- 2015.02.24 カウンセリング
- カウンセリングの窓から~女性の傷つきと怒り
西 順子
女性のカウンセリングのなかで、傷つきからの回復に「怒り」は重要なテーマです。虐待やDV、性暴力などトラウマをはじめ、他者との関係での傷つきに、怒りの感情を取り戻すことは回復のバロメーターの一つです。
しかし、怒りの取り扱い方はむずかしく、怒りを感じそうになるや否や感情に蓋をして抑圧してしまうか(あるいは怒りを回避して切り離すか)、我慢をため込んで爆発してしまうか、どちらかになりがちです。本来、怒りとはエネルギーに満ちた生命力です。命を肯定するためには、そのエネルギーを破壊的ではなく、建設的に方向づけていくことが必要です。
今回は怒りのガイドブック『もっとうまく怒りたい!~怒りとスピリチュアリティの心理学』(キャスリン・フィッシャー著、村本邦子訳)から、女性が自分の怒りと取り組む際のヒントを紹介できればと思います。
●感情によい悪いはない
米国の心理学者ギリガンは「少女から大人になる女性のターニング・ポイント」について研究しましたが、その結果わかったことは、女性が少女から大人になっていく過程は、「沈黙」と「つながりの喪失」の旅だということでした。特に思春期以降になると、本当の感情、特に怒りの感情を表現することをやめます。関係を維持するために、感情を手放し、自分の経験を抑圧して、周囲に適応していくことを学びます。
自分の声を断念することで、女たちは自分の感情すべてを経験する権利や、もって生まれた才能を放棄してしまうのです。
しかし本来、感情によい、悪いはありません。どの感情も耳を傾けられるべき大切なものです。善悪の判断は感情ではなく、行動に対してなされるべきものです。
こころとからだの「境界」が侵害されるとき、怒りを感じるのは自然な反応です。自己と他者、そして世界とのつながり方がどんなものであるか、怒りを通じて「からだ」からの重要な情報を与えてくれるのです。
怒りを感じることを避けて、怒りから切り離されると、創造的な洞察力は制限され、他者の感情に共感する能力が損なわれます。沈黙させられた怒りは、ひきこもり、批判、過小評価など、変装した表現で現れることもあります。
●怒りを認める~気づきの実践
では怒りと、どのようにしてつながることができるでしょうか。怒りと再びつながりをもつための有効なアプローチには、マインドフルネス(瞑想法の一つ)があります。マインドフルネスは、深い気づきのことで、判断抜きに、あるがままを受け入れるよう励まします。
判断抜きの気づきが難しいのは、内なる批評家がつねに働いて、何を感じるべきか、感じるべきでないかと口出ししてくるからです。「こんなことに惑わされてはいけない」「こんなことで腹を立てるなんて、もっと広い心でいなければ」「そんなこと感じるなんて、なんて私はバカなの」など、「~すべき」「~べからず」に声を傾けていくと、自分が悪い存在に感じられてしまうでしょう。
この批判的な声を脇に置き、自分の中で起こっていることに、十分に耳を傾けてみましょう。マインドフルネスの気づきは、ただありのまま、怒りを認めます。判断を下すことをしません。私たちの中にある複数の声に耳を傾けることを許します。
●怒りの対処法
怒りのエネルギーを前進させ、生きるエネルギーに転換していけるよう、自分や他者を傷つけることなく、怒りを取り扱う方法を紹介しましょう。
・休止をとる・・時間を置く方法です。夫婦喧嘩などあらゆる個人的関係において、これが有効です。
・腹式呼吸・・ゆっくりと深い呼吸をすることで、「闘争か逃走か」といった身体反応が緩和され、脈拍数が減り、筋肉を緩めることができます。
・からだを動かす・・これによって、高レベルになっている体内のアドレナリンを散らすことができます。どんな活動、スポーツも役に立ちます。
・瞑想する・・瞑想することで、怒りを衝動的に表現するのでも、逆に避けようとするのでもなく、怒りの感情に持ちこたえ、抱えることができるようになります。
・信頼する人に打ち明ける・・自分の感情を洞察するもっともよい方法の一つです。何が起こったのか? なぜ腹を立てているのか? どんな反応ができるのか? 感情に含まれている情報をより分けることに役立ちます。
・思う存分泣く・・女性が怒りを表現するもっとも普遍的な方法のひとつは、泣くことだそうです。涙は怒りを健康に解放してくれます。感情的な涙は、ストレスに対する免疫システムを高める化学物質を含んでいることがわかっています。涙は浄化作用と治癒力を持っています。
・からだで知る・・多くの女性が、からだから切り離されています。これを変化させる第一歩は、自分のからだの感覚に注意を向けることです。からだの声に耳を傾けて、自分の反応とつきあってみましょう。
・・・自分にできそうなことはありましたか? うまくつき合うヒントが見つかったでしょうか?
怒りを生命のエネルギーへと変容させていくために、怒りの感情あるいは怒りの反応(身体でとらえられる感覚)に気づき、あるがまま認めることが第一歩です。
しかし、怒りとつき合うのが難しく、怒りに圧倒されてしまい罪悪感に悩まされたり、怒りが内向して抑うつが続いたり、無力感に苛まれてしまうとき・・など、一人では対処できないようなときは、いつでもご相談ください。
フィッシャーは「怒りとは、本来、よりよく愛することのひとつの側面」であり、「健康なスピリチュアリティに不可欠なもの」と言います。女性ライフサイクル研究所では、内なる怒りの声(声なき声)に耳を傾けながら、その声の理由や意味を理解し、よりよく生きるエネルギーへと変換していけるよう、カウンセリング/心理療法を通してお手伝いができればと思っています。
⇒カウンセリングについてはこちらをご覧ください。
⇒文献 『もっとうまく怒りたい!~怒りとスピリチュアリティの心理学』(キャスリン・フィッシャー著、村本邦子訳) ※怒りを深く理解し、癒しのプロセスについて学びたい方に、お勧めです。こころとからだ、そして魂とつながるヒントが得られることと思います。