- 2016.01.19 子ども/子育て
- 思春期の子どもの世界 --通過儀礼と心の成長
金山 あき子
「思春期の子どもの考えていることがわからない」。「反抗的な子どもと、どう関わっていいのかわからない」。といった声は、臨床の場面でも、よく出会います。この時期の子どもの心には、一体何か起こっているのでしょうか。
思春期とはまさに、「疾風怒濤(しっぷうどとう)」の時代。子どもの世界から、大人の世界へと進んでゆく大きな変化の時で、その心には大きな嵐が吹き荒れます。
古代では、子どもから大人への変化の時期には、「通過儀礼」という儀式がコミュニティの中で行われることで、その嵐の時期を体験し、切り抜けるという知恵がありました。古代における、大人になるための通過儀礼では、様々な困難や「試練」が与えられます。その「試練」には、母親の元から引き離され森の中に連れて行かれ、高い崖から飛び降りたり、断食をして自分の将来のビジョンが見えるまで一人で山に篭ることなどがあり、まさに生死をかけたような危機的体験を乗り越える事で、大人になるとされてきました。しかし、古代のように明確な「通過儀礼」が無い現代では、個人個人が、各々の形で、昔より比較的長い時間をかけて、大人になるための「試練」を体験していると言えます。
「自分」というものができてくるにつれ、これまでは自分を守ってくれ、居心地が良かったはずの家族(母親)との世界が、次第に息苦しいもの、居心地の悪いものと感じられます。また、心のより深い層では、「自分とは何者なのか」という、大きなテーマが動き出します。大きな変化の時期ということは、古い自分(子ども時代の自分)の「死」と直面するとさえ言っても過言ではなく、そこには大きな喪失感や、不安感も存在します。思春期特有の不安定な言動は、「親から自立したい」気持ちと「まだ子どもでいたい」という両極を動く気持ち、さらには、「自分とは何者か」という、実存的とも言える大問題と向き合い出していることの表れなのです。
私がまだ十代のころ、「魔女の宅急便」の映画が大好きでした。「あのキキみたいに、遠い国に修行に出て、魔女になりたいなあ・・」などと、夢見がちに、主人公の独り立ちの物語を、憧れとドキドキワクワクした気持ちで何度も繰り返し見ていたことを思い出します。物語は、13歳の魔女の血を受けつぐ少女キキが、親元を離れ、新しい街で、空を飛ぶホウキに乗って配達をする仕事をしながら暮らし始めます。キキは街の人々と出会う中で、人生にまつわる喜びだけでなく、悲しみ、鬱屈など、複雑な感情を学んでゆきます。そんな中、ある日母親からもらったホウキでは空を飛べなくなるのです。・・最後には、友人のトンボを助けるため、デッキブラシで飛ぶことで、新たに魔法の力を取り戻す、といったストーリーです。ここには、母と一体であった子ども時代の自分に一度終わりを告げ、試練を乗り越えることで、新しい存在としての自分(自分自身のやり方で魔法を使うこと)を生み出してゆくというテーマが描かれています。今思うと、私自身、ちょうど思春期の自分の課題である親からの自立や、「自分らしさ」を見つけてゆく、という通過儀礼的なテーマを重ねて、この物語から成長への力を得ていたのだろうと思います。
思春期の子どもが、日常の言葉では説明のつかないような苛立ちや、不安定さを抱えている時に、小説、アニメやファンタジーなどで表現された「物語」に触れることで、どこか自分の気持ちの「言えない」部分をすくってもらったようにすっとした気持ちになったり、力をもらうことは、多いようです。こうしたイメージに触れることも、通過儀礼の時期を支える一つの資源となることでしょう。
また、この時期の子ども達が反抗的になったり、言葉で自分の思っていることをうまく言えず、何を聞かれても、「別に」。「フツー」。と言って、詳しく答えずにすませようとするのは、自分では手に負えない位の、心の中の大きな嵐が背景にはあります。
思春期の子どもに接する周囲の大人は、子どもの心の中ではうまく言葉にできないほどの嵐が起こっているということを理解し、その時期をくぐり抜けることが変容・成長へとつながることを信じ、良い「距離」を保ちつつ見守ることが、子どもへの大きなサポートになります。
思春期の子どもへの関わり方という点で、当研究所では、思春期の子どもを持つ保護者の方を対象に、子どもとの関わり方について学べるプログラムが、2月8日、22日に開催されます。 ご興味のある方は、ぜひ一度、チェックしてみてください。
詳しくはこちら→「CARE・思春期の子どもをもつ保護者向けワークショップのご案内」
参考文献:好きなのにはワケがある (2013)岩宮恵子 ちくまプリマー新書
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