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FLCスタッフエッセイ

2024.04.03 仕事
復職についての豆知識⑥ 復職後の再発予防

西村 麻里 

 復職についての連載エッセイ、ついに最終回となります今回は、復職後の再発予防についてお話したいと思います。休職中は復職を一つのゴールととらえて過ごすことが多いでしょうが、そこからまた長く職場で働いていくことを考えると、その再スタートの地点でもあると言えます。再発・再休職を防ぐためにも、復職が近づいてきたら、復職後の過ごし方にも目を向け、また実際に復職した後も常に再発予防の意識を持ちながら過ごしていきましょう。

 

 特に復職後最初の3ヶ月は、心身ともにデリケートで疲れやすく、再発しやすい時期と言われています。その大きな理由の一つが、気持ちと実際のパフォーマンスとの落差です。この時期は就業時間中職場に身を置いているだけでも心身がかなり疲弊し、いきなり一人分の役割や業務をこなすのは難しい状態なのですが、復職できたことにより気分が高揚したり、周りへの申し訳なさから焦ったりして、つい過剰に頑張りすぎてしまいがちです。最初の3ヶ月は、何よりも疲労の回復と不安・緊張の軽減が最優先される時期だということを念頭に置いて過ごしましょう。

 例えば、短時間勤務や残業制限を受けている場合はきちんと守る、周囲の人が働いていても必要がなければ先に帰る、具合が悪い時は早めに休養を取ったり受診したりする、といった点は特に意識して実行していただきたいところです。周りに申し訳ないと思っても、今無理をして再発するよりは、翌日以降も元気に出勤する方が職場にとってもありがたいことです。そういう広い視点を常に忘れないようにすると同時に、さらに長期的な意味で、他の人が働いていても帰るということに慣れ、また周りの人にも早く帰らなくてはならない人だと認識してもらうようになることも再発予防には重要です。

 

 また、最初の3ヶ月を無事乗り切ったとしても、まだまだ本調子とは言えません。3ヶ月を過ぎると、残業制限などがなくなっていき、周囲も休職明けという意識が薄くなります。通常の業務を期待され始める一方で、まだ実際にはうまくこなせなかったり、期待に応えられないことも多く、その無力感や憂鬱感から調子を崩すこともあります。ですのでこの時期は、自分がまだ本調子でないことをきちんとまわりに伝えていくことが重要になります。

 復職から半年ほど経つと、仕事のパフォーマンスはかなり回復してきて、その部分のつらさは減っていきますが、今度は働いていることが当たり前になってきて、休職前と同じ働き方(=再発するような働き方)をしてしまいやすくなるリスクが生じます。裏返せば、この時期に休職前とは違う新しい働き方(=しんどくなりにくい、再発しにくい働き方)を確立できると、かなり安定して働けるようになります。

 それぞれの時期に陥りがちなリスクをあらかじめ理解して、焦らず着実に、トータル1年ぐらいの時間をかけて復職を完全なものにしていく気持ちで臨んでください。

2024.03.18 仕事
復職についての豆知識⑤ 復職に際して確認しておきたいこと

西村 麻里

 復職についての連載エッセイ、5回目の今回は、前回予告していましたように、復職に際してやっておきたいことや確認しておきたいことをお話したいと思います。

 これは大きく二つに分けられ、一つは自分自身が問題なく復職できる状態かについての確認、もう一つが職場側の環境や制度についての確認になります。

 

 まず自分自身の状態についてですが、病状が回復してきていても、仕事関連のことに触れると急激に具合が悪くなるということがままあります。これは仕事や職場のことを避けて過ごしていると気づきにくい面でもありますので、できれば実際に復職手続きを始める前に一度そのあたりが大丈夫かを確認しておきたいところです。

 具体的には、同僚などと会ったり職場や仕事のことについて情報交換したりができているか、まだしていない人はできるかどうか(実際復職を盤石にするためにはやっておくことがお勧めです)、職場の最寄り駅や建物の前まで行って気持ち悪くならないか、通勤ラッシュやスーツ・制服などに対して抵抗がないか、耐えられるか、あたりが大きなチェックポイントと言えます。

 

 そして職場側については、まず人事・労務的な面で、時短勤務や職務内容の軽減、残業時間の制限といった措置が受けられるかどうか、どの時点から正規の就業として勤務するのか、給与や有給休暇の付与はどうなるのかといったことが挙げられます。これらは密接に関係しており、かつ、職場によってかなり運用や規則が異なるので、自分の職場がどうなのかを確認することは重要です。

