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FLCスタッフエッセイ

2019.10.09 トラウマ
認知からトラウマにアプローチする 〜トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSD:CPT)のご紹介その①〜

                                                                                    朴 希沙

「話を聴いてもらうだけでよくなるんですか?」「カウンセリングに意味があるんですか?」

 カウンセリングに対する、このような疑問をしばしば耳にすることがあります。カウンセラーがクライエントの話をただ「ふんふん」と聴き、受容する。そのようなイメージが一般的に浸透しているからかもしれません。

 しかし、一口に「カウンセリング」と言っても実は様々な種類や技法、考え方、歴史的背景が存在します。またうつや不安といった特定の症状によりエビデンス(治療効果に関する検証がなされているもの)が高い技法や治療法が存在し、新たな技法やその効果についても日々研究が行われています。様々な技法の中から何が最もお話してくださる方に合うのか、カウンセラーに何ができるのかを丁寧に見極めながら進めていくことが、カウセリングでは大切な作業のひとつになります。

 私は、普段は「認知行動療法(Cognitive Behavior TherapyCBT)」の技法を取り入れながらカウンセリングを行っています。認知行動療法では、人の「内面」や「心」というものを、①「認知(考え方や捉え方や解釈、イメージ等)」②「感情」③「身体反応」④「行動」に分けます。そこでは、無理に感情を変えようとするのではなく、まず考え方や捉え方の幅を少しずつ広げることを試みます。そして、これまでとは違うパターンの行動を実験的に行ってみる等、考え方と行動のレパートリーを増やすことを通して気持ちや身体反応にも働きかけようとします。このようなCBTは、うつや不安を始めとした多くの症状や悩みの整理に活用されています。

 さて、私は半年ほど前、女性ライフサイクル研究所のカウンセラースタッフ数名とともに「トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSDCPT)」に関する二日間の研修を受けてきました。

CPTはアメリカで2000年前後に開発され普及された比較的新しい心理療法で、基本的には12回のセッションによってトラウマの治療を集中的に行います。PTSDに対するエビデンスも蓄積されていますが、日本ではまだ広く知られていません。今回の研修も、CPTの開発を中心的に行ってきたPA・リーシック教授が来日し、開催されました。

これからCPTのトラウマに関する考え方、12回という限られた回数の中でCPTがどのようにセッションを進めていくのかといったことを2回に分けて書いていこうと思います。

CPTにおけるトラウマの考え方

 CPTは、トラウマ体験によって生じるPTSD(心的外傷後ストレス障害)に特化した心理療法です。それではまず、一体どのような症状がPTSDに当たるのか、その診断基準を以下に抜粋してご紹介します。

PTSDの症状

 PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)とい言葉は、災害や事故、事件に関連して耳にすることも多くなり、一般にも広く行き渡るようになりました。私自身も、日頃PTSD症状を抱えておられる方への対応に取り組んでいます。PTSDとは、危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など、精神的な衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されることで生じる、ストレス症候群のことをさします(日本トラウマティック・ストレス学会より:http://www.jstss.org/topics/01/  )。

 主な症状は、①侵入症状、②回避症状、③認知と気分のネガティブな変化、④過覚醒です。「侵入症状」とは、何かがきっかけとなり生じる、自分では思い出したくない記憶のことを指します。「フラッシュバック」と呼ばれることもあります。眠っているときは、悪夢として現れるかもしれません。

次に「回避症状」とは、思い出したくない記憶を思い出させる可能性がある刺激を避けることを意味します。特定の場所や状況、人を避けたり、避けようと努力したりすることがその例です。そこには、「記憶そのもの」を避けることと、「記憶を想起させるもの」を避けることが含まれます。このような避けること(回避)は、短期的には思い出さずに済む、恐ろしい感情に巻き込まれなくて済む、という効果が得られるのですが、長期的にはPTSDの症状を長引かせてしまうのです。

また③トラウマティックな体験をした人は、恐怖や怒り、罪悪感や恥などのネガティブな気分が持続するだけでなく、自分自身や他者、世界に対する否定的な信念や予想を持つことがあります(例:「私が悪い」「だれも信用できない」等)。④過度な警戒心や集中困難の状態、ときに自己破壊的な行動を示すことも、その症状のひとつです。

・トラウマティックな出来事を経験した後のPTSD症状からの回復と未回復

 トラウマを経験すると、誰しもに一時的なPTSD症状が生じます。それは、異常な出来事に対する正常な反応なのです。しかしCPTでは、トラウマティックな出来事からのPTSD症状からの「回復」と「未回復」に注目します。

