西 順子
ストレスは、私たちが生きていくうえで避けることができないものです。何か生活に新しいことや変化があり、そのことに適応していかなければならない時、人はストレスを経験します。人は新しい課題に挑戦し、ストレスを乗り越えようとして成長していくものです。しかし、人生にはうまくいくときもあれば、なかなかうまくいかないときもあり、うまく乗り越えられないときには危機的状況となります。ときには予期せずトラウマとなるようなストレスを経験することもあるでしょう。
女性のストレスには、対人関係、家族やパートナーとの関係からくるストレス、流産、不妊、妊娠・出産にまつわるストレス、育児ストレス、介護ストレス、職場ストレス、大切な人との別れ・・など、人生のライフサイクル上で起こる様々な出来事や状況があります。
ストレスやトラウマを乗り越えていくには、たくさんの助けやケアが必要です。ここでは、ストレスを乗り越えていけるよう、ストレスと上手につき合う(=ストレスマネジメント)ためのヒントを提供できればと思います。
●ストレスとは
ストレスとは何でしょうか。ストレスという用語は、もともとは物理学の分野で使われていたもので、物体の外側からかけられた圧力によって「ひずみ」が生じた状態を言います。ストレスをゴムボールに例えると、ゴムボールを指で押さえる力を「ストレッサー」と言い、ストレッサーによってゴムボールが歪んだ状態を「ストレス反応」と言います。それをハンス・セリエ博士が生理学の領域で適用したのが始まりです。
ストレッサ-には、物理的ストレッサー(暑さや寒さ、騒音や混雑など)、化学的ストレッサー(公害物質、薬物、酸素欠乏など)、心理・社会的ストレッサー(人間関係や仕事上の問題、家族の問題など)があります。私たちがストレスと呼んでいるものの多くは、心理・社会的ストレッサーを指しています。
また、ストレッサーには、日常的に起こる厄介な出来事(デイリーハッスル)やライフイベント(人生のなかでの大きな変化。死別や失業、結婚や就職など良いことも悪いことも含まれます)、トラウマとなりうる出来事(自然災害、人的災害、交通事故、暴力被害など)もあります。
セリエは「ストレスは人生のスパイス」と言いました。ストレスが適量なスパイスとなれば、人生を豊かに味わい深いものにしてくれます。しかし、ストレスが過剰であったり、ストレスとのつき合い方がうまくいかないと、害が生じてしまいます。心身の健康に影響を与えます。
●ストレス反応
ストレッサー(ストレス状況)によって引き起こされるストレス反応は、身体面、心理面、行動面に現れます。
身体面:不眠、睡眠過多、食欲不振、食べ過ぎ/飲み過ぎ、下痢/便秘、胃痛、頭痛、
身体のふしぶしの痛み、肩こり/腰痛、動悸・息切れ、過呼吸・・
心理面:イライラ/怒りっぽい、抑うつ(気分の落ち込み、興味・関心の低下)、不安感/緊張感、 無気力、集中できない、自分を責める、悲観的思考/否定的思考・・
行動面:引きこもり、攻撃的行動(人や物にあたる)、アルコール量やタバコ量の増加、ミスの増 加、能率が悪くなる、遅刻・早退・欠勤の増加、金銭の浪費・・
ストレスを感じたとき、心や身体が変化するのは自然なことです。ストレス反応はストレスのサインです。何より「気づき」が大切です。ストレス反応は人それぞれ違いますので、自分にはどのようなストレス反応が生じやすいのか、自分の特徴を知っておくとよいでしょう。
ストレスのサインに気づいたら、ストレス反応が軽減するよう、ストレスと上手くつきあっていくための対処(=コーピング)を工夫してみましょう。
●コーピング
ストレスに対する対処行動をコーピングと言います。コーピングには主に、問題焦点型コーピング、情動焦点型コーピング、認知に対するコーピング、ソーシャルサポートがあります。
・問題焦点型コーピング:情報を収集して問題の所在を明らかにし、問題そのものを解決しようとする方法です。問題解決のために積極的な行動にでる、話し合う、状況を変化させる・・などがあります。
