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FLCスタッフエッセイ

2021.06.29 カウンセリング
認知からトラウマにアプローチする 〜トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSD : CPT)のご紹介その②〜

朴 希沙

前回の「認知からトラウマにアプローチする 〜トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSD : CPT)のご紹介その①〜」では、CPTにおけるトラウマに関する考え方を紹介しました。

今回は、12回という限られた回数の中でCPTがどのようにセッションを進めていくのか、架空の事例をもとにその概略をご紹介します。

〜数年前、Aさんは自動車事故に巻き込まれ、あやうく命を落とすような体験をしました。その後Aさんは道を歩くときにはいつも警戒するようになり、些細なことでもひどく驚くようになりました。恐ろしい夢を繰り返し見たり、当時の恐怖や映像がありありと蘇ってきたりします。自動車事故のニュースが流れると動悸がし、急いでチャンネルを変えます。次第にAさんは外出がおっくうになるとともに自分の未来に対しても悲観的に考えるようになりました。Aさんは現在、家にこもってしまう生活が続いています。このようなAさんを見かねた家族はトラウマに関する専門的な治療とカウンセリングを受けることをすすめました...〜

◎CPTのセッションの段階

・はじまり

 治療に訪れたAさんは、まずは医師からPTSDの症状について確認を受けました。そして、CPTができるカウンセラーを紹介されました。初回のカウンセリングでは、PTSDとは何か、なぜ回復が進まないか、回復の道に向かうためにCPTで何に取り組むかについて説明を受けました。毎回練習課題が出されるという話を聞いて、Aさんは尻込みをし、果たして自分にそんなことが出来るだろうかと不安に感じました。しかし、カウンセラーから「CPTではこれまでの"回復を妨げる考え方"から"新しい考え方"を身につけることを目指します。限られたセッションの時間内で、これまでの習慣を変えることは非常に困難です。日常的に課題に取り組み、新しい考え方を身につける練習を行うことがとても大切で、少し骨が折れる作業ですが取り組めば取り組むほどに効果があるでしょう」と聞き、もうこんな生活はうんざりだと感じていたAさんは、思い切って取り組むことを決意しました。

・初期

 まずAさんがカウンセラーとともに取り組んだのは、トラウマティックな出来事について「何が起こったか」ではなく「なぜそれが起こったのか(原因)に関する自分の考え」と、「それが自分の思考や行動にどのように影響をしたのか」をしっかりとふりかえることでした。トラウマ後に回復を妨げてきた考え方を見つけ出す試みを行うとともに、出来事・思考・感情のつながりについて、それぞれ区別をつけ、どのように関係しあっているのかも学んでいきました。

・中期

 中期では、これまでの自分の考えを問い直し、その特徴を見直すことにチャレンジしました。毎回のセッションでは宿題が出され、自分に特徴的な思考や解釈のパターンを見つけたり、考え直すことに取り組んだりすることは骨が折れましたが、取り組めば取り組むほど、トラウマに対する反応が少なくなってきたことをAさんは感じました。また、自分に特徴的な考え方について知り、その幅を広げることでトラウマとなった出来事に対してだけでなく、他のことに対しても捉え方が以前より柔軟なものに変わっていきました。

・後期

 後期では、これまで培ってきた様々な技法を土台に、いくつかのテーマについてじっくりと考えることに取り組みました。それは、「安全」「信頼」「力とコントロール」「価値と親密さ」といったものです。こういったテーマについて、トラウマティックな出来事が起こった後自分の信念がどのように変化したのか、様々な角度から考え直していきました。

 カウンセリングが始まったころ、Aさんは「なぜ他の人ではなく、私がこんな目に?」という疑問に苛まされていました。しかしCPTの過程で日常的に課題に取り組み、新しい考え方を身につける練習を行うことを通して、次第にAさんの考え方は変化していき、それに伴って感情や感覚も変わっていきました。カウンセリングが終わった今、Aさんはこれまで避け続けていたトラウマと向き合うことが出来た自分をとても誇らしく感じました。そして自然な感情を否定するのではなく十分に感じ、以前よりも現実に対する柔軟な見方を身につけることが出来た自分の成長を感じました。

 以上、架空の事例を通してCPTの全体の流れをご紹介しました。実際には一進一退を繰り返しながら少しずつ変化は訪れると思いますが、これまでCPTを知らなかった方にも少しでもご興味を持っていただければ幸いです。女性ライフサイクル研究所では、CPTを始めとしたトラウマに対するアプローチに力を入れています。今後も、一人でも多くの方のお役に立てるよう、学びと実践に尽力していきたいと思います。

