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FLCスタッフエッセイ

2014.10.17 コミュニケーション
「あたりまえやん」,ほんとかな?  ――コミュニケーションのヒント――

 福田ちか子

 

  「そんなんあたりまえやん」「え~,空気読めへんなぁ」「最近の若い者は...」などなど,相手の行動に違和感があってつっこんだり,自分が言われて落ち込んだりする言葉の数々。つっこむ側にいるときは,結構イライラするし,言われたときは結構傷つくのではないだろうか。

 

  実はこれらは,ある一定の「常識」があって,相手や自分がそれを知っていることが前提になって初めて成立するということを,かつて友人から教わった。

 

  一度目は,アメリカに留学していた先輩から。

   突然だが,"古池や 蛙(かわず)飛び込む 水の音"という松尾芭蕉の句から,どんな情景が思い浮かぶだろうか。解釈の道は奥が深いので脇へ置くとして,目を閉じてイメージしたとき,そこに蛙は何匹いるだろうか? 私は,同じ質問をされたとき一匹の蛙が思い浮かんだし,本やTVでたまに見かける際のイメージ映像でも一匹の蛙のイラストが自然に添えられている。

   ところが,アメリカ人に同じ質問をすると,どうやら蛙が一匹とは限らないのだそうだ。初めてそれを聞いた時,「たくさんの蛙がポチャンポチャンと飛び込む......そんなん情景台無しやん!」と心の中でつっこんだ(英語に翻訳されたものには,"A Flog"と冠詞がついている。俳句や日本語に詳しくない英語圏の人が訳しようとすると,"Flogs"と複数になる場合もあるのだとか)。でも自分がそうだと思い込んでいることが,実はあたりまえではないのかもしれない,ということがとても新鮮だった。

 

   二度目は,イスラエル人の友人から。

 学生時代に,お互い留学生という立場で,彼女と仲良くなり,お互いの自宅に招き合ってお茶をすることになった。最初は友人のお宅へ,そして次は私の下宿へ。下宿に友人が来て,テーブルについて,ちょっとお部屋を案内という段になったとき...す~っと,ごく自然に,まるで自分の家のようにその友人が冷蔵庫を開けた。その瞬間の驚きといったら!後で友人に尋ねると,友人の文化圏ではあたりまえのことだそう。内(ウチ)と外(ソト)の境界の感覚が文化や生活圏によって違う,ということを肌で感じた瞬間だった。

   相手が,自分が,「知っていてあたりまえ」「わかってあたりまえ」という気持ちがあると,相手がわからなかったとき,自分がわからなかったとき,腹が立ったり傷ついたりする。そういったコミュニケーションの中で起こる違和感の小さな塊は放っておくと心に降り積もる。でも,実は「あたりまえ」ではないかもしれない,ということを心に留めておくと,今まで見えていなかった新しい側面に気がついたり,積もった塊を小さくすることができるように思う。

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