 例えば、ある職場では、時短勤務の間は休職中のリハビリという扱いで給与も交通費も支給されず(代わりに傷病手当等がある場合はそれが引き続き受け取れます)、フルタイムの勤務になった時点から正規の就業となって給与が発生するのに対し、別の職場では、正規の就業として時短勤務を扱うため交通費や労災などは適用される代わりに、時間が短い分受け取れる給与は少なくなる(そして傷病手当も受け取れない)といったことがあります。

 有給休暇についても、休職前に残っていた分が持ち越せるところもあれば、最初は全く付与されず、勤務を継続するにしたがって法に準じた日数分付与していく形を取るところもあります。復帰後に調子を崩した時や通院したい時に安心して休めるかどうかはかなり大きいことなので、しっかり確認しておきましょう。

 また環境面では、仕事中に調子が悪くなった時に休める場所があるかどうかを事前にチェックしておくことも大切です。休憩室やロッカールーム、保健室などがあればぜひ事前に一度様子を見に行っておいてください。またそういった施設が職場内にない場合、人のあまり来ない階段や廊下、あるいは近所の公園やコンビニなど、どこか避難できる場所を探しておきましょう。

2024.03.06 仕事
復職についての豆知識④ 復職における主治医・産業医の役割

西村 麻里

 復職についての連載エッセイ、ここまでは主に休職中のリハビリに焦点を当ててお話してきましたが、4回目となる今回は、リハビリも進んできて、実際に復職に向けて動き出す時期に目を移したいと思います。

 具体的に復職の話を職場との間で進め始めると、いろんな役割の人物が関わるようになってきますが、その中でも特に重要な役割を果たすのが主治医と産業医です。

 復職するにあたってまず必要になるのが、復職可能という主治医の判断です。その形は職場によって、診断書の提出を求められる場合もあれば、さしあたっては口頭で許可が得られればよしの場合もありますが、いずれにせよ主治医に「働けるくらい病状が回復した」と認められて初めて、復職手続きのスタートラインに立てるのです。また、復帰後の業務軽減や配慮の程度に関しても、主治医の判断が影響力を持つ場合が少なくありません。ここで重要なことは、仕事の内容や職場の制度について、主治医に十分な情報を提供することです。仕事の内容や忙しさ、また復帰時にどの程度の勤務が求められているのかによっても、最適な復職のタイミングが変わってきます。また、復職可能の判断が出た後は、職場側に主治医の見解を伝えることも大切になってきます。病状の説明や今後の治療計画、就業上必要な配慮などについて、自分から積極的に情報をもらい、職場側に伝えるようにしましょう。主治医と職場が本人を抜かして直接やり取りすることはありませんので、自分がパイプ役であることを肝に銘じてください。

 そして職場側で復職の判断を行うのが、多くの場合、産業医となります。主治医が病気が治ったかどうかの「疾病性の判断」をするのに対して、産業医はもう一度働くことができるかどうかという「機能性の評価」が仕事になります。つまり、病状の回復だけでなく、職場環境などの条件も含めた上で、本当に職場復帰が可能なのか、可能であればどのような方法で復帰をしたら再発を防げるのかなどを判断し、職場に助言することが産業医の役割となります。実際、主治医の許可は下りていたのに産業医の許可が出ず、休職延長となるケースも存在します。再発防止の観点からもそれは必要なことではあるのですが、産業医と会えるのは1回ないし数回の産業医面談の時のみ、という人も多いでしょうから、その時に自分の回復の程度をしっかりとアピールできるようになっておくことも重要です。

 産業医面談で聞かれることの多い内容は、休職中の生活の様子、職務遂行能力(集中力や記憶力、持久力等)の回復具合、休職に至った原因とその対策、復帰後の治療計画あたりです。いずれも、復職に向けてそれらがきちんと考えられていたり、整えられていたりするかが復職可否の判断に関わってきます。嘘や虚勢はのちのち自分の首を絞めるだけなのでおすすめしませんが、必要なことをきちんと落ち着いて伝えられるよう、ポイントを押さえてあらかじめ準備しておくようにしましょう。生活リズムの記録やリハビリのプランといった資料を見せたり、リワークやカウンセリングで取り組んでいることがあればその内容を伝えることもおすすめです。

