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FLCスタッフエッセイ

2012.01.10 トラウマ
トラウマと身体~ソマテイック・エクスペリエンス(SE)と出会って

西 順子

 2012年1月、ソマティック・エクスペリエンス(SE)認定プラクティショナーとしての認定をいただいた。新年早々、認定の連絡がメールで届き、心から「やった~!」と嬉しく、喜びに満たされた。 

 ソマティック・エクスペリエンス(SE)に出会ったのが、2008年。『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(P・リヴァイン著、雲母書房)の本を、そうそう・・、なるほど・・と興奮する気持ちで読んだことを今でも覚えている。子ども時代の虐待や性暴力被害など、トラウマ臨床に携わるなかで感じてきた<もっとどうすれば回復できるのか>、つまりトラウマの再現によって生じる恐怖、不安を、圧倒されずにどう緩和できるのか、という問いに答えてくれるように感じた。トラウマを「身体」の側面から理解すること、それがトラウマからの回復と癒しの鍵になるということに納得した。ぜひ、このSEを学び臨床に役立てたい・・と志して早3年半。今振り返れば、幸運な出会いに恵まれて、今ここに、辿りつけることができた。無事にここまで来れたことに、感謝の気持ちである。

 3年間のトレーニングで感じたことは、折にふれてエッセイや日記などでも書いてきた。2009年には年報19号『身体の声を聴く-肥大化した心の時代に』のなかで論文としてまとめたが、SEを学ぶなかで、私自身も変化を体験してきた。何より、以前と比べて、自然体で落ち着いていられるようになったことが有り難い。

 SEでいうところの「落ち着く」とは、自律神経系が落ち着いてバランスがとれていること、つまり、交感神経系の「楽な活性化」と、副交感神経系の「楽な解放」との継続したサイクルがあることである。それは、呼吸のリズムや深さ、心拍数、筋肉の緊張と弛緩、五感など身体感覚によって感じることができる。私自身まだまだ、活性化しすぎて過度に緊張したり、イライラしたり、動揺したり・・することも多々あるが、そのことに気づくだけでも違うように感じている。神経系が落ち着いているときは、くつろいでリラックスしつつも機敏で、他者ともつながることができ、情緒的に安定していて、さまざまな状況下で適切に対応できる・・と言うから、そんな状態に少しでも長く留まっていたいものだと思う。

 「心と身体がつながっているって、こういうことなんだ」と、自分の身体で実感することで、生きているってすごいことなんだと、生きていることそのものに、有り難く感謝するようにもなった。そして、人間の存在全体に対しても、畏敬の念をもつようになった。身体とつながることで、個の意識を超えて、スピリチュアルなものとつながれるように感じている。本能的な生命の営みによって生かされていること、生かされた命を大切にすることが、私自身にまずできることであると、地に足を着けて、自分の中心にいられるよう意識するようになった。

 身体はトラウマを覚えてはいるが、身体感覚に耳を傾けて、身体に備わる自然治癒力や回復力へとつながることで、解離したままのトラウマ記憶を消化、解放していける可能性が生まれる。それはまた、「人とのつながり」のなかで、安全に感じられてこそ可能となる。 生まれたときから、目と目を合わせるアイコンタクトが、安心してこの世界につながる始まりであるように。

 ハーマンさんの『心的外傷と回復』のなかで、私が一番好きなのは、最後のページ。最後の言葉、「他の人々と共世界をつくりえた生存者は生みの苦しみを終えて憩うことができる。ここにその人の回復は完成し、その人の前に横たわるものはすべて、ただその人の生活のみとなる」は、しみじみと心に響く。誰もが、人々とのつながりのなかで、安全で平和に、日常生活を暮らせるようにと願い、祈りながら、SEで学んだことを、トラウマ臨床に役立てていきたい。

(2012年1月)

