- 2015.10.14 カウンセリング
- トラウマとレジリエンス~カウンセリングで大切にしていること
西 順子
女性ライフサイクル研究所では、1990年の開設以来、虐待、DV、性暴力など女性や子どものトラウマと回復をテーマに、カウンセリングからコミュニティ支援まで取り組んでいます。
カウンセリングに来談くださる方々から、「カウンセリングって何ですか」「カウンセリングって初めてでよくわからないのですが・・」とよくお聞きします。カウンセリングってよくわからないのは当然です。カウンセラーの私には説明責任がありますので、カウンセリングでできること、今後の可能性と限界など、今できる限りの説明をさせて頂きながら、同意のもとで、カウンセリングを進めていきます。
ここでは、カウンセリングをご検討されている方から、自分の生きづらさや苦悩がどこから来るのかわからない、今どうしていいかわからない・・という方まで、自分を理解しエンパワメントすることに役立てば・・と、トラウマのカウンセリングについて、カウンセラーとして大切にしていることをまとめてみたいと思います。
■トラウマのカウンセリングで大切にしていること
カウンセラーとして、トラウマ被害にあわれた方の回復をお手伝いさせていただくとき、大切にしていることが二つあります。一つは、虐待や暴力など自由を奪われ尊厳を傷つけられる体験はどれほど破壊的な影響を与えるか、被害者の視点からトラウマの影響を理解すること、もう一つは、誰にもトラウマを越えて生き抜く力、レジリエンス(回復力)が備わっていると信じ、レジリエンスを引き出し、レジリエンスを強められるようサポートすることです。
■トラウマの影響
被害にあわれた方が自分の生きづらさ、苦悩がどこに起因するかを理解することで、様々な症状は「自分がおかしくなったのではない」「異常な事態での正常な反応」と理解することが可能となります。自分の症状の理由がわかることは、自己否定、自責感、恥意識を乗り越えて、自己の尊厳を取り戻していく第一歩となります。
回復の第一歩は、「被害者であることを受け入れること」とよく言われます。
しかし「被害者である」と受け入れることは難しいことかもしれません。また受け入れるまで、とても時間がかかるものでもあるでしょう。「もっと何とかできたはず」「人に腹を立てたり、嫌悪したりする、愚痴ったりする自分が嫌。そんなことさっさと忘れて、前を向いていきたいのに」「自分が弱いから、もっと自分が強くならないと」「自分さえ我慢すればいい」と考えることもよくあり、それも自然なことです。
しかし、身体は症状や生きづらさとしてさまざまな形で訴えてきます。トラウマ的な状況や苦境を生き抜くなかで、その「傷つき」は、さまざまな症状や対人関係上の問題となって、「もう限界だよ」「これ以上無理だよ」と、声なき声として教えてくれているのだと思います。
「被害者であること」あるいは「傷つき」を受け入れることは、無力になることではありません。逆境を生き抜いてきた自分自身に敬意を示して、労わることであると思います。
カウンセリングでは、声なき声にも耳を傾け、「傷つき」を受け入れられるよう、症状について説明し、「傷つき」への理解を深めていきます。そして、症状とうまくつき合えるよう、コントロールするためのスキルを学んで頂いたり、心身へのアプローチ法を用いながら症状や苦悩の軽減を図ります。
■レジリエンス
トラウマ体験の中核は、恐怖感、無力感、孤立無援感です。「自分にはどうすることもできない」「一人ぼっちだ」という体験です。トラウマ的出来事に晒され被害を受けることで、自己や他者、世界に対する安全感、、安心感、信頼感が奪われるという、深刻なトラウマ(傷つき)を受けます。
一方で、誰もに、逆境を生き抜いてきたレジリエンス(回復力)があり、「強み」があります。「傷つき」を認めることが大切であるのと同様に、自分自身のもつ「強み」に目を向けることも大切です。
カウンセラーとしてできることは、自分がどうやってその状況を生き抜いてきたのか、そして今、どうやって何とかしのいでいるか、自分にあるレジリエンスに気づいてもらいながら、それを支持することです。そして、レジリエンスを強めることです。
回復のプロセスは、トラウマの影響を減らして、レジリエンスを強めていくことと言えるでしょう。
では、レジリエンスにはどのようなものがあるかと言うと・・、
レジリエンスの一つにコーピング・ストラテジー(対処戦略)があります。
自分がどうやってここまで生き抜いてきたか、そこに目を向けていただくことで、対処方法が見えてきます。自分自身は無力ではなく、生き抜いてきた自分があるのだと気づくことは自己を発見するプロセスでもあります。
例えば、子どもの頃であれば、「絵を描くのが好きだった、絵を描いているときは忘れることができた」「先生に読書感想文を褒められて嬉しくて、それから本をよく読むようになった」「漫画やアニメが好き」「とにかく勉強を頑張った。自分で自立して仕事ができるようにと」・・などがあります。
大人になってからであれば、「水泳をしているときは気分が晴れる」「美味しいものを食べにいると、気分転換できる」「アロマオイルなど、香りが好き」「仕事が支えてくれている」・・などがあるでしょう。
対人関係に困難を抱えているときには、「あまり関わらないようにする」とその人と距離をおくことや、味方になってくれる人の助けを求める・・などの対処をとることもあるでしょう。
レジリエンスの構成要因として、環境も大切です。私たち人間は環境との相互作用のなかで生きています。人は、コミュニティからアイデンティティ、所属感、意味を引き出します。安全な環境、安全な人との何らかの「つながり」があることは、レジリエンスを強めます。子どもの頃は環境を選べませんが、大人になって、可能な範囲で、安全な環境を選ぶことができればと思いますし、その選択肢が広がればと思います。
例えば、パートナーからのDVに晒されているというとき、「パートナーが怒りを爆発させ、きれそうなときは、家を出て、友だちの家に身を寄せる」「職場で理解してくれる人がいる。その方に相談にのってもらっている。」「自分のことを話せる友達が一人いる。しんどいときは、時々、話を聞いてくれる」「主治医の先生に話を聞いてもらっている」「子どもの心配ごとについては、保育所の先生に相談している。話を聞いてもらうとほっとする」・・など、逆境にあっても、安全な人とのつながりを保つことが大切です。
■回復のプロセス
このようにトラウマのカウンセリングでは、トラウマの影響への理解を深めながら、回復への道標となるレジリエンスを発見し、強めていけるよう取り組んでいます。トラウマから回復は、トラウマの影響を減らしながら、自分のもつ力を発見し、「つながり」を回復していくプロセスでもあるのです。それは、希望を見失わず、命を肯定することであると思っています。
回復のプロセスは、お一人お一人が違い、個性的なものです。来談くださった方の希望やニーズ、意思、選択を第一に寄り添いながら、伴走者となって、回復の道を歩むお手伝いができればと思っています。
※カウンセリングについては、こちらをご覧ください。⇒カウンセリングについて
※トラウマからの回復とレジリエンスについてはこちらもご参照ください。
⇒「トラウマからの回復とレジリエンス・モデル~回復の3段階と8次元」
■関連記事
2015年4月FLCエッセイ「セルフケアのヒント」
2014年6月FLCエッセイ「女性のトラウマとセルフケア」
2009年6月FLCエッセイ「心と身体をつなぐトラウマケア」
2007年7月FLCエッセイ「トラウマ反応とケア」
2006年11月女性ライフサイクル研究第16号「レジリエンス~苦境とサバイバル」
1999年11月女性ライフサイクル研究第9号「生態学的視点からみたトラウマと回復」
1999年11月女性ライフサイクル研究第9号「女性のトラウマと回復」