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FLCスタッフエッセイ

2014.11.02 カウンセリング
カウンセリングの窓から~私って誰?、本当の私らしさって?


西 順子

 「私って誰?」「本当の私って・・?」「自分のことがわからない」・・など、カウンセリングをお受けするなかで、自分自身についての悩みをよくお聞きします。
 特に青年期は、「自分とは何か」「自分はこれからどう生きていくのか」と自分に問い、考える時期ですので、自分について悩むのは自然なことです。

 エリクソンは、青年期の発達課題は「アイデンティティの確立」として重視しました。「自分とはこういう人間だ」「自分は自分である」とはっきりとした自分を感じ、自分を発見的に知ることで、アイデンティティ(同一性)が形成されるといえるでしょう。

 さらに、アイデンティティ形成は、青年期のみならず一生涯を通じて続く無意識的な発達プロセスです。女性心理学によれば、女性は「個の確立」よりも「関係性」が優先されて発達すると言われます。現代では女性の生き方も多様化しているため、「個の確立」と「関係性」との相互作用の中で、自分らしさを獲得し、人生の段階によってアイデンティティも変容していくと言えるでしょう。

 今回ここでは、「私らしさ」について知るためのツールの一つとして、ギリシァ神話に登場する「7人の女神」を紹介したいと思います。7人の女神は、女性のなかにある「行動や感情に影響を及ぼしている内的な力」「強力な生得的パターン」あるいは「元型」を人格化したものです。
 これを理論化したのは、ユング派でフェミニストの精神科医ジーン・シノダ・ボーレンで、「自分が何者であるのか」について、女性のなかにある内なる力と、文化や家族がどう影響を及ぼすかの両方の視点から、「女神の物語」を通して記述しています。

狩りと月の女神・アルテミス
 短いチュニックをまとい、弓と矢をたずさえ、ニンフを従えて荒野を歩き回る、野生に親しんだ女神です。月の女神でもあることから、光の使者としても表されます。
 アルテミス元型は、女性の自信と独立心を表しています。好奇心旺盛で、自分の狙った目標に集中し、追求していくことに喜びを感じます。犠牲になっている女や幼い者への思いやりがあり、女同士のつながりを大切にします。男性とは対等につきあいます。
  
知恵と工芸の女神・アテーナー
 ゼウスの頭から、完全な大人の姿で飛び出してきたと言われる女神です。美しい戦いの女神として知られ、鎧に身を包んで、都市を守り、知性を支配していました。
 アテーナー元型は、論理的で計画的な性質です。よく物事を考え、感情的な状況のさなかでも冷静でいられます。英雄を好み、自分が見込んだ男性には、その片腕足らんとし、有能な部下(または妻)になります。手先が器用で、タピストリーなど美しく実用的なものを生み出す才能があります。

炉の女神・ヘスティアー
 炉の中で燃えている火の女神。画家や彫刻家によって、描かれたことがない女神です。人間の形で表されたことはありませんが、神聖なものを象徴し、儀式の中で非常に尊敬されていました。家庭や神殿や都市の中心で燃えている炎の中に存在しています。
 ヘスティアー元型は、日常生活になくてはならないものです。一人の人格のなかにヘスティア元型が現れることも同様に大切であり、自分が無傷であり健全だという感覚が生じます。ヘスティアーが求めているのは静かな心の安らぎであり、孤独のうちに見出せます。

結婚の女神・ヘーラー
 最高神ゼウスの配偶者、正妻として知られています。名前は「偉大なる淑女」を意味します。ギリシァ神話では対照的な二つの側面をもっており、一つは結婚の強力な女神として儀式で崇拝されました。もう一つは、復讐心に満ち、嫉妬深い女として貶められました。
 ヘーラー元型は、喜び、もしくは苦しみを生み出す強力な力です。妻になりたい女性の願望を表しています。パートナーがいないと根本的に何か不完全と感じます。絆を結び、パートナーに誠実となり、一緒に幾多の困難を乗り越えていく力を与えてくれます。

穀物の女神・デーメテール
 娘である乙女ペルセポネーの母親として崇拝されました。冥界のハーデスに誘拐された娘を不眠不休で捜しましたが、ついに失望して一切の女神の仕事をやめてしまったことから、地上の穀物が育たなくなりました。困り果てたゼウスのとりなしによって娘を取り戻すことができました。娘と再会してから、大地に豊穣を回復させました。
 デーメテール元型は、母親元型で、母親になりたいという深い欲求、本能を表しています。他の人を養い育て、寛大な気持ちで与え、世話をやいたりすることに満足を覚えます。育てたいという欲求が拒絶されたり邪魔されるなら、抑うつ状態になります。この元型の養育的側面は母親に限定されず、援助職など職業を通じても表現されます。

乙女、冥界の女王・ペルセポネー
 ハーデスによって地下世界に誘拐された女神です。神話の始まりは、無邪気な少女でしたが、成長してのち、冥界の女王として成熟した姿で描かれています。
 元型としては、永遠の乙女のようで、行動するのではなく他の誰かから働きかけられるのを待っています。従順に行動し、態度が受容的です。また二つの元型パターンとして、乙女から女王に成長するか、心の中で乙女と女王が存在するかになります。春を象徴し、若さ、生命力、新しい成長に向かう潜在力をもっています。

愛と美の女神・アプロディーテー
 誕生と起源には二つの説があります。一つはゼウスと海のニンフとの間に生まれた娘、もう一つは暴力行為の結果として生まれています(「ビーナスの誕生」として描かれています)。アプロデイーテーは錬金術(変容)の女神でもあります。インスピレーションを吹き込んで、変容と創造をもたらす愛の力を象徴しています。
 アプロディーテー元型は、女性の愛、美、性、官能の喜びをとりしきります。誰かに恋し、恋におちるとき、アプロディーテーが存在します。創造的機能、生殖機能の両方を成就させることができます。

 皆さんはどの女神たちに親近感をもたれたでしょうか? どの女神たちが内側にいると感じるでしょうか?
 どの女性の心のなかにも女神がいます。そしてまた、一人の女性のなかにも多くの女神がいます。どの女性も、女神から学び、ありがたく受け入れるべき「女神」から与えられた天賦の才を持っています。魅力、強み、潜在的な力が備わっているのです。
 そしてまた、子ども時代・思春期~成人期(仕事、対男性関係、対女性関係)~中年期~晩年と、人生のライフサイクルに応じて、7人の女神それぞれの人生の物語があります。傷つきと苦しみ、成長のための課題もあります。女神たちの人生の物語から、女神の素晴らしさを知ることはもちろんのこと、女性が苦悩や困難を乗り越える知恵や方法も教えてくれます。
 

 「私ってどういう人間?」「私らしさって?」「私は今どこにいて、これからどこに行くのか?」・・等、人生の道の途中で悩むとき、「女神の物語」を知ることでヒントが得られるかもしれません。自分のなかにある女神元型に気づくことで、「ああそうか」と私であることに納得し、「ありのままの自分でいること」を理解され、肯定され、力づけられたと感じられることでしょう。

 詳しくは、『女はみんな女神』をご覧ください。⇒こちらからダウンロードすることができます。

 なお、今年度は第一日曜日の午前中、『女はみんな女神』の読書会・女性心理学グループを開催しています。関心がある方はぜひご参加ください。⇒グループのご案内 

 女性が、私が私であることを肯定し、自分らしく、自分の人生の主人公となることを願っています。

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