 トラウマティックな出来事を体験すると、私達は自然に恐怖や怒り、悲しみといった感情を感じます。これは、CPTでは出来事に対する「自然な感情」と呼びます。

一方、トラウマティックな出来事が生じると、多くの場合私達はその「原因」について考えるようになります。「あのとき〇〇さえしていれば」、「こんなことが起こったのは私の責任だ」...起こった出来事「そのもの」ではなく、こうした「考え」からも感情は生じます。それは、多くの場合恥や罪悪感といったものです。

実は、先に示した「自然な感情」は十分に感じ、時間がたてば自然におさまっていくことが分かっています。しかし一方で、「考え」によって生じる感情はその考えが変わらない限りいつまでも持続し、強い感情を引き起こし続けます。私達は「自然な感情」と「思考から生じる感情」とを普段区別することはないのですが、両者の違いはCPTでは非常に重要なことです。

 また、自分ではコントロールできないような恐ろしい記憶に押し入られ、その記憶や感情、自分の考えに耐えられないと思ったら、そこから逃げよう、避けようとするようになります。もちろん、トラウマティックな出来事に取り組むことは避けたくなることなのは当然のことです。しかし、実はそのような「回避」こそがトラウマからの回復を妨げるとCPTでは考えます。

 つまり、CPTでは思考によって「作られた感情」と出来事そのものから生じる「自然な感情」とを区別し、トラウマティックな出来事から自然に生じる感情を湧いてくるのに任せて回避せずに体験し、十分に感じることができれば、トラウマから回復していくことができる、と考えるのです。「自然な感情」は、必ずおさまっていくからです。そのためには、トラウマティックな出来事が「なぜ」起こったのか、その原因に対する自分の考えや解釈(「あの時自分が〇〇さえしていなければ」「自分が悪かったから」等)について丁寧に検証し、必要があればより現実的なものに修正していく必要があります。なぜなら、原因に対する過度な思い込みや現実とは異なる考えが、トラウマティックな出来事について思い出したり感じたりすることを妨げ、結果的に症状を長引かせていることがあるからです。

 以上、今回はCPTのトラウマに関する考え方を中心に紹介しました。次回はどのようにセッションを進めていくのかについて、その概略をご紹介できたらと思います。

                        ・・・続く

【参考文献】

CPTの概略を知りたい方には

伊藤正哉、樫村正美、堀越勝著 『こころを癒すノート:トラウマの認知処理療法自習帳』 創元社

CPTを専門的に学びたい方には

PA・リーシック、CM・マンソン、KM・リチャード著 『トラウマへの認知処理療法:治療者のための包括手引き』

2019.02.22 こころとからだ
安眠のためのセルフケア

                                    西 順子

皆さんは、毎晩ぐっすりと、よい睡眠がとれていますか?
私はというと、昔は床につけばすぐに眠れ、もっと寝ていたいということはあっても眠ることに困ることはありませんでした。でも近年少しずつ、夜寝る時間が遅くなり、睡眠時間が短くなり、床に入ってもなかなか寝つけない日も出てくるようになりました。

子どもが幼い頃は保育所のお迎えの時間や子どもが帰宅する時間にあわせて、仕事をさっと切り上げて家に帰っていました。家事や子どもの世話をしていると、体力的にも消耗するので、床についてもすぐに眠れたのだと思います。
でも子育てが終わって自分の自由な時間が増えると、仕事を終えて帰宅する時間が遅くなり、夕食時間も遅くなり、寝る時間も遅くなり・・と、ワークとライフの生活時間のバランスが悪くなってしまいました。そんな生活に追われるなかで、ちょうど一年前頃、身体の不調に気づくようになりました。

それからというもの、健康のためにと「睡眠」を軸に生活習慣を見直してみることにしました。生活習慣を見直すことは、ワークライフバランスを見直すこと、そして何を大切に優先して生活するのか、生き方全体を見直すことにもなりました。

□現代日本人の睡眠の特徴は?