2011.05.12 カウンセリング
セルフケアのヒント~肯定的な感覚(リソース)を強める

西 順子

 新緑が美しい季節となりました。植物の生命力から、活き活きとした自然のエネルギーを感じます。一方で、連休明けのこの時期はわけもなく憂鬱になったり、焦ったり、疲れが出やすい時期でもあります。新しい環境や生活の変化に適応しようとして、一時的に強いストレス状態に陥っていると言えるでしょう。眠れない、食欲がない、頭痛や腹痛など、ストレス反応が身体に出る方もあるでしょう。強いストレスがかかると、ストレス反応が生じるのは「自然なこと」です。ストレスを何とか乗り越えようとして、心と身体が闘っているのです。ここでは、ストレス反応を和らげるためのセルフケアの一つとして、肯定的な感覚(リソース)を強める方法を紹介しましょう。

 肯定的な感覚にはどんなものがあるでしょうか。例えば、ハーブや花の匂いをかぐ、和ませる音楽や元気の出るエキサイティングな音楽を聴く、公園を散歩する、ペットと遊ぶ、熟した桃やオレンジの味を楽しむ、マッサージを受ける、美しい絵を観に美術館に行く・・等は、直接に感覚とつながり、自分を慰める行動です。

 皆さんは、どんな感覚の経験が好きですか? 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など、五感の感覚ごとに、心地よい経験を思い出し、それを行動に移してみましょう。心地いい感覚に意識を向けて、その感覚に留まってみましょう。その感覚を呼吸と一緒に吸いこむようにして感じてみるのも効果的です。実際に行動できないときは、想像力を使うこともできます。心地いい感覚の経験をイメージし、イメージの世界のなかで感じてみましょう。

 ストレスを感じ、心身にさまざまなストレス反応が出ているとき、肯定的な感覚の経験を意識的に取り入れることで、ストレス反応を緩和し、心身の状態を落ち着かせることができます。カウンセリングでは、自分自身のストレス反応について理解し、ストレス反応を緩和させるために身体感覚を用いた方法を使っています。関心のある方はカウンセラーにお尋ねください。
                             
                            (2011年5月発行:ニュースレター特集より)

2011.05.10 こころとからだ
ヨガ入門

西 順子

 ソマティック・エクスペリエンス(SE)トレーニングも今年はいよいよ三年目の最終年。5月連休に札幌で開催されたが、テーマは「統合」。これまで学んだことを統合しながら、症候群のような、より複雑なストレス症状を理解するというものだった。そのアプローチ法はとてもシンプル。シンプルであって奥深かった。今回のトレーニングの講師はブラジルから来て下さったラエル先生。その先生がまたとても素晴らしかった。その先生の安定感と落ち着き、そして日本まで来て下さった熱い思いに胸を打たれた(一週間のトレーニングの間、どんどん日本語が上手になられたが、私たちに直接自分の言葉で伝えようとして下さる姿勢にも頭が下がる思いだった)。そして、まさに心身統合されている先生から、安定化、統合というテーマについて学べたこと、尊敬する先生に出会えたことに心から感謝だった。先生は趣味で合気道をやっているというから、日頃から心身を鍛練しておられるのだろう。今回のトレーニングで、「心身統合」が私のキーワードとなった。

 実習では更に「心と身体はつながっている」ということ、「身体から入ることでの心の変化」を実感。日頃から、自分自身が心身統合の状態を維持したり、バランスを崩したときには心身統合に戻れるようセルフケアすることが大切だということを再認識した。それはリラックス系のセルフケアというより、心身統一としてのセルフケアの必要性を感じた。それには「ヨガがいいよ」とSE仲間から耳にする。朝晩ヨガを続けていて、心身の状態がとてもよくなったと言う。確かに精神的にもいいし身体によさそう、私もやってみようと、まずは身近なところから、ジムのヨガ・プログラムに参加してみることにした。

 そう言えば今年度に入ってから、ジムのスタジオ・レッスンではヨガ・プログラムの時間が増えている。ヨガは人気があるようだ。パワーヨガ、ナチュラルヨガ、ヨガ・・と名称もいろいろ。どう違うかわからないが、とりあえず夜間の時間帯で出られるものに参加。今のところ、パワーヨガが面白くなってきた。とっても心地いい。ヨガのポーズは、ストレッチのようで気持ちいい。筋だけでなく、いろんな関節も動かすが、それがまた気持ちがよいものだ。難しいポーズもあるが、普段動かさないところを動かすと(縮こまっている筋肉を伸ばす、関節を開く等)、後ですっきりするような解放感がある。

