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2015.11.12 DV
DVを受けている女性を支える~なぜ逃れられないのかを理解する

                                           西 順子

毎年11月12~25日(女性に対する暴力撤廃国際日)は「女性に対する暴力をなくす運動」期間です。女性に対する暴力には、夫・パートナーからの暴力、性犯罪、売買春、セクシュアル・ハラスメント、ストーカー行為の他、女児への性的虐待も含まれます(1993年国連総会採択女性への暴力撤廃宣言より) 。

内閣府その他男女共同参画推進本部では2001年より、女性に対する暴力は「女性への人権を侵害するものであり決して許されるべき行為ではない」と、他団体との連携、協力の下、意識啓発活動に取り組んでいます(⇒詳しくはこちら)。

さて、前回エッセイでは「DVを受けている女性を支える~家族、友人、知人として」を書きましたが、今回もDVについてとりあげたいと思います。

DV被害を受けている女性が、辛い状況であるにも関わらず、暴力からなかなか逃げようとしなかったり、逃げてもまた戻ってしまうことがよくあります。なかなか逃げ出そうとしない被害者に周囲や支援者も苛立ち「どうして逃げないの?」「また戻ってしまうの?」と責めてしまうことがありますが、そうなると被害女性はますます孤立していきます。

女性が安全に暴力から脱出するには、他者とのつながりと信頼を保ち続けることが必要です。そのためには、周囲にいる支援者が女性は「なぜ逃げないのか」「逃げてもまた戻るのか」ということを被害者の視点から理解しておくことは重要です。
では女性は「なぜ逃げられない」のでしょうか。理論的枠組みの一つとして、ここでは「パワーとコントロールの車輪」を紹介したいと思います。

□パワーとコントロールの車輪

今から35年前、1980年にミネソタ州ドゥルース市では地域社会の9つの機関が集まり(裁判所や警察、福祉機関など)、DV介入プロジェクト(DAIP)が組織されました。1984年には被害女性たちの声をもと、暴力を理解する理論的枠組みとして「パワーとコントロールの車輪」が作られました。女性たちはなぜ暴力男性の元にとどまるのかについて、それまでの推論に異議を唱えたのです。この車輪が示しているのは、暴力は突発的な出来事でもなければ、積りつもった怒りや欲求不満、傷ついた感情の爆発でもなく、あるパターン化した行動の一部分だということです。
 

この「車輪」によれば、暴力には意図があり、車輪の中心にある「パワーとコントロール」が車輪を動かす原動力となります。車輪の一番外側には身体的暴力と性的暴力があり、内側には8つの心理的暴力があります。

心理的暴力には、①脅し怖がらせる、②情緒的虐待、③孤立させる、④暴力の過小評価/否認/責任転嫁、⑤子どもを利用する、⑥男性の特権を振りかざす、⑦経済的暴力を用いる、⑧強要と脅迫とがあります。身体に触れなくとも、外からは見えにくい心理的暴力によって、被害者は力を奪われ無力になり、服従を強いられていきます。身体的暴力や性的暴力は他の行動の効果を高めるため、恣意的に使われ結果としてパートナーが自立する能力を奪います。   
              『暴力男性の教育プログラム-ドゥルース・モデル』(2004)より

例えば、「いつまた爆発するかわからない」と恐怖から顔色や機嫌を伺い生活するうちに、「自分がどうしたいか」「何を望んでいるか」等わからなくなり、主体性が奪われていくのです。

ハーマンは「逃走を防ぐ障壁は通常目に見えない障壁」と言います。繰り返し、暴力が反復されるなかで、恐怖と孤立無援感を感じ、「他者との関係における自己」という感覚が奪われると説明しています。

□つながりを保ち続けること

では、周囲の家族、支援者はどう対応すればいいでしょうか。
私は、「つながり」を保ち続けることが大事だと思っています。それは、何かあったらいつでも駆け込める場所や、何かあれば相談できる人、助けを求められる人との「つながり」です。温かいお茶を飲みながら、たわいないお喋りを楽しんだり、一緒に笑える人でもあるでしょう。切れそうな糸であったとしても他者との「絆」を保ち続けられることがとても大切だと思います。

DVを受けている女性と共に過ごすとき、その時間を大切にしていただきたいと願います。その時間が少しでも安心できる時間であればあるほど、自分自身のことを考える余裕も生まれてくるのではないかと思います。自分自身のことも大切にしていいと思えるかもしれません。
そして、いざ女性が「逃れたい」と助けを求めたときには、タイミングをはずさずに、脱出することができればと思います。

女性が保護を求めたのにも関わらず、うまく支援につながらずチャンスを逃してしまうこともあります。そういうことが決してないよう、一人でも多くの人によって、DV被害を受けている女性が理解され、よりよい支援につながることができればと願っています。

□小さな一歩から

1994年、米国のベルリンという小さな町のサバイバーによる集まりから始まったインターナショナル・パープルリボン・プロジェクト(IPRP) があります。国際的な女性への暴力根絶を訴えるキャンペーンです。現在、40カ国以上に知られ、国際的なネットワークに発展しています。
このキャンペーンには、誰でも、一人でも参加することができます。紫色のリボンを購入して身に着けたり、車につける等、小さな努力から始めることができます。

私もこの二週間、パープルリボンを身につけてみたいと思います。


[参考文献]
『暴力男性の教育プログラム-ドゥルース・モデル』(2004)エレン・ベス、マイケル・ペイマー著、波田あい子訳、誠信書房。
『心的外傷と回復』(1999)ジュディス・ハーマン著、中井久夫訳、みすず書房。


[関連記事]
FLCスタッフエッセイ「DVを受けている女性を支える~家族・友人・知人として」
所長のブログ「トラウマと回復~援助関係について学ぶ」

                 今日はパープルリボンにちなんだ
               年に一度のパープル・ライトアップ、綺麗でした! 
                        はじめての通天閣より

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                全国のライトアップ実施予定施設は⇒こちら

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