 ちなみにここではわかりやすく産業医とのみ書きましたが、復職可否の判定や復職後の配慮の決定の行われ方は、職場によってかなり違います。シンプルに産業医が単独で行う場合もあれば、産業医や保健師、人事、上司などで構成される会議にかけられる場合もあり、また特に小規模なところでは産業医がおらず、人事担当や経営者がすべてを行う場合もあります。そういう意味では、復職にあたってまず最初に必要なのは、自分の職場の復職判定システムや復帰スケジュールを把握すること、とも言えますね。実際、復職手続きの前後の時期はやっておきたいことや確認しておきたいことがたくさんあります。詳しくはまた次回にお伝えできたらと思いますが、連載1回目でも簡単に触れてはいますので、よければご参照ください。

2024.02.12 仕事
復職についての豆知識③ 休職原因のふりかえりとキャリアの再構築

西村麻里

 復職についての連載エッセイ、3回目となります今回は、前回紹介したようなリハビリがある程度進んできたところで、次に取り組みたい内容についてお話ししていきます。

 リハビリがある程度進んで、気分や生活リズムもそこそこ安定し、仕事のことを考えたり、休職前のことを思い出したりしても調子が崩れるようなことがなくなれば、いよいよ後半戦。復職に向けてより具体的な内容に取り組んでいく時期となります。

 ここで主に取り組みたいことは大きく二つ、一つは休職に至った原因を分析して、復職後に同じことにならないよう対策を考えること、もう一つは、休職(場合によっては発病とも言い換えれますが)を踏まえて自らの今後のキャリアを見直すことです。休職原因にもよりますが、この二つは相互に関連していることも多く、同時並行で進めたり、あるいは休職原因のことがある程度つかめてから、キャリアについて考えていくことがおすすめです。

【休職原因の振り返りと対策】

 休職原因については、復職にあたっての産業医面談や上司・人事との面談でもよく問われることであり、復職を進める上では避けて通れないテーマとも言えます。一方で、考えろと言われたからってすぐ考えてわかるものでもないのがこのテーマの難しいところです。よく使われる手法は、しんどくなり始めてから休職に至るまでの経過を時系列で振り返ることですが、ただ振り返っても、自分の思い込みなども影響して、中々正確なところはつかみづらいものです。紙に書くなどしてできるだけ客観的に、できれば第三者の視点も取り入れて行えるのがベストですので、この作業は特にカウンセリングやリワークプログラムなどを利用しながら取り組むことがお勧めです。

 対策については大きく3つの方向性が考えれます。①自分の仕事の仕方やスタンスを変える、②自分の考え方や捉え方を変える、③職場側に環境調整などの対応を求める、の3つです。このうち③については、自分の職場がどこまで対応できるのか、制度的にも状況的にも見極めた上で、産業医面談や上司・人事面談などの場で交渉していくことになります。

【キャリアの再構築】

 休職せざるを得ない状況に至った、ということは、多くの場合、これまでと同じ働き方ではもうやっていけないことを意味しているとも言えます。もちろんその要因は様々で、異動や昇進などによって仕事内容が変わったからであったり、年齢や体力、あるいはプライベートの状況の変化などが影響している場合もあるでしょう。また最近では、時代の流れの中で会社自体が大きく変化した、というのが原因の一つである場合も少なくありません。いずれにしても、これまでと同じ働き方が難しい=これまで想定していたキャリアの進路を見直す必要があります。もちろん、見直した結果、これまで通りでも行けるだろうと判断されるなら、それも一つの結論です。ですが、一度お休みして余裕のあるこの機会に自らのキャリアを見直すことは、復職だけでなく今後の人生をよりよいものにするためにも大事なことです。

 キャリアを見直すにあたっては、復職後どう働くかという目先のことだけでなく、まずはそもそもなぜ今この職場でこの仕事をするに至ったか、それは自らのそもそもの希望と一致するものだったか、さらに、今の自分(特に休職を経験した自分)は以前と同じ希望を持っているのか、望むことは変わってきているのか、といったことを広く考えてみましょう。そうすると段々、今の自分が望むことと、それが自分が復職後にやるであろう仕事や働き方とどの程度一致して、どの程度一致しないのか、が見えてくるはずです。ここまでくればもうあと少し、自分がこの先職場に戻った時に、何を大事にして、何は妥協するのか、自分の優先順位を正確につかめれば、かなり見通しも立てやすくなるでしょう。そしてこのあたりのことは、先の休職原因への対策の検討ともつながってくるところとなります。

 これらの内容は、後半戦だけあって取り組むのも大変ですし、また一人進めていくのが難しい内容でもあります。一方でこれらがきちんと押さえられているほど、この次に控える復職にあたっての職場とのやり取りもスムーズに進めやすくなりますし、再休職の防止にも効果的です。これだけのことに取り組める状態だと、もう働けるくらい回復しているのではと感じられて復職へといそがれる方も多いのが現実ですが、復職を万全のものにするためにも、ぜひ焦らずにじっくり取り組んでいただきたいところです。