 お手軽なものではなくて、本格的な?ヨガってどんなものかと興味をもって、友達お薦めのアイアンガーヨガ教室の体験レッスンにも行ってみた。はやり本格的! じっくり90分間、ヨガのポーズに集中する。アイアンガーヨガの特徴は、丁寧なアライメント(正しい姿勢)のアサナ(ポーズ)にあるらしい。確かに、じっくりと呼吸と共にアライメントのポーズに集中するが、まさに心身統一の、静かな時間だった。慣れないポーズは、痛かったりもしたが、終わった後は心地よい疲れ。そのあととても眠くなったのは不思議だった(ヨガで副交感神経が優位になったのか・・)。

 ヨガのなかでも、ヨガ療法とされるものは代替医療として取れ入れられつつあるから、とても心身の健康のためによいのだろう。今のところ「心地いい」「落ち着く」という実感しかないが、続けていくと心身への効果が期待できるのだろう(冷え症もなおるかも)。

 心と身体の声に耳を傾けながら、心身統一するためのセルフケアの時間をつくっていけるといいなと思う。

(2011年5月)

2010.09.10 こころとからだ
ドキドキとワクワクは、生活のスパイス

西 順子

 子どもが成長し、子育ても終わりに近づいてきていることもあり(家には受験生の娘が一人)、一日のなかで仕事の割合が増えていっている(仕事ができるというのは本当に有り難いことと感謝)。日常生活では家と職場の往復の毎日であるが、つい、生活スタイルはワンパターンになりがちである。しかし、日常生活の中で、ちょっとしたワクワクやドキドキ、つまり新たな発見や刺激といったスパイスがあると、新鮮な気持ちでエネルギーが活性化することに気がついた。

 最近のワクワクとドキドキを思い出すと・・、

 たまたま数か月前に、食材の注文を何週もしそびれていたことから(食材の宅配サービスを利用)、別の会社のサービスも利用してみた。そこでは、有機栽培や減農薬などの安全な食材を提供しているのだが、その野菜や果物、お肉の美味しさにビックリした。素材がおいしいと、凝った料理をしなくても(そもそも凝った料理はできないが)、炒めものは「塩・こしょう」、煮物は「出汁・しょう油・みりん・酒」だけで、とっても美味しく頂ける。今は、野菜ってこんなにおいしかった?という素材のおいしさに、刺激とエネルギーをもらっている。今一番のお気に入りは南瓜。美味しくご飯が食べられるとき、満足感で幸せを感じる。

 それから、身体を動かすことについて。身体を動かしたいと思う時は、お決まりのエアロビクス・プログラムに参加していた。先日、とっても暑い日曜日の昼過ぎ、たまたまエアロビクス・プログラムがなかったため、プール・プログラムに参加してみることにした。水泳は、水着に着替えるのが面倒だし、目や耳、鼻に水が入るのが不快と、あまり好きではなかった。でも、アクアビクスは楽しそうと参加してみたが、その流れで、初級平泳ぎ、初級クロールのレッスンも参加してしまった。水泳を習うのは、20数年ぶり。でも、先生がポイントを上手に教えてくれたおかげで、苦手だった平泳ぎが、とっても気持ちよく感じられた。スイ~スイ~と水のなかで泳ぐ心地よさをちょっとだけ体験することができた。クロールはとてもしんどかったが、シニアの方々がスイスイ泳いでいる姿に凄い~と、もっと泳ぎたくなった。水泳に適した水着がなかったので丁度バーゲン中の水着と耳せんも購入し、いつでもまた参加できるよう準備は整えた。もしも・・水泳が上手くなれば、来年はダイビング教室にも参加できたらいいなと密かに思っている(ここに書いたら密かではない?)。そう考えるだけでワクワクしてくるから不思議だ。