【参考文献】

CPTの概略を知りたい方には↓

伊藤正哉、樫村正美、堀越勝著 『こころを癒すノート:トラウマの認知処理療法自習帳』 創元社

CPTを専門的に学びたい方には↓

PA・リーシック、CM・マンソン、KM・リチャード著 『トラウマへの認知処理療法:治療者のための包括手引き』

2021.02.02 カウンセリング
認知行動療法のワークショップに参加して

                                         西村 麻里 

 

 先日、といってももう昨年になってしまいますが、日本認知療法・認知行動療法学会のワークショップに参加しました。

 今の社会状況ですので、会場に集まっての実施ではなく、オンラインでの開催でしたが、ブレークアウトルームという、オンライン上で小グループに分かれての話し合いが多用され、家にいながらにして他の参加者の方たちとの交流もできる貴重な機会となりました。

 ワークショップのテーマは、認知行動療法の実践においてつまずきやすいポイント、というものだったのですが、私自身は認知行動療法を中心に据えたカウンセリングを行うことは滅多になく、他の技法と組み合わせて、テクニックの一つとして活用することがほとんどなので、本来認知行動療法がどういう風に行われ、何を目的として、何を大切にするのかということを改めて認識させられる思いでした。

 そこで、今回はこのワークショップを通して得た、私なりの理解や、私が実践する上で意識したり、大切だと思っていることをお伝えすることで、皆様の理解の一助となれたらと思います。

 

 私が普段行っている他の心理療法もそうなのですが、多くの場合、カウンセリングでは、お会いしているその時間の関わりに大きな焦点が当たります。

 認知行動療法ではそうではない、というわけではありませんが、しかし、それ以上に重要になってくるのが「ホームワーク」の存在です。

 ホームワーク、と言うと、つい学校の宿題のようなイメージを持たれるかもしれません。

 確かに、次に会う時までにこれを書いてきて、とワークシートを渡されることもありますし、その時の気分はまさに宿題を出された子どものようなものかもしれませんが、認知行動療法におけるホームワークの本質はそこではありません。

 

 カウンセリングの時間の中でできることには限界があります。

 例えば週1回のペースで通っていただいたとしても、残りの6日間はカウンセラーは一緒にいません。

 つまり、カウンセリングルームの中だけで何かがうまくいったり、いい状態になれたりするだけでは、実生活において生きやすさを感じることは中々できないのです。

 そこで、カウンセリングの中で話し合ったことを実際の生活の中へ持ち帰り、それでうまくいくかどうかを試してもらう、それこそが認知行動療法の重要なホームワークなのです。

 もちろん一度でうまくいくとは限りません。うまくいかないことの方が多いでしょう。

 でも、その試した結果を次のカウンセリングの時に報告してもらって、一緒に検討を重ね、よりよいやり方を見つけて、また試してきてもらう。

 それを繰り返していくことで、その方にとってのベストが段々見えてきます。

 

 さらに、この作業を長くに渡って重ねていると、カウンセラーの助けがなくても、自分で認知行動療法のスキルを用いることができるようにもなってきます。

 私自身は、こちらの方がより大きな目標だと意識しています。

 ある程度のところでもう大丈夫そうだと、一時的な立て直しとして使われる方も多いですし、それももちろん有意義なことですが、何度も繰り返して最初はうまくいかなかったところから少しずつ身に着けていかれて、

「自分でこんな時はこれを使えばいい、と気づいて、落ち込まないようにすることが出来ました!」

と晴れやかな顔で報告いただいた時などは、認知行動療法の実力というものをひしひしと感じます。

 

 とはいえ、認知行動療法も万能ではありません。

 やはり人によっての向き不向きもありますし、困られていることの内容や症状によってのいわゆる「適性」もあります。

 私が認知行動療法をメインとして行わず、いくつもある技法のうちの一つ、として用いている理由もそこにあります。

(誤解を招かないためにお伝えしておくと、認知行動療法を主な専門とされている方は、認知行動療法自体をアレンジして幅広く対応できるようにされています。私にはそれができない、というだけの話です。)

 でもやはり、一つの技法として必ず持っておきたい、と思わされる、底力を感じるものでもあります。

 

 最後に、今回のワークショップの中で一番私が印象的だった、講師の先生の言葉を共有して終わりたいと思います。

「今まで生きてきている、ということは、全く適応がないということはありえない」

 どんなにしんどくても、どんなにうまくいかないと思っても、今まで生きてこられている、というそのこと自体、自分ができていることがあるという、確かな事実なのです。

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