2024.01.31 仕事
復職についての豆知識② リハビリを行う際のポイント

西村麻里

 復職についての連載エッセイ、1回目では休職から復職までの流れを概観しましたが、続いては、実際に復職に向けてリハビリを始めるにあたってのお話をしていきたいと思います。

 リハビリを始める時期の目安については前回お話ししましたが、この時期の大きな特徴としては、回復してきた分、色々なことを考える余裕ができることで、かえって復職への不安や焦りが出てくることが挙げられます。焦りから急いで復職したもののやはり心身がついていかず再休職、となってしまう方も多いのがこの時期です。回復=復職ではなく、ようやく前半を終えたところ、ここから復職に向けてリハビリで整えていく後半戦が始まるのだ、という意識を持つことが、再休職を防ぐ上でも大切になってきます。

 さて、ではリハビリとは具体的にどういうことをしていけばいいのでしょうか。大きく4つに分けて説明していきたいと思います。

1.生活リズムの把握と回復

 特に睡眠覚醒リズム(いつ寝ていつ起きているか、昼寝も含めて)を中心に、できれば記録シートなどを活用して客観的に把握した上で、徐々に働いていた時に近い生活リズムへ近づけるよう整えていきます。ただ、リハビリ中はリハビリの負荷による疲労が蓄積されやすいので、普段より長めの睡眠時間を確保するよう心がけてください。

2.身体機能の回復

 療養生活によってどうしても身体機能や体力が低下しています。身体的疲労による再発を防ぐためにも、ウォーキング等の軽度な運動を少しずつ取り入れていきましょう。最初からやりすぎず、少しずつステップアップすることが重要です。疲れて他の活動に支障が出てはやりすぎなので、今の自分にとってちょうどいい運動量を見極めましょう。

3.認知機能の回復

 身体機能だけでなく、集中力や記憶力、注意力といった認知機能も療養生活において錆つきがちです。最初は漫画や雑誌などの軽いものを読むところから、徐々にレベルアップさせていきましょう。読むことがある程度できるようになったら書くリハビリも取り入れてください。市販のドリルや脳トレなども有効です。

4.復職に向けた心のトレーニング

 自分の考え方のくせや問題解決パターン、ストレス解消法などを見直し、再び職場でストレスにさらされた時に、前とは違う新たな対応ができる自分を獲得し、再発防止を目指します。これは一人で取り組むのが一番難しいリハビリです。市販の復職のためのワークブック等でも取り組むことはできますが、客観的視点が入るほど有効なリハビリでもあるので、一人ではあまり効果を感じられない場合は、リワークプログラムやカウンセリングでの取り組みも検討してみましょう。

 いずれのリハビリも、その時その時の自分の状態に応じた適度な負荷で行うことが一番有効です。冒頭でも述べたように、この時期は特に焦りが出やすいので、ついやりすぎてしんどくなってしまわないよう、できれば家族や主治医などの周りの声や目も借りながら、着実に進めていきましょう。

 病状も右肩上がりでは回復せず、一進一退となるのが普通です。また、リハビリも、確実な復職を目指すなら最低でも数か月、できれば半年は見ておきたいところです。急いで進めたり、調子の波に一喜一憂せず、数週間くらいのスパンで自分の状態をとらえていくように心がけてください。

2024.01.20 仕事
復職についての豆知識① 休職から復職にかけての流れ

西村 麻里

 ブログでも予告していました、復職についての豆知識の連載、1回目となります今回は、まずは休職してから復職するまでにどのような経過があるのか、を概観していきたいと思います。

 厚生労働省が出している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、職場復帰支援の流れを5つのステップに分けています。そのまま載せると難しい言葉が並んでわかりにくいので、わかりやすく書かせていただくと、下記のようになります(元データが知りたい方は厚生労働省のHPに載っていますのでご参照下さい)。

 【第1ステップ】休職を開始し、療養・治療を行う段階

 【第2ステップ】本人からの復職の意志表示や主治医による復帰可能の判断などが示される段階

 【第3ステップ】職場側が、復帰が可能か検討したり、復帰支援プランを作成する段階

 【第4ステップ】最終的な職場復帰の決定の段階

 【第5ステップ】職場復帰後のフォローアップの段階

これを見ていただいただけでも、復職しよう、と考えてから、実際に復職するまでには、結構なステップがあることが想像できます。ただ、こちらの手引きはどちらかというと職場側の視点に立って書かれているもので、特に第3~4ステップなどは休職者側から能動的に何かをする段階ではありません。これを、より休職者、あるいは復職に向けての休職者側の準備、という視点で書き直すと、このようになります。