 それから、この夏は思い切ってボディワークも体験。臨床で身体感覚を使ったアプローチを取り入れていることから、もっと身体感覚について自分自身が学びたいし体験してみたいと、今、ボディワークの一つロルフィングを受けている。ロルフィングを体験してわかったことは、日頃自分自身の身体感覚に注意(意識)を向けるようにしていたつもりだったけれど(呼吸や五感など)、自分が注意を向けていると思っていたのは、ほんの一部に過ぎなかったということ。ロルフィングを受けて、身体感覚に注意を向けて感じられる範囲が拡がった感じがする。例えば、歩いているときに、ちょっと視野の角度を拡げてみたり、脇腹あたりにも意識を向けたり、身体の軸を感じてみることで、「この世界にいる」「この世界に立っている」という感覚がもてる(ロルフィングのコンセプトは、重力との調和だそうだ)。感覚が拡がることで、身体がもっと自由になった感じがする。ロルフィングの効果かどうかはわからないが、寝つきも更によくなった。重力にまかせて寝るのか?理屈はわからないが、とにかくよく眠れるのは有り難い。

 その他にも、読みかけの何冊かの本、好きなテレビ番組など、日々のちょっとしたドキドキとワクワクをあげると、もっとありそうだ。よりよい援助が提供できるよう、まずは生活のなかでのちょっとしたドキドキとワクワク、新しい発見と刺激を楽しみながら、心身のエネルギーを保ち続けられたらと願っている。

(2010年9月)

2009.09.10 こころとからだ
ソマティック・エクスペリエンス(SE)トレーニングに参加して

西 順子

 9月17日の夜~23日まで、東京で開催されたソマティック・エクスペリエンス(SE)トレーニングに参加した。SEとは、「身体感覚」をベースにしたトラウマ治療法であるが、5月に初級トレーニング前半を終え、今回はその後半だった。日常から離れ、講師の先生やアシスタント&スタッフの方々、参加者の皆さんと一緒に過ごした6日間はあっという間で、とても濃密だった。

 トレーニングのプロセスを通して、私自身が変化していくことを感じたが、それは「穏やかな癒し」とでもいうような、新しい体験だった。トレーニングの場での、講師によるSEセッションのデモストレーション、グループでのSE手法の実習などを通して、参加者の皆さんと共に、私自身の心と身体も共振し、共感とともに、トラウマの悲哀を悼むプロセスをたどらせて頂けた。それは、その場が安心してつながれる、安全なコミュニティであったからこそと感謝している。ここでは少し、トレーニングの合間に受けたSEの個人セッションの体験を紹介したい。

 日頃から、疲れると左側の肩と首に痛みを感じていたが、SEのグループ実習でも、身体感覚に注意を向けると、左側の目や顎が緊張し力が入り、肩首も痛く重くなった。この感覚は何を意味しているのだろうか?と以前から気になっていたが、セッションではセラピストのガイドに添って身体の感覚や動きに注意を向け、身体の「声」に耳を傾けていった。そのプロセスのなかで、「あたたかい感覚」に触れたとき、ふと涙が流れて出てきた。頭ではどうして涙が出るのかわからない、ただ目からは涙がこぼれ落ちていた。そのあと、ふと懐かしい「ある感覚」が現れた。その懐かしい感覚に気づいたとき、潜在記憶が現れたのだった。それは私の記憶の一コマである、高校生の自分だった。イメージのなかで、身体をベースにしながら、その高校生の私、今の私とが対話するなかで、イメージも動き、変化していった。そのプロセスはとても創造的で、不思議で、とても新鮮なものだった。身体とは、無意識の宝庫であるのことを実感した。そして、人間という存在に対して、畏敬の念を抱いた。セッションが終わったときは、内側から満たされる穏やかさと落ち着きを感じていた。

 講師の先生は、トラウマの癒しにとって「社会的なつながり」の感覚が大切なことを何度も言われていた。SEのセッションでは、高校生の私が今の私とつながり、トレーニングの場では、国籍や居住地や年齢を超えて、社会的なつながりを感じることができ、安心して自分を外にひらくことができたのが嬉しかった。共に学び、共感しあい、体験を共有したSE療法家の先生や仲間たちとの出会い、そこで生まれたあたたかいつながりに感謝したい。そして、自分が学び、体験させてもらったことを支えに、日常の臨床に取り組んでいければと思っている。

※SEトレーニングについては、日本ソマティック・エクスペリエンス協会サイトをご参照ください。

(2009年9月)

