朴 希沙
ちょっとしんどいなあと思いつつ、人から頼まれるとつい引き受けたり、無理をしたりしてしまう...。
皆さんは、自分が「嫌だな」「ほんとはしたくないな」と思ったとき、相手に対して断れる方でしょうか?それとも断るのは苦手な方でしょうか?
また、相手は冗談で言ったことでも自分が傷ついてしまったとき、その気持ちを伝えるか伝えないか、これもなかなか難しい問題です。
なんて伝えたらいいか分からない、でも「また嫌なことを言われるかもしれない...」と思うと次に会うのも億劫で、親しかった友人とも距離が出来てしまうことだってありますよね。
相手と自分のしたいことが違う時、相手はそんなつもりがなくても傷つけられたとき、自分の気持ちを伝えるのはとても難しいことだと思います。
今回は、私自身の体験をふりかえりながら、断り方や気持ちの伝え方について考えてみたいと思います。
◎ 自分自身の体験から ~「ちょうどよく言う」って難しい!~
私自身について振り返ってみると、小さい頃は嫌なことを言われてもなかなかその場で言い返すことができず、もやもやした気持ちになっていました。
言葉でうまく表現できないときには、泣いたりだだをこねたりして解消していたような気がします。
それがいつ頃からか、「嫌なことを言われたら、絶対に言いかえそう。後で後悔したりもやもやしたりしたくない!」と思うようになりました。
そして「嫌だな」とか「これは言われたくない」と感じたら出来るだけ本人に「さっきのこと、嫌だったんだ」と言うようになりました。
いつも言えるわけではありませんが、言葉で相手に伝えられるとスッキリしたり、言えたこと自体が嬉しかったりました。
ところが、相手に「ちょうどよく伝える」のは難しいこと。言い過ぎてしまったり、伝えたいことが上手に伝わらなかったりすることがあります。
時には言った後に気まずくなってしまうことも。
言えずにもやもやするのも嫌だけれど、上手に伝えることも難しい。
誰かに何かを頼まれて、断る時も似ています。
「引き受けてばかりだとしんどいから、今度からしっかり断ろう」と思っても、なんと言っていいか分からない。
溜まっていた思いが爆発して「自分でやればいいでしょう!どうして私にばっかり頼むのよ!」と攻撃的になってしまったり、「(ほんとはやりたくないけど)...いいよ、やるよ」と結局引き受けてしまったりすることもあるかもしれません。
コミュニケーションは試行錯誤、「絶対にこれ!」という答えにはなかなかたどり着けないようです。
◎ アサーション・トレーニングからヒントを得る
言い過ぎてしまったり我慢し過ぎてしまったり、私たちは対人関係で様々な体験をしますが、よくみてみると特定の人との間にはどうも一定のやりとりの「パターン」が形成されやすいようなのです。
皆さんも「あの人とはいつもこうなるなあ」というやりとりが、なんとなく思い浮かんだりしませんか?
「あの人にはいつもこう言ってしまうなあ」と自分をふりかえることもあるかもしれません。
けれども、一度出来たパターンを変えるのはなかなか難しいこと。
自分も相手も大切にしたいけれど、なんだかうまくいかない...そんなときは、コミュニケーションに関する考え方や技法から、ヒントが得られるかもしれません。
そのひとつに、アサーション・トレーニングがあります。
アサーション・トレーニングとは、1970年代頃からアメリカで用いられるようになったコミュニケーション技法のひとつです。
これは当時、人種差別撤廃運動や女性達の権利獲得運動の影響を受け、社会的に弱い立場の人々が、自分も相手も大切にしながら自身の意志や気持ちを表現するために活用されました。
アサーション・トレーニングでは自己表現のパターンを、
① 自分の都合だけを優先し相手を無視する「攻撃的」、
② 自分のことを押し殺して相手に合わせる「非主張的」、
③ 自分の気持ちを伝え相手の話にも耳を傾ける「アサーティブ」と分類してみます。
そして、相手と自分の関係の在り方や、自分の表現の傾向を探ります。
そして、相手も自分も大切にしたいと思ったなら、出来るだけ「アサーティブ」な関係を目指して表現の仕方を工夫していきます。
その際には以下のようなことを大切にします。それは、
・出来るだけ落ち着いて話をすること(話し出す前に一度深呼吸)
・はっきりと、率直に自分の意志を伝えること(「今日は疲れているので出来ません、明日なら出来ます」等)。
・自分を主語にして気持ちを伝えること(「○○と言われたら、とても悲しい」等)。
・ネガティブなものもポジティブなものも両方伝えること
といったことです。
◎ 試行錯誤しながら
私の体験にアサーション・トレーニングの考え方を用いてみると、私は最初相手にネガティブな気持ちが伝えられず「非主張的」な状態だったと言えます。
それを変えたくて自分の意見を言うようにはなったのですが、なんとか伝えなくてはと「攻撃的」になってしまったり、言おうとしたものの結局うまくいかず「非主張的」になったりしていたようです。
例えば大切な相手なら、「嫌だった」と言うだけでなく「あなたのことは大好きだし、これからも仲良くしたいんだよ」とポジティブな気持ちもあわせて伝えると、話し合いはもっとうまくいくかもしれません。
また、相手との距離をとって今は気持ちを伝えないでいることも、時には必要なのかもしれません。
いつでもみんなと「アサーティブな関係」を築く必要もないのですから!
それでも、相手も自分も大切にしたいと思える関係ならば、大切に育んでいきたいものです。
コミュニケーションには答えも教科書もありませんが、活用できる考え方や技法はあるようです。
人間関係は山あり谷あり、試行錯誤の連続ですが、時にはそんな考え方や技法からヒントを得て、よりよい日々をつないでいきたいと思うのでした。