 【第1ステップ】(前半)治療に専念し病状の回復を最優先する時期

         (後半)一定の回復が見られ、療養中心から復職のためのリハビリに移行していく時期

 【第2ステップ】リハビリをステップアップさせる&休職原因に向き合い再発防止策を検討する時期

 【第3ステップ】復帰後のレベルを想定したリハビリを行う&職場と具体的な環境調整を行う時期

 【第4ステップ】職場への事前挨拶や同僚などからの情報収集等、復職直前の準備を行う時期

 【第5ステップ】復職後、調子を崩さないよう注意しながら少しずつ復職を確実にしていく時期

 こうして見ていくと、復職に向けて自分が今何をしたらいいのか、を考えるには、自分が今どのステップにいるのかを知ることが重要であることがわかります。一つの指標は主治医の判断ですが、おそらく一番判断に迷うのは、第1ステップにおいて、療養中心からリハビリへと移行するタイミングかと思います。焦って早くにリハビリを始めてしまうと、効果が得られないどころか病状の悪化を招きますし、逆にいつまでも休養ばかりしているといざ復職となった時に心身がついていかないという事態になります。

 実際に復職支援を行う際には詳細なチェックシートを利用したりするのですが、ざっくりとした目安としては、夜にまとまった睡眠がとれて午前中から活動することができること、仕事や職場に関わるものに接しても大きく動揺したりしんどくなったりしないこと、の2点をクリアしていればリハビリを始めてもいい時期に来ていると考えられます。

 繰り返しになりますが、焦って十分な療養を行わなかったり、過度なリハビリを行うことは、かえって回復を遅らせます。そしていったん回復してきていた調子が落ちてしまうと、自信の喪失ややる気の低下にもつながりかねません。自分が今どの時点にいるかを常に意識して、できればやや余裕を持ったペースで進めていけるのが理想的ですね。

2016.03.14 仕事
あなたのキャリア・アンカーは?~シャインに学ぶ「自分らしい仕事生活」とは

西 順子
              

 女性ライフサイクル研究所では、女性が人生で出会う問題についてご相談を受けていますが、そのなかに「仕事」に関わるテーマも含まれてきます。

 思春期・青年期の方とは、「自分とは何者か」を探索しながら将来の進路選択、学校選択、職業選択について、「自分らしい」選択ができるよう一緒に考えていきます。社会人の方とは職場におけるメンタルヘルスの問題から、転職や再就職の選択での悩みまでご相談を受けていますが、人生の節目においては、これまでの人生のプロセスを振り返りながら「何を大切にして、何を優先して、どう生きるか」という人生のテーマも含めて考えていきます。うつ病などで退職を余儀なくされた方にとっては、カウンセリングの目標に「社会復帰」を挙げる方も多く、人生にとって「仕事」は大きな意味をもっていると感じています。
 いずれにせよ、「仕事」の選択は、アイデンティティ(自己同一性)と関わる問題であり、「私は何者か」と自分を知ることと関わってきます。
 
 今回は、人生の節目で仕事や働くことについて見直すとき、「自分らしく仕事をする」ことを考える手がかりの一つとして、「キャリア・アンカー」を紹介したいと思います。キャリアとは、長期的な仕事生活の有り方に対して見出す意味づけやパターンのことを言いますが(金井、2002)、「自分らしく仕事をする」ためには、自律的にキャリアを考えてみることが大事と言われます。『キャリア・アンカー~ほんとうの自分の価値を発見する』(以下、本書と略す)から、仕事生活における自分らしさを考えるヒントを提供できればと思います。
 

■キャリア・アンカーとは

 キャリア・アンカーとは、組織心理学者エドガー・シャインによって提唱された概念で、「どうしても犠牲にしたくない、本当の自己を象徴する能力、動機、価値感」のことです。ある人がどんな難しい選択を迫られたときでも放棄することができない自己概念、自己イメージです。

 ふつう人々は、どのようなキャリアを歩んでいるときもそのキャリアのなかで広範なニーズを満たそうとします。しかし、これらのニーズが全て同等に重要というのではなく、すべてのニーズをも満たすことができないならば、どのニーズにもっとも優先順位をおいているのかを見極めることが大切になってきます。