2009.07.10 こころとからだ
身体の声を聴く~身体感覚のリズム

西 順子

 今年の年報のテーマは「身体の声を聴く(仮題)」。今スタッフそれぞれが年報のテーマに取り組んでいる。私自身も、日常生活のなかで、また臨床活動のなかで、近年少しずつ「身体の声を聴く」ことを意識するようになってきた。

 日常生活で身体に注意を向けるようになったきっかけの一つは、4年前のこと。ストレスのせいか体重がどんどん増え、ついに健康診断で「肥満度1」のチェックが入ってしまった。そのころ、体調もよくなかった。身体がしんどくて、どこか悪いのではないかと疑ったが、健康診断で他の異常はない(コレステロール、中性脂肪にはチェックが入っていたが)。慢性疲労だったのか? メンタル面からくるしんどさだったのか? 老化からくる変化か? 原因はよくわからないが、身体のしんどさに不安を感じていた。健康診断の結果を機に、このままではいけないと思い立ち、肥満を解消しよう、生活習慣を変えようと(夜、家で仕事をしたりパソコンに向かっていると、やたらとお菓子を食べてしまう)、ジムに行ってみることにした。以前ジムに入会したこともあったが、その時は挫折した。ただ黙々と走るランニングマシーンがおもしろくなくて、続かなかった。だから今度は、マシーン以外のものでやってみようと、スタジオプログラムに入ってみた。そこではじめてエアロビクスに出会ったのだが、それがとても楽しくて、すっかりはまってしまった。最初の目的はどこかに行き、とにかく楽しいし、上達するのも嬉しくて、一年間は時間を見つけてせっせと通うこととなった。

 中学の頃、一年間だったがモダンバレエを少し習ったこと、20代の頃にも一年くらいジャズダンスを習ったことも思い出し、自分はダンスが好きだったんだ、と懐かしい気持ちになった。しかも、昔は振付を覚えるのが苦手で、ダンスを楽しむまでには至らなかったが、エアロビクスは覚えやすくて、楽しめる。身体を動かす方法にはいろいろあるけれど、私には、音楽のリズムに合わせて楽しく身体を動かせるのが合っているんだと気づいた。夫は、黙々と走るランニングが好きなので、人にはそれぞれ何が合っているかは違うんだ、と納得する。一時の熱は冷めたが、今も週に一回程度は、気分転換にエアロビクスをしているが、楽しくて、好きだからこそ続けられる。

 もちろん、身体を動かすことでの効果もあった。身体面での効果では、肥満が解消されただけでなく、心肺機能は高まり、筋力がついて、駅の階段も一段飛ばしでも軽々と登れるくらい健脚になって、身動きが軽くなった。身体を動かすのが苦にならなくなった。しんどくて、だるいという体調の不調もいつの間にかどこかにいっていた。そして、身体面の効果以上に、精神面での効果もあった。身体を動かすことで心・気分も変化するんだということを発見した。しかし、もし好きではないこと(ランニングなど)を、「身体のため」と嫌々していては効果はなかったのだと思う。好きだし、楽しめたからこそ、効果もあったのだろう。

 特に、何がよかったかというと「身体が喜ぶ」という「心地よさ」を十分に味わえたこと。その「心地よさ」とは、「身体のリズム」を感じることでもあった。エアロビクスでは、徐々に身体を動かして、後半で走ったり飛んだり跳ねたりするが、息が切れてもうこれ以上走るのは苦しい~というところで、ちょうどペースダウンに入る。そして最後はストレッチをしてリラックスして終わる。交換神経が徐々に覚醒し、ピークに達したところで、徐々に緩めてリラックスへと入り、弛緩する。その身体のリズムというか、覚醒からリラックスへと、身体感覚が波のように変化していくのが心地よい。身体が心地よくなると、気分もリラックスする。リラックスしてストレッチしていると、心にしまっていた感情がじわっと出てきたり、涙が出てくることもあった。身体がリラックスして解放されると、心も解放されて涙がでるとは、最初は不思議な感じだった。でも、心と身体は本来一つのものであると考えると、ごく自然なことといえる。

 年報では、トラウマ療法として、身体感覚を使う<ソマティック・エクスペリエンス>を取り上げたいと思っているが、開発者であるリヴァインは、身体感覚の「自然のリズムに同調し、尊重することはトラウマの変容のプロセスの大切な一部」であると言う(※)。

