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FLCスタッフエッセイ

2018.12.12 コミュニティ
2018年度対人援助学会第10回大会に参加して

                                                           朴 希沙

去る111718日、立命館大学にて開催された対人援助学会に参加し、ワークショップを行ってきました。

対人援助学会とは、「既存の医療・福祉・心理・教育等の学問領域を超え、広く『人を助け、エンパワメントを実現する』支援実践や臨床研究の探求を通じて、『対人援助学』(Science for Human Services)の創造という多職種の、学問と実践の『連携と融合』の舞台となること」(対人援助学会ホームページより)を目的に設立された学会です。

既存の枠組みにとらわれず様々な領域で活動をしている専門家・非専門家の方々が集まり、お互いの実践について紹介したり交流を深めたりする刺激的な学会です。

私は、現在翻訳・出版活動を行っている「マイクロアグレッション」という概念について紹介し、ワークショップを開いてきました。

今回は、旧来の明白な差別とは異なる、現在の曖昧な形態をとる差別「マイクロアグレッション」について少し紹介させていただこうと思います。

私がマイクロアグレッションに出会ったのは、在日コリアンの当事者研究グループを行っているときでした。

近年、在日外国人を始めとして、社会的弱者の人々を攻撃するヘイトスピーチが話題になっていますが、私たちはグループを行っている際、ヘイトスピーチとは異なる日本社会で経験する形容しづらいもやもや感、心理的ダメージについて説明する言葉が必要であることを感じていました。

Microaggression(マイクロアグレッション)という用語はChester Pierceによって1970年代に初めて使われました。

Pierceは論文の中で、日常的にアメリカの黒人に向けられる、形容しづらい、しばしば無意識的に行われる中傷や侮辱を言い表そうとしたのです(Pierce, Carew, Pierce-Gonzalez, & Willis, 1978)。

現在、マイクロアグレッションは①明示的に相手を傷つけることを目的として行われるMicroassault(マイクロアサルト)、②無意識的に相手を侮辱するMicroinsult(マイクロインサルト)、 ③無意識的に相手の社会的経験を無価値化するMicroinvalidation(マイクロインバリデーション)の 3 種類に分類されています。

その中でも、マイクロインバリデーションが最もネガティブな影響を被害者に与えると考えられています。

マイクロインバリデーションとは、例えば、人種差別に悩んでいる黒人の人に対して白人が「肌の色なんて関係ないじゃない。私はあなたを黒人として見たことなど一度もないわ」と言うことや、「世界にはたったひとつの人種がある。それは、人類という名の人種さ」と言う発言等が当てはまります。

これらの発言は攻撃の意図が明確にあるわけではありません。むしろ、相手を励まそうとして言った言葉かもしれません。

しかし一方で、これらの発言は、相手の人種的・社会的経験を無視し、存在しないものとしている点で、その体験や発言を無価値化することからマイクロアグレッションの一形態とされます。

どんなマイクロアグレッションも、1 度だけなら影響は小さいでしょうが、日常的な累積によって、旧来の明白な差別以上に被害者に怒りやフラストレーション、孤独感や自らのアイデンティティへのネガティブな感情を生み出し、自尊心や自信を喪失させる可能性があることが示唆されています(Sue et al.,2007)。

ワークショップでは、マイクロアグレッション概念の紹介の他、複数の事例を会場で朗読し、それについて小グループに分かれてディスカッションしました。

小グループのディスカッションでは、マイクロアグレッションという概念への戸惑いや、自分がこれまで体験してきたこと、マイクロアグレッションが起こったらどうしたらいいか、等について話し合いました。

今回のワークショップを通して、私はマイクロアグレッションが人々の言動をラベル付けしたり評価したりするためのものではなく、対話の種になればいいなと改めて感じました。

例えば、社会的に異なる立場の人が交流した際、そこで立場の弱い人が嫌な思いをして、なかなかそれを言語化しづらいことがあるかもしれません。

マイクロアグレッションは多くの場合無意識的に生じるので禁止や予防は非常に難しいと考えています。この社会で生きている以上、差別や偏見から自由な人などほとんどいないでしょう。

だとしたら、無意識的で曖昧な差別や偏見(マイクロアグレッション)を相手に向けてしまった時、それはある意味仕方がないことと一旦受け止めた上で、そのことを契機にいかに相手と対話していくことができるのかが重要になってくるのではないかと思います。

そのためには、「なぜマイクロアグレッションをしてしまったのか」ということを個人に問うよりも、「どのような関係、状況でマイクロアグレッションは生じるのか?」ということをテーマに、マイクロアグレッションという現象そのものを探求していく必要があるのではないかと考えています。

つまり、差別の被害・加害を個人の特性や心に還元するのではなく、無意識的に私たちが共有している社会的事柄として、マイクロアグレッションという現象そのものをテーマに据え、それを「研究」するという態度で話進めていくという方法です。

私は、今回の学会でのワークショップを足がかりに、今後様々なところで同様のワークショップを開いていきたいと考えています。

日常の中での小さなすれ違いや立場の違いから生じる葛藤について、どのようにすれば安全に相手と理解し合える対話が出来るのか、今後じっくりと模索していきたいと思っています。

【参考文献】

Pierce, C., Carew, J., Pierce-Gonzalez, D., & Willis, D. (1978). An experiment in racism: TV commercials. In C. Pierce (Ed.), Television and education (pp. 62- 88). Beverly Hills, CA: Sage. 

Sue, D. W., Capodilupo, C. M., Torino, G. C., Bucceri, J. M., Holder, A. M. B., Nadal, K. L., & Esquilin, M. (2007). Racial microaggressions in everyday life: Implications for clinical practice. American Psychologist, 62, 271-286.

Sue, D.W.(2010). Microaggressions in Everyday Life: Race, Gender, and Sexual Orientation. Hoboken, N.J.: John Wiley & Sons.

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