 「アンカー」とは船の錨(イカリ)のことですが、錨がないと船は流されてしまうように、自分のキャリア・アンカーを知っていないと、外部から与えられる外部誘因(報酬や肩書など)の誘惑に負けて、後になって不満を感じるような就職や転職をしてしまうと言います。「これだと自分らしくない」と感じてしまい不満になってしまうそうです。
 よって、仕事に対する指向、動機、価値感、才能についての自覚をより明瞭に理解しておけば、キャリアにまつわる将来の意思決定はもっと容易になり、納得のいくものとなると言います。


■8つのキャリア・アンカー

シャインの研究によれば、キャリア・アンカーには8つのカテゴリーがあることがわかっています。下記に、その8つのアンカーを簡単に紹介しましょう。

①専門・職能別コンピタンス
このタイプの人がどうしてもあきらめたくないことは、その領域で自分の技能を活用し、そのような技能をより高いレベルまで伸ばしていくことのできる機会を手に入れることです。自分の技能に磨きをかけることで、自分らしさが生まれてきます。また、最重要なものは、仕事が彼らにとって挑戦的であることです。この人たちの関心は、あくまでも仕事の内容(コンテンツ)そのものにあります。

② 全般管理コンピタンス
経営管理そのもの関心をもち、ゼネラル・マネージャー(全般管理職)に求められる能力を身につけているタイプです。このタイプの人たちは組織の段階を上がり、責任ある地位につき、その立場にたって組織全体の方針を決定し、自分の努力によって組織の成果を左右したいという願望をもっています。専門・職能的な人々と違い、専門的な仕事に特化するのはよくないとみます。経営管理にアンカーをもつ人は、重い責任のある仕事を望みます。挑戦的で変化に富み、皆をまとめるような統合的仕事を好みます。

③ 自律・独立
このタイプの人がどうしてもあきらめたくないことは、仕事の枠組みを自分で決め、仕事を自分のやり方で仕切っていくことです。組織に所属している場合は、いつどのように仕事をするかについて自分の裁量で柔軟に決められる仕事に取り組みたいと思います。自律的な立場を維持するためにならば、あえて昇進や昇格のチャンスを断ることもあるでしょう。自律にアンカーがある人たちは、自分の専門分野の範囲内で明確に線を引き、時間を切って仕事をすることを好みます。

④ 保障・安定
このタイプの人がどうしてもあきらめたくないことは、会社の雇用保障、あるいはその職種や組織の終身雇用権などです。安全で確実と感じられ、将来の出来事を予測することができ、しかもうまくいっているとゆったりと仕事ができ、そんなキャリアを送りたいという欲求を最優先させるタイプです。保障・安定にアンカーのある人たちは、組織に縛られることを苦にしません。終身雇用権の代償として、進んで会社の指示に従う忠誠心や意欲があります。

⑤ 起業家的創造性
このタイプの人がどうしてもあきらめたくないことは、障がいを乗り越える能力や意欲をもとに、自分自身の会社や事業を起こす機会です。社会に対して自ら頑張れば、結果として事業を創造することができると証明したいと考えています。創造的な衝動は、新しい組織、製品、サービスの創造に向かいます。起業家タイプが他のアンカーと違うのは、自分が新しく事業を起こすことができるということを、とにかく試してみたいという熱い思いに取りつかれている点です。

⑥ 奉仕・社会貢献
どうしてもあきらめたくないことは、たとえばもっと住みやすい世界をつくる、環境問題を解決する、民族間の調和を図る、他の人々の援助をする、治安を改善する、新製品を開発して病気を治す等、なにか価値のあることを成し遂げる仕事を追い求める機会でしょう。このタイプの人たちは、何らかの形で世の中をもっとよくしたいという欲求に基づいてキャリアを選択します。奉仕にアンカーをおくタイプの人が望んでいる仕事は、自分の価値感にあう方向で影響を与えることが可能な仕事です。

⑦ 純粋な挑戦
自分のキャリアの特徴は、何事にも、誰にでも打ち勝つことができるということを自覚しているところにあるというアンカーの人たちです。彼らにとって「成功」とは、不可能に思えるような障害を克服すること、解決不能と思われてきた問題を解決すること、極めて手ごわい相手に勝つことです。専門・職能にアンカーをおく人たちと違うところは、問題が起こる専門分野ならどこでも挑戦したいというところです。

⑧ 生活様式(ライフスタイル)
このタイプの人のキャリアの条件の一つは、「生活様式(ライフスタイル)全体を調和させることができなければならない」ということです。何よりも柔軟であることを望みます。組織のために働くことに非常に前向きですが、ただし、自分の時間の都合に合わせた働き方が選択できるという条件を求めます。「自分らしさ」とは、特定の職能や組織と関わるよりも、自分のトータルの人生をどう生きているのか、自分がどこに落ち着いて住んでいるのか、家族とどのように接しているのか、といったことと関わってきます。