 私がエアロビクスを通して取り戻せたのは、身体のもつ自然なリズム、身体感覚のリズムだったのかもしれない。自分のリズムに気づきやすくなったのか、日常のなかでは、呼吸のリズムに注意を向けることが多くなった。呼吸のリズムを感じ、そのペースにまかせていると、気持ちも落ち着いていく。リズムが感じれないときは、エアロビクスで身体を動かすことで、覚醒から弛緩へと流れていく身体感覚の心地よさを取り戻しやすい。

 現在、ソマティック・エクスペリエンスのトレーニングを受けている最中であるが、トレーニングが受けられることに感謝して、自分自身が経験し学んだことを、来談されたクライエントさん、周りの人々に還元していければと思っている。身体感覚に気づくことで、「私は生きている」という生の肯定、実感につながるものと確信している。

※『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』
(ピーター・リヴァイン著・藤原千枝子訳、雲母書房)より

(2009年7月)

2008.10.10 こころとからだ
ワークショップ体験~体とつながる

西 順子

 年に数回、臨床の勉強のために、関心のある研修に出ているが、なかでもワークショップ体験は好きだ。自分が体験し、実感してこそ納得する・・というタイプだからでもある。
 10月は、2日間「第二回21世紀統合医療フォーラム」に参加した。2日間にわたって、さまざまな「からだ」に関わるワークショップが開催されていて、どれもとても面白そう、全部参加してみたいくらいだった。私が選んだのは、中川一郎さんによる「タッピング・タッチ」、藤原千枝子さんによる「ソマティック・エクスペリエンス」、そして藤井里香さんによる「フェルデンクライスメソッド」。この2日間では、新たな刺激を受けてのワクワク感と、体とつながることの心地よさを感じさせてもらった。
 
 タッピングタッチは経験したことがあったが、開発者の中川さんから直接教えてもらえるワークショップは初めてなので楽しみにしていた。その日は、とてもいいお天気で、さわやかな風が吹いていた。心地いい音楽を聴きながら、そして、窓から入ってくるさわやかな風と光を感じながら行ったタッピングタッチは、とても心地がよかった。音楽と調和したリズミカルな感じがとてもよかった。中川さんのお話から醸し出される、平和への願いとあいまって、スピリチュアルなものとのつながりが感じられるような経験だった。

 ソマティック・エクスペリエンスは、藤原さんが訳された『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』を、とても納得して読み、興味をもっていたので、特にワクワク楽しみにしていた。日頃フォーカシングを使うこともあり、体の不思議にはとても感銘を受けていたので、もっと奥が知りたいと思っていたところだった。直接お話が聞け、貴重なビデオを見せてもらえたことが、とても嬉しかったし、ありがたく感謝の気持ちだった。少ししか時間がなかったが、疑問に思っていたことを直接質問できて、答えてもらったことも有り難かった。また、いつかぜひ、もっとお話を聞かせていただく機会があれば・・と、またいつかを楽しみにしたい。

 フェルデンクライスメソッドは、スタッフのお勧めで参加した。体に無理をせずに行うゆっくりとしたエクササイズ。「痛気持ちいい」ではなく、体に無理をかけない、楽に行うというのがポイントで、それが目から鱗だった。首のコリ、肩のコリには、「痛気持ちいい」が効くものと思っていた。また、好きなエアロビクスは、エネルギー全開!で身体を動かすのが気持ちよかったが、疲れているときには体に負担をかけることなのかな・・と、ちょっと自分の体を振り返った。このエクササイズは、脳の神経系に働きかけるというのも興味深かった。ワークショップが終わった後は、体が「すっきり、楽」。こんな「すっきり、楽」っていいなと、こんなに楽な感じで毎日を過ごせたら・・と、とても関心をもった。 
 早速エクササイズの本を購入したが、本を読んで実践するまで・・時間がかかりそう。やはり、これは本を読むよりも、実際に体験して体で学ぶのがよさそう。今のところ、肩コリに効くというエクササイズだけは続けていて(これも、今までやってたストレッチとは逆の方法なのが面白い)、そのせいか、少しましなような気もする。
 
