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FLCスタッフエッセイ

2021.02.02 カウンセリング
認知行動療法のワークショップに参加して

                                         西村 麻里 

 

 先日、といってももう昨年になってしまいますが、日本認知療法・認知行動療法学会のワークショップに参加しました。

 今の社会状況ですので、会場に集まっての実施ではなく、オンラインでの開催でしたが、ブレークアウトルームという、オンライン上で小グループに分かれての話し合いが多用され、家にいながらにして他の参加者の方たちとの交流もできる貴重な機会となりました。

 ワークショップのテーマは、認知行動療法の実践においてつまずきやすいポイント、というものだったのですが、私自身は認知行動療法を中心に据えたカウンセリングを行うことは滅多になく、他の技法と組み合わせて、テクニックの一つとして活用することがほとんどなので、本来認知行動療法がどういう風に行われ、何を目的として、何を大切にするのかということを改めて認識させられる思いでした。

 そこで、今回はこのワークショップを通して得た、私なりの理解や、私が実践する上で意識したり、大切だと思っていることをお伝えすることで、皆様の理解の一助となれたらと思います。

 

 私が普段行っている他の心理療法もそうなのですが、多くの場合、カウンセリングでは、お会いしているその時間の関わりに大きな焦点が当たります。

 認知行動療法ではそうではない、というわけではありませんが、しかし、それ以上に重要になってくるのが「ホームワーク」の存在です。

 ホームワーク、と言うと、つい学校の宿題のようなイメージを持たれるかもしれません。

 確かに、次に会う時までにこれを書いてきて、とワークシートを渡されることもありますし、その時の気分はまさに宿題を出された子どものようなものかもしれませんが、認知行動療法におけるホームワークの本質はそこではありません。

 

 カウンセリングの時間の中でできることには限界があります。

 例えば週1回のペースで通っていただいたとしても、残りの6日間はカウンセラーは一緒にいません。

 つまり、カウンセリングルームの中だけで何かがうまくいったり、いい状態になれたりするだけでは、実生活において生きやすさを感じることは中々できないのです。

 そこで、カウンセリングの中で話し合ったことを実際の生活の中へ持ち帰り、それでうまくいくかどうかを試してもらう、それこそが認知行動療法の重要なホームワークなのです。

 もちろん一度でうまくいくとは限りません。うまくいかないことの方が多いでしょう。

 でも、その試した結果を次のカウンセリングの時に報告してもらって、一緒に検討を重ね、よりよいやり方を見つけて、また試してきてもらう。

 それを繰り返していくことで、その方にとってのベストが段々見えてきます。

 

 さらに、この作業を長くに渡って重ねていると、カウンセラーの助けがなくても、自分で認知行動療法のスキルを用いることができるようにもなってきます。

 私自身は、こちらの方がより大きな目標だと意識しています。

 ある程度のところでもう大丈夫そうだと、一時的な立て直しとして使われる方も多いですし、それももちろん有意義なことですが、何度も繰り返して最初はうまくいかなかったところから少しずつ身に着けていかれて、

「自分でこんな時はこれを使えばいい、と気づいて、落ち込まないようにすることが出来ました!」

と晴れやかな顔で報告いただいた時などは、認知行動療法の実力というものをひしひしと感じます。

 

 とはいえ、認知行動療法も万能ではありません。

 やはり人によっての向き不向きもありますし、困られていることの内容や症状によってのいわゆる「適性」もあります。

 私が認知行動療法をメインとして行わず、いくつもある技法のうちの一つ、として用いている理由もそこにあります。

(誤解を招かないためにお伝えしておくと、認知行動療法を主な専門とされている方は、認知行動療法自体をアレンジして幅広く対応できるようにされています。私にはそれができない、というだけの話です。)

 でもやはり、一つの技法として必ず持っておきたい、と思わされる、底力を感じるものでもあります。

 

 最後に、今回のワークショップの中で一番私が印象的だった、講師の先生の言葉を共有して終わりたいと思います。

「今まで生きてきている、ということは、全く適応がないということはありえない」

 どんなにしんどくても、どんなにうまくいかないと思っても、今まで生きてこられている、というそのこと自体、自分ができていることがあるという、確かな事実なのです。

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