            
 以上、8つのキャリア・アンカーを紹介しました。皆さんは、どのキャリア・アンカーに馴染みがあり、「そうそう」と共感を覚えたでしょうか。自分のキャリア・アンカーについて洞察を深めることで、キャリア計画や選択をうまくすすめていくことができるとしています。本書では、自己診断用「キャリア指向質問票」を用いて点数をだし、キャリア・アンカーの1位~8位の順位が分かった後、「パートナーをみつけてインタビューしてもらう」ということを勧めています。質問票の結果と過去・現在・未来のキャリアをインタビューをしてもらい十分議論することで、自分の選択の仕方やパターンがわかると言います。


■私の場合

 私が、キャリア・アンカーという言葉を知ったのはちょうど10年前。女性ライフサイクル研究所の内部研修で「仕事」がテーマとなったときです。スタッフ各々が自分のキャリア・アンカーについて「キャリア指向質問表」にチェックをして順位を出した後、「仕事」についてワークシートを用いて自己を振り返る時間を持ちました。「仕事と聞いて何を連想するか?」「 子ども時代に仕事に関して家族からどんなメッセージを受け取ってきたか」「仕事とジェンダーに関してどんなメッセージを受け取ってきたか」「年齢と共にその捉え方は変化してきたか」「仕事についてどんな理想を持っているか」・・等について自分を振り返りました。そして、みんなで考えたことやそれぞれの体験を聞きあい、シェアしあいました。

 自分や他者のキャリア・アンカーを知り、人によって「仕事」について大切にしている価値感や欲求が違うのだということがわかり、目からウロコだったことを今も覚えています。人によってそれぞれが大切にしている価値感を元に、どんな職業につくか、どんな職場で働くか、どんな働き方をするか、自分の優先順位によって選択していること、また何に満足し、何は譲れないのか等が違ってくることを理解しました。
 
 ちなみに、私のキャリア・アンカーをみると(当時のプリントを見返すと)、1~3位は、①専門・職能コンピテンス、②自律・独立、③奉仕・社会貢献、でした。
 確かに、この10数年は、臨床家としてクライエントさんによりよい援助を提供できればと①に最も力を入れてきました。2年前、所長となってからは自然と③奉仕・社会貢献を意識するようになりました。でもキャリア・アンカーはあまり変わらないそうですので、なるほど・・と思います。

 そして、私自身のキャリア・アンカーには、子ども時代から「仕事」について見聞きし、経験してきたことが土台にあることに気づきました。それは母がずっと会社員として仕事をしてきたことです。仕事をする母を一つの「たたき台」のようにして、「自分は何がしたいのか、どんな働き方をしたいか」を、子どもの頃から漠然と考えてきたように思います。
 母とはキャリア・アンカーは異なりましたが、今も内的イメージとして印象に残っているのは、
仕事をしている時の母の活き活きしていた笑顔・元気な姿です。仕事をすることへの肯定的なイメージをもってこれたことに感謝したいと思います。

 フロイトは、人生で最も大切なことは「愛することと、働くこと」と言いました。社会・時代の変化のなかで、労働環境は厳しいと言えますが、そうした環境にあっても「自分らしく仕事をすること」を大切にしてほしいと願っています。


参考・引用文献 
『キャリア・アンカー~自分のほんとうの価値を発見しよう』エドガーH.シャイン著、金井壽宏訳、白桃書房。
『働くひとのためのキャリアデザイン』金井壽宏著、PHP新書。

2007.11.10 子ども/子育て
私の原点~「つながり」の体験

西 順子

 先日、助産師さんたちの研修があった。ご縁があってその1つのコマで周産期のケアについて話をさせていただいたが、その準備の過程で関連図書を読みながら、自分自身の体験を振り返ることとなった。

・・一人目のお産は、里帰り出産で、私が生まれた病院でだった。その時のお産は、あとで振り返ると「孤独」だった。出産後、すぐに母子分離され、赤ちゃんを抱かせてもらえたのは、次の日の夕方頃だったろうか。出産後、一寝入りした後、赤ちゃんと離れている切なさに、新生児室まで這うようにして、赤ちゃんに会いに行ったことは、今もその切なさの身体感覚として思い出す。
 その後、村本が女性ライフサイクル研究所を設立したと聞き、仕事が休みの日にはグループに参加するようになった。そこでは、女性学や女性心理学の本を読みながら、妊娠・お産など、女性の体験について語り合った。自宅出産の体験、助産院での出産体験、病院での体験など、さまざまな女性の体験を聴くなかで、いろんなお産があること、女性が置かれている状況、人それぞれの女性の生き方や選択があることを知った。そんななかで、二人目は納得のいくお産がしたいと、助産院を選んだ。