 二日間で、体と心がすっきりして、明日からまた頑張ろう~!とエネルギーをもらえるワークショップだった。体の声をよく聴いて、体が楽・心地いいっていう感覚を大事にしていこう。来年は、大阪で開催されるという。楽しみにしたい。

(2008年10月)

2007.01.10 こころとからだ
身体感覚との対話

 西 順子

 カウンセリングに来談された方から、「こんなに自分と向き合ったことはなかった」と、聞くことがある。確かに、カウンセリングのなかでクライエントさんは自分自身の心の内側と向き合い、心の内との対話がすすむなかで、自分で答えを見つけられていく。人に自然に備わっている力や可能性、そしてまた、人間の力を超えた力の働きに、敬虔な気持ちになる。カウンセラーとして、その答えを見つけるために、よりよいお手伝いができればと思っているが、そのプロセスの途中では、何らかの壁にぶつかることもある。
そんなとき、そのプロセスをすすめるための一つとして、身体感覚と向き合うことが役に立つと感じ、最近では身体感覚を取り入れたアプローチも取り入れている。特に、トラウマ(心的外傷)は身体に記憶されると言われることから、身体感覚に注目するようになってきた。

  そもそも東洋では、心と体は一つのものとして捉えられてきたが、日本語でも、心を身体感覚で表現する言葉が多い。怒りは、「腹が立つ」「腹に据えかねる」「はらわたが煮えくりかえる」「頭にくる」「頭に血が上る」、笑いは「お腹をかかえて笑う」「笑い転げる」、感情が込み上げてきたときは「目頭が熱くなる」「胸がいっぱいになる」、苦しい時は「胸が詰まる」「喉か詰まる」、心の負担感やプレッシャーは、「重い」「軽い」・・など。ほかにも、「ムカつく」「スッとする」「ワクワクする」なども身体感覚の表現である。
  自分の本当の気持ちがわからないとき、どうしていいかわからないとき、心の内側に問いかけても答えが見えないとき、自分の体の感覚に耳を傾けてみることで、自分の気持ちに気づくことができる。私も、心が「もやもや」っとするとき(もやもや・・は胸の辺りの身体感覚)、もやもやってなんだろう・・と「もやもや」に聴く気持ちでいると、ふと「ああ、そうか」と気づきが起こることがある。意識できない気持ちも、無意識から身体感覚を通して教えてくれる。

  先日、10年ぶり?くらいに、フォーカシングを学びなおそうと思ってワークショップに出かけた。フォーカシングとは、「からだを使って、自己の気づきを促し、こころを癒していく、独特のプロセス」(アン・ワイザー・コーネル)である。「からだの気づきに対して興味深い好奇心をもって注意を向けるとき、洞察、身体的な解放、前向きの生活の変化があらわれる」と言う。
  私自身も日々の生活の中で、こまめに体の感覚に耳を傾けているが(まずは、今日は何が食べたい?とお腹にきくことにはじまり・・!)、自分はどう思うのか、どう感じるのかを大切にしたいと思っている。

(2007年1月)

2005.12.12 こころとからだ
アロマとともに・・・

村本邦子


 最近、アロマセラピーの勉強を始めている。何年か前、1日の基礎研修を受けてから、自己流では、これまでも、アロマを楽しんできた。自分なりにオイルを集め、ブレンドもしていたが、もう少し、ちゃんと勉強しようかなと思うようになったのだ。ひとつには、自分自身、過労と加齢の影響か、肩凝りがひどく、体を緩めることができなくなってきたからである。ただ楽しむだけでなく、もう少し積極的な働きかけはできないものかと思うようになった。自分に試して、良さそうならば、リラクセーション関連の講座などでも紹介できるだろう。

 また、これは、私の勝手な勘だが、トラウマサバイバー、とくに、DVなど身体的虐待のサバイバーに効果があるような気がする。今のところ、そのような文献や、具体的根拠を見つけたわけではないが、身体感覚は麻痺していても敏感であるから、反応性が高いと思われる。もちろん、本人が好きならの話だけど、サバイバーたちの役に立つかもしれない。でも、アロマには、意外と禁忌が多い。しっかり勉強しておく方が良さそうだと考えたのだ。

