらよいかと途方に暮れてしまうことでしょう。あなたの大切な人を支えるために、できることがあります。多くの人は、自分のことを大切に思ってくれる人とのつながりに支えられて、回復していきます。

安全が第一です。安全な場所で安心して過ごせるように、できることを考えてみましょう。
□傍にいて、一緒に時間を過ごしましょう。
□日常生活の援助や外出する時の付添など、相手への関心、配慮、思いやりを示しましょう。

話をじっくりと聞きましょう。
□無理に聞き出すことは禁物です。
□気持ちや反応を認めましょう。批判したり、自分の考えを押しつけてはいけません。
□自分を責めている場合には、「あなたは何も悪くない」と話すことも役に立ちます。

そして、ご自分もいたわり、セルフケアにも心を配りましょう。

●女性ライフサイクル研究所では、性暴力被害についてのご相談を受けています。
 カウンセリングのページも合わせてご覧ください。

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[参考文献]
村本邦子(2004)「性被害の実態調査から見た臨床的コミュニティ介入への提言」心理臨床学研究  vol22、No.1
村本邦子、西順子、前村よう子(2005)『子ども虐待の防止力を育てる』三学出版。
パトナム,F W(2011)「性虐待を受けた子どものアセスメントと治療」フランクパトナム来日講演資     料、フランクパトナム招聘委員会。

2014.07.02 コミュニケーション
祖母と孫―ジェネレーションギャップ編―

福田ちか子

 

 うちの祖母は、御年90歳になる。7年前に祖父が他界し、一人暮らしだ。90歳になり、これまでの人生をふりかえって、いろいろ思うところがあるご様子。そんな祖母をみていると、孫にもいろいろ思うところがでてくる。

 ◎自分の人生は人と比べて平穏だったとこぼす件。

 毎朝新聞を読むのが日課の祖母。祖母の中では、ニュース欄も、ゴシップ欄もTV欄も同じ扱い。「美智子さま(皇后陛下)も大変ねぇ...」「最近はやれ離婚離婚て多いわねぇ...」「大野君はいろんな人に人気らしいわ(90歳、嵐ファン!!)」。そんな祖母だが、TVで人様の波乱万丈の人生を見聞きするにつけ、自分は平凡な人生だったわ...世間知らずなままだわ...などとぼやく。

 ......何をおっしゃるやら。祖父の兄に気に入られて、祖父の顔を知らずに結婚が決まった祖母。当時満州にいた祖父のもとへ祖父の兄が送った≪ヨメキマル≫の電報一つで夫婦になり、そのまま満州へ。満州で終戦を迎え、ロシア兵から逃れ、夫婦で1歳の娘を抱えて引き上げのご経験ありだ。

 孫世代からみると、驚愕の結婚事情だが、当時はそれが当たりまえ。今も疑う余地なくあたりまえだったと感じている祖母の目には、現代の自由な結婚事情はとても大変なものと映るようだ。〈おばあちゃんの方が大変やったやん〉と伝えたいが、そこはなかなか伝わらず、もどかしい。

 

 ◎恐竜が現代に実在すると信じそうになる件

 いつだったか祖母とTVを観ていて、たまたまロードショーのジュラシックパークが映った時のこと。グラント博士と子どもたちがラプトル(小型の恐竜)に追いかけられるシーンを見て、「あらこわい。これって本物?」と一言。その時、CGがピンとこない祖母に、簡単に説明ができないことに気づいた。CGかどうかの区別って、私たちはどこでつけているんだろう...??? 映像がリアルになればなるほど、現実と空想の境界が曖昧になる...というのはよく耳にするが、身近に実例がいた。

 TVを見ているとき、孫世代の私たちは、自然と現実かそうでないかを判断して映像をみているけれど、祖父母世代には全部現実のように映っているのかもしれない。そう思ってメディアの情報を見ると、祖父母世代は混乱するだろうなと思ったり、実は孫世代が現実だと思っているものもフィクションなのかもしれないと怖くなったりする。

 

 ◎曾祖母の気持ちがわかるわぁと祖母がぼやく件

 ここ20年ほどで、IT化は急速に進んだ。15年ほど前には、誰でもが電話を携帯して道を歩いてはいなかったはず。携帯電話普及の波には何とか乗った祖母だが、インターネットの波には乗らなかった(乗れなかった?)。ネット環境が前提で情報提供がなされているご時世。≪詳しくはWebで!!≫≪今日LINEでさ~≫≪facebook上のトラブルで...≫等々。《犯人はPCを遠隔操作して...》と,祖母が好きな刑事ドラマのトリックまでもがIT化だ。

 情報についていけない悔しさや、ネットが当たり前の現状への憤り、もはやついていく気力はないあきらめなど、複雑な心境がうかがわれる。そんな中、「給湯器が普及してきたときのお母さん(曾祖母)が、世の中変わるなぁ~ってぼやいてた気持ちが今わかるわ」と、繰り返しつぶやいている。孫世代が祖母世代に変わるころには何が起こっているのだろうか...

 

 こうしてみると、時代の変化の中で、祖母世代と孫世代では、ジェネレーションのギャップが大きすぎて、孫世代はもどかしい。相手が自分と同じ世界観だと思い込んで話をしようとすると、かみ合わないことこの上ない。ここまで来ると、異文化交流のような気がしてくる今日この頃だ。最近の変化が特に激しいのか、やはり昔から繰り返されてきたことなのだろうか...。祖母世代も同じ気持ちを感じているのだろうか...。

 ついつい、新しいことに対応できる方が偉いように錯覚して〈そんなことも知らんかったん?〉と上からの視線や口調になってしまうこともあるけれど、祖母の話の中には、キラリと光る生活の智慧が隠れていることがあるので、侮れない。祖母世代の経験智、大切にしたいと思う。

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