ところで、メディアでも睡眠に関する情報をよくみかけます。最近「睡眠負債」という言葉も知りました。わずかな睡眠不足が積み重なり、命に関わる病気のリスクを高め、日々の生活の質を下げていることが明らかになってきたそうです。

「国民の健康・栄養調査」(平成27年厚生労働省)によると、一日の平均睡眠時間は男女とも「6時間以上-7時間未満」が最も多く、6時間未満の割合が10年で有意に増加していると言います。睡眠確保の妨げになっているのは、20~50代男性は「仕事」、女性は20代が「就寝前の携帯電話、メール、ゲームの熱中」、30代が「育児」、40代が「家事」が最も高くなっています。

また、特に子どもや就労者の睡眠時間は世界で最も短いと言われています。就労者の男女別睡眠時間の国際比較では、女性は家事や育児の負担が大きいため、男性よりもさらに睡眠時間が短く、平日・休日問わず慢性的な睡眠不足状態と言います(厚生労働省e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」より)。

慢性的な睡眠不足は体内のホルモン分泌や自律神経機能に大きな影響を与えることがわかっています。睡眠不足によるホルモン分泌への影響から食欲も増大し、生活習慣病に罹りやすいことが明らかとなりました。

このように社会環境の問題ともいえる「睡眠時間」です。厚生労働省では睡眠対策として「健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条」を出していますので関心のある方は参考にしてみてください。→★
では私自身、安眠のために努力目標にしている「安眠のためのセルフケア」をまとめてみました。

□安眠のためのセルフケア

1. 毎日決まった時間に起きるようにする。
2. 朝起きたら、日光を浴びて、体内時計にスイッチを入れる。
3. 16時以降はカフェインを取らない。
4. 夕食は遅くとも21時までにとる。
5. 寝る前にお風呂に入り、ゆったりとリラックスするまで湯船につかる。
6. 夜は、パソコンやスマートフォンを見る時間を減らす。
7. 眠気を覚えてから床につく。
8. 適度な運動(思考をストップして、身体を動かす)

その他には、夜の飲み物はハーブティやデカフェにしたり、眠気がこないときはアロマオイルを嗅いだりしています。入浴時はリラックスする香りの入浴剤を入れます。
そして床についた時には腎臓に自分の手を当て(背側の下部肋骨辺りです)神経の興奮を落ち着かせるようにしています。腎臓を休めることで、その上にある副腎も休ませます。(『今ここ神経系エクササイズ』浅井咲子著より)

よい入眠のためのポイントは、自律神経の副交感神経を優位にし、神経系も内臓も休めるようにすることと言えるでしょう。

□わたしの場合、ヨガのすすめ

また半年前から続けているのが、朝ヨガ、夜ヨガです。
朝は10分程度、夜は15分程度ですが、朝晩にヨガを取り入れることで、一日の始まりと、一日の終わりとメリハリがつき、身体もリセットできるように思います。

朝ヨガは、こわばった筋肉や関節を伸ばし、動かすことで、身体が目覚めて代謝があがります(少し汗ばみます)。呼吸も深くなり、いい状態で一日を気持ちよくスタートできます。
また夜ヨガでは、今ここの体験に集中することでマインドフルネス状態になります。リラックスして覚醒度が下がり、頭を忙しくしている考え事や雑念が消えていきます。呼吸も深くなり、眠気も覚えます。夜ヨガをすることで、入眠がしやすくなりました。

ヨガが心身によいことはわかっていても、一人ではなかなか習慣化できませんでしたが、半年前にYouTubeのヨガプログラムを知りました(娘が教えてくれました)。ヨガ・インストラクターさんの優しい声かけに合わせてポーズをとって、身体に意識を向けるだけなので、自宅にいながら手軽にヨガができるようになりました(数年前、ヨガを学びヨーガ教師の認定もいただきましたが、日常生活には全く活かせませんでした)。

習慣として続けられているコツは、①容易なこと、できることから、②無理しない、できない日があっても気にしない、③自分が好きなこと、楽しいことが一番、です。

ヨガの他にも、筋トレ、自律訓練法、瞑想、散歩など、自分の好きなやり方で自分にあった適度な運動やマインドフルネスの実践をすることは、よりよい睡眠に役立つでしょう。

皆さまは、安眠のためにどんな工夫をしていますか?
また工夫してもなかなか眠れない、よい睡眠がとれないという時には、一人で頑張らないで、家族に協力を求めたり、上司に相談したり、専門家にもサポートを求めていただきたいと思います。

仕事や家事・育児(学生さんは勉強でしょうか)と、一人ひとりの仕事の負担が大きく、また人間関係の悩みが多い現代社会ですが、皆さまがよりよく日々を過ごせますよう、まずは「よい睡眠」がとれるようにと願っています。

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