 風邪が流行るこの季節に重宝するのは、ティーツリーとユーカリ。ティーツリーは抗菌作用があるから風邪予防に良く、ユーカリは喉や鼻に効き、解熱作用もある。ティッシュに1~2滴たらして部屋に置いても良いが、加湿器にたらすのも良い(最近の加湿器には、アロマオイルを入れるところがあるようだ)。喉が痛い時には、吸入が効果的。洗面器に熱湯を入れ、精油を1~2滴(少ないようなら4滴まで増やす)たらし、頭からバスタオルをかぶって蒸気を吸う(数分から最大10分)。今年はとりわけ寒さが厳しいが、風邪をひきかけては、葛根湯とユーカルで何とか持ち直している。頭痛には、ラベンダー1滴をこめかみに擦り込む。

 手浴と足浴もお勧め。手浴は洗面器に、足浴はバケツにお湯を張り、精油を2~3滴入れて、手や足を浸すというもの。熱めのお湯を使えば、体中がポカポカ暖まるし、肌もしっとりする。私は、リラックス効果の高いカモミールや、ベルガモ、体の芯から温まるサイプレスなどが気に入っている。オイルマッサージの実習はこれからだが、どちらかと言えば、自分でマッサージするより、してもらいたい方だから、マッサージ以外の使用法が自分には合っているかも。
 
 精油は、植物の持つ生命エネルギーの凝縮されたもので、アロマセラピーは、植物のエネルギー、ひいては自然、大地のエネルギーを取り込んでいくセラピーと考えることができるという。なるほど、そんなふうにイメージすれば、効果も倍増するだろう。でも、それだけに、使いすぎは禁物。勉強を始めたばかりの頃、嬉しがってたくさん使いすぎて、「アロマ酔い」になってしまった。どのくらいまで使って良いのだろう?と調べてみると、1日5~6滴までだった。皆さんも使いすぎに気をつけて!それから、百均でも売っているらしいが、体内に取り込むものだから、多少、値が張っても、信頼できる安全なものを購入したい。私のように、自己流で使ってきた方も少なくないかも。誤った使い方や新しい発見など時々、紹介しますね。

(2005年12月)

2005.08.10 こころとからだ
心の声を信じる

西 順子

 珍しく、今日は早く帰宅できるという日に、ふわっと心の余裕ができて、フラッとレンタルCDショップに寄ってみた。会員の期限が切れていたので、会員登録をしなおす。気に入れば、飽きもせず、ずっと同じCDを聞いているので、一年は借りてなかったかな?
CDアルバム5枚で1,050円に惹かれ、聞いてみたかったアーティストのものを借りてみた。家に帰って、早速聞いてみたが、シングル曲が好きで借りたけど、アルバム全体では自分の好みではないかな・・というものから、結構好きかも・・、というのもあった。そのなかで、歌詞カードを見ていて、へぇーっと思った曲がある。
 それは、平原綾香の「ジュピター」の英語バージョンの歌詞。曲のタイトルは「The Voice」。私はどちらかというと、歌詞よりもメロディーやリズムが先に耳に入るので(音のほうを優先して聴き取るというか)、歌詞は二の次になるのだが、時々、心に残る歌詞に出会うことがある。「ジュピター」の英語バージョンもその一つ。そうそうそうだよね、と共感。よく、「自分のなかにこそ答えがある」というが、どうしていいかわからない時、どう進んでいいかわからない時、「心の声に耳を傾け」、それだけではなく、さらに「心の声を信じる」ことが大事であるという歌詞であった。心の声を信じるとは、何という自己信頼、自己肯定であろうか。そこには、人間の自己治癒力、リジリアンス(回復力、復元力と訳される。危機や逆境を越えてそれに耐えて立ち直る力のこと)が潜在している。「信じる」という言葉が、とても心に響いた。
 前を見ようとしても見えないとき、見ようとすればするほど見えなくて、絶望的になってしまう。でも、目を閉じて、自分の内側に目を向けることで、自分のなかから見えてくるもの、聴こえてくるものがある。
 そんなことを、この歌詞は思い出させてくれた。しかも、ただ「聴く」だけではない、「信じる」ということを。迷い悩み、心がざわつく時こそ、自分には何が必要で、私はどうしたいのか、心の声を信じていきたい。

(2005年8月)

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