・情動焦点型コーピング:直面している問題にとらわれないように気晴らしをしたりして、ネガティブな情動的なストレス反応そのものを軽減させる方法です。散歩する、漫画を読む、カラオケ、映画をみる、音楽を聴くなどの気分転換、瞑想や自立訓練法、アロマテラピーなどリラクセーションの方法もあります。睡眠を十分にとること、栄養のある食事、休養や適度な運動なども大切です。
・認知的コーピング:認知とは、ものの考え方や見方のことで、それ感情や気分に影響することがわかっています。私たち誰にでも「認知の癖」がありますが、「バランス良く柔軟な考え方をすること」が大切です。例えば、「失敗してしまった」というとき、「もうダメだ。どうせ私は何をやってもうまくいかない」と考えるとドンドン落ち込みます。でも、「失敗は成功の元。何がよくなかったか原因を考えて、次また活かしていけばいいんだ」と思うと、落ち込みも緩和されるでしょう。
・ソーシャルサポート:友達、家族、職場の同僚や上司など人に相談したり、話を聞いてもらうことです。人は、批判したり否定されたりせずに、「そう思うのね」と肯定して話を聴いてもらえると、それだけでも随分とほっとするものです。あなたが信頼できる人に話を聴いてもらいましょう。助けを借りて、自分を労わりケアしましょう。
みなさんは日頃、どのようなコーピングを使っていますか?人によって有効な方法は違うので、自分のやりやすい方法を見つけておくことが大切です。ストレスの種類や程度によっても有効なコーピングの方法も違うので、いろいろなコーピングの方法を身につけておくとよいでしょう。
しかし、対処できないほどのストレッサーを経験したり、ストレッサーが長期間続いたりするとストレス反応も慢性化してしまいます。さまざまなコーピングを使っても症状が長引く場合は、早めに専門家に相談しましょう。
●リラクセーション法
情動焦点型コーピングの一つ、リラクセーション法を紹介しましょう。リラクセーション法は、ストレス反応を低減させ、リラックス反応を誘導し、心身の回復機能を向上させる方法です。リラックス反応は、環境や刺激が、安全・安心で、脅威でないと判断したときに起きる反応で、副交感神経系の活動が優位な状態にあります。多くの文化圏で古来より様々なリラクセーション法が実施されてきましたが、近年、医学的にもその有効性が確認されています。
リラクセーション法には、漸進性筋弛緩法(筋肉の緊張と弛緩を繰り返し行うことにより身体のリラックスを導く方法)、呼吸法、アファメーション(自分を励ます言葉を声に出す)、瞑想法、自律訓練法、芳香療法(アロマセラピー)、ヨガなどがあります。ここでは、セルフケアとして簡便にできる呼吸法を紹介しましょう。
・腹式呼吸法は、下腹部が膨らんだり、へこんだりするように呼吸する方法です。(臍の上に手をあて)体の力を抜いたまま、口からゆっくりと息を長く吐いていきます。このとき下腹部をへこます感じで息を吐いていき、苦しくならないところで、下腹部を膨らませる気持ちで、鼻から息を自然に吸っていく。これを繰り返していくのが腹式呼吸です。
吐く息に気持ちを落ち着ける効果があるので、吐く息に注意を向けて、ゆっくりと息を吐いていきます。この時に、「リラ~ックス」「落ち着いて~」と体の緊張も息とともに吐き出すようにイメージしながら脱力すると、リラックス効果が高まります。一回5~10分程度行いましょう。
ストレスに気づいたら、早目の対処が必要です。女性ライフサイクル研究所では、女性が人生で出会うストレスについて、カウンセリングでのご相談を受けています。心身の健康を回復し、ストレス状況を乗り越えていけるよう、ストレス対処からストレス・ケアまで、共に考えていければと思っています。
参考文献:
『女性ライフサイクル研究13号:特集ライフサイクルにおけるストレス・危機とケア』
『女性ライフサイクル研究19号:からだの声を聴く』
『ストレス・マネジメント入門』中野敬子著、金剛出版。・・など。