 一方、赤ちゃんとの生活にも慣れ始め、いい時間を過ごせるようになったというのも束の間。当時勤めていたクリニックには育休がないため産後8週明けで職場に復帰した。それについてはいろいろ悩んだが、自分も生き生きと生きること(仕事を続けること)は、子どもも生き生きと生きることにつながるはず、と決意したのだが、実際には、子育てと仕事との間で葛藤する日々だった。そんな思いもグループのなかで語った。また、女性の体験にも耳を傾けた。そんななかで、「自分だけじゃないんや」という発見と体験があった。仕事をしている、していないに関わらず、女性が「こういうお母さんであるべき」という周りからのプレッシャーや期待を受けて苦しんでいることを知った。「自分だけじゃない」、それだったら、私は私らしく、私らしいお母さんであったらいいんだと思えた。
 当時読書会で読んでいた『女はみんな女神』の本にも発見がいっぱいあり、女性が人生を主体的に生きるということはどういうことかについて多くのことを学んだ。特に「その真の代償は、それを得るために諦めるものであり、とらなかった道である」という言葉が胸を打った。諦めた道、喪失を受け入れることで、自分の選んだ道がよりはっきりと照らし出されるということも経験した。

 女性たちと語り合い、つながる体験(個人を超えて普遍的なものとつながる体験)のなかで、自分の人生を振り返り、自分自身の過去も現在も受け入れ、これから先の人生を見通せたこと、それが今の私の原点となっている。それが、スタッフや家族、周囲の人とのつながり、そして、今の仕事へとつながってきている。私が女性たちから感じさせてもらったこの体験~自分を肯定し、力を感じ、普遍的なものとつながる体験を、他の女性達にもつなげていくことができればと思う。私が女性たちに助けられ、支えられ、力づけられてきたように、女性が自分の人生の主人公として生きていくことのお手伝いができればと思っている。

 助産師さんの研修では、自分の体験も話した。その後、感想やご意見、助産師さん達の体験もお聞きしたが、立場は違うものの、助産師さん達と「つながり」を感じれたことも嬉しかった。また、助産師さん達の女性と子どもをサポートする思いにも力づけられた。講師の経験を通して、暖かいつながりを感じさせて頂いたことにも感謝したい。

(2007年11月)

2004.10.10 仕事
文化祭の季節に思う

西 順子

 10・11月は体育祭、文化祭の季節。子ども達が、体育祭や文化祭にクラスや仲間と一致団結して、一生懸命取り組んだり、笑ったり泣いたりしている姿は青春そのもので、輝かしい。私も学生時代は体育祭や文化祭が好きだったなぁと昔のことを思い出す。中学・高校時代の人形劇、お芝居、クラスの応援旗づくり、仮装行列、合唱コンクール、大学時代の定例コンサート・・、人と一緒に何かを創りあげること、目標に向かって力を合わすこと・・が結構好きだったなぁと。
 仕事のなかで、時々、そんな懐かしい感覚を思い出すときがある。
 今年前半では、6月末日の日本コミュニティ心理学会第七回大会。私は事務局長を引き受けたが、半年程前からいろんな人達と一緒に準備をすすめていった。こういう機会がなければ一緒に仕事をすることはなかったであろう方々とご一緒させていただいたことは、社会勉強にもなった。無事大会当日を迎えたが、大会の三日間はあっという間に過ぎた。三日目の最終日、盛況のうちに終ろうとしている・・とほっと安堵感と共に後片付けを始めていた時、会場を後にする名前も知らない会員の方々から「いい学会でした。ありがとうございました」「学会らしい学会でした」と暖かい一言をかけていただいた。よかったぁ、とほっと心から嬉しい気持ちになった。人に喜んでもらえたことで、全ての苦労が報われる気持ちだった。
 今年後半では、研究所の仕事として企業研修に取り組んだ。準備から実施まで何ヶ月かかけてスタッフと共に取り組む過程は刺激的であった。
 皆で協力しながら学びあえる過程、何かを創り上げる過程、目標に向う過程は面白い。ただ、学生時代と違うのは、責任が伴うということ、あるいはその責任の重さだ。最後まで責任を負うことで、より自分の体験として根付くことができるのだと思う。その過程は楽なことではないけれど、でも楽しみながら、面白がりながら、仕事をしていければと思う。

(2004年10月)

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