- 2017.08.01 自然
- ヒヨドリの子育てから・・・
西川昌枝
野鳥の中でも、スズメやツバメはかわいらしいけれども、ヒヨドリは野生的過ぎて愛しく思ったことはありませんでした。少し前までは、、、。初夏から思いがけず身近にヒヨドリがやって来たその日々をここに書かせて頂くことにします。
私は、家の玄関前に少し大振りなオリーブの鉢植えを置いてます。
5月の中頃、ナイロン紐のくずと小枝が落ちていて「おかしいなぁ」と思ったのが始まり。家の周りでピーヨピーヨという鳴き声がよく聞こえるようになり、小枝を口にくわえた灰色のヒヨドリと目が合って「これは何かある」と気付きました。
よーく見てみると、ヒヨドリのペアがたった1.5mほどのそのオリーブの中にこっそり(堂々と?)巣を作りかけていました。びっくり。
すぐ近くで人が出入りするこの落ち着かない場所での営巣は途中で諦めるだろうと思っていましたが、その後もヒヨドリは「ここに決めた」とばかりにせっせ、せっせと枝やナイロンを運んできては巣を熱心に見事に作りあげました。
5月16日巣に卵がひとつ、それから1日1個ずつ増えて4つになり、母鳥がどっかり姿を現して卵を温め始めました。ヒヨドリの度胸たいしたものです。
この展開にちょっとワクワク。でも人が真横を通ったり(通路だし)、じっと見つめると怖がって飛んでいってしまう。結局人が母鳥の神経を刺激しないよう、静かに距離をとって配慮する生活に変えました。
それから俄然この卵がどうなるか気になり始め、朝夕、窓を細く開けて双眼鏡で巣を覗きました。抱卵するのは母鳥。父鳥は時々けたたましい鳴き声と共に姿を見せましたが、母鳥に代わって巣に入ることもなく、ただ「ちょっと顔見せに来ましたよ」って挨拶程度を済ませ、飛び去るのでした。
たぶん巣で卵の世話をするのは母鳥だけで「なんだか不平等だな」と思いました。
早朝ひとときのお出かけ以外ずっと巣に居て、無表情に見えた母鳥。疲れているように見えた日もありましたが、卵が孵るのを心待ちにしてたのかも。「お母さんは休みなしで大変だね」と労ってあげたかったです。
6月1日夜、雷雨暴風警報、外は嵐となり細いオリーブは激しく揺れて、今にも倒れるのではないかという有様に、、。植木鉢は毎年台風で倒れる軽量品。ヒヨドリはそんなこと知らなかっただろうに。
母鳥は吹き込む雨風でびしょ濡れ、それでも巣に覆いかぶさって、健気にじっと耐えて卵を守っていました。家の中に植木鉢ごと入れて安全にしてあげたいけれど母鳥に説明できるわけもなく、飛ばされそうな巣をハラハラしながら見守り、雨風が収まるまで眠れませんでした。木も巣も卵も無事で峠を越し、本当にほっとしました。
6月4日、何かちらちら見え、母鳥のお出かけの間にのぞくと雛が4羽誕生していました。つるつるのピンク色の命になってて、とにかく嬉しい。
雛たちは一斉に口を大きく開けてピィピィと盛んに餌をねだるので、今までお気楽だった父鳥も出番となり、日に何回も餌をくわえて飛来し、父鳥も母鳥も給餌で大忙しです。
黒い羽毛が生え目が開くとかわいくなり、一日一日賢くなり、雛だけのときは目立たないよう小さくなって眠る、誰に教えてもらったわけでもないのに、幼い雛の生き残る知恵に感心しました。
ヒヨドリの巣立ちはとてもはやくて、孵化からたった9~10日。そんな短い日数で成長するの?と半信半疑ながら、巣立ちの日を見逃さないようにしたくて指折り数えていたら、その時はきっちりやってきました。
6月13日朝、雛達が巣の中で羽ばたき始め、母鳥が雛の羽繕いするのを見て「いよいよ今日だ」と思ってからほんの数分後、あっという間の巣立ちでした。
父鳥が餌を巣のふちに置いたらそれが合図なのか雛達が次々巣から枝へ出て、ぱっと親鳥が空に飛び立つ。それを追ってすぐに3羽は頼もしく羽ばたいて飛び出しました。
1羽だけ巣でじっとしていて、もしや置き去りかと心配しましたが、親鳥は何度も戻ってきて、キーキー鳴いて呼びます。出遅れた雛はうまく飛べず落ちながら、それでも外へ飛び出していきました。
みな幼いのに、なんて勇気があるのだろう。いきなり飛び立っていけるなんて。
翌日までは雛の声がどこか近くからしていましたが、それもなくなり、鳥の姿が消え静まり返って、あるのは空き巣だけ。急に淋しい景色となりました。
頭に浮かぶのは、献身的な母鳥の姿、毅然として飛び立った姿、雛の生命力、、、寂しいのと安心したのが半分半分。
これ、卒母の気分でしょうか。
7月になり、この数日早朝に甲高い鳴き声が聞こえてくるので、「もしかしたらあの子達?」と思えて頬が緩みます。私は「独り立ちしたら遠くまで旅するのかな」と想像して、一緒に空を飛んでいくような気分を味わっています。
ヒヨドリの子育ては、命がけの全力ですがすがしかった。
巣立ったヒヨちゃんたちの命が輝きますように。
ヒヨちゃんたちがこれからもどこかで元気に飛び回っていますように。