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FLCスタッフエッセイ

2013.09.12 トラウマ
中秋の名月

村本邦子

 今年は、中秋の名月を南京で迎えた。今年の中秋節は、中国人にとって、たまたま日中戦争が始まった「国恥の日」に当たる。複雑な思いを抱えながら、セミナーで、幸存者(サバイバー)のお話を聴いた。日中の参加者でシェアリングをしているところに、中国側の受け入れ窓口となってくださっている張連紅先生が、大きな袋に入った月餅を差し入れてくださった。中国では、中秋祭には、家族で集まって月餅を食べる習わしなのだそうだ。「中秋祭に一緒に月餅を食べれば、私たちは家族になります」と。暖かく、ありがたかった。

 夜、くっきりと美しい満月を見上げて、日本のことを想い、過去を想った。私が子どもの頃、地元では、まだ十五夜の祭りをやっていた。男の子たちが近所の家を回って藁を集め、縄をなう。女の子はそのプロセスに参加しないが、当時は大人のように見えた中高生のお兄さんたちの器用さに目を見張ったものだ。編みあがった縄をクルクル丸めると土俵になり、夜、相撲大会が始まる。男の子たちの相撲大会が終わると(これが公式プログラムだったのか?)、女の子たちも土俵を借りて、相撲大会をやった。それから、クイズ大会をやったり、肝試しをやったりと、この日は子どもたちだけで夜遅くまで遊ぶことが許されていた。この行事がいつ頃まであったかよく覚えていないが(私が中高の頃にはもう消えていたような気がする)、ふと懐かしく思い出すことがある。

 十数年前、海外からのゲストを連れ、下賀茂神社の観月祭に行ったこともあったっけ。篝火を焚いた舞台で豊作を祈願する舞楽を見て、一種の感動を覚えたものだ。美しい月を一緒に眺め、神秘の力を仰ぐことで、たしかに親密性が深まるような気がする。また行ってみたいなと思いながら、そう言えば行けずじまいだ。

 さて、翌日、月餅がディスカウントになるというので(クリスマスケーキのように、7割引とか8割引になるらしい。今年は、中国政府が高価な月餅を贈ってはいけないという「贅沢禁止令」を出したというほど、月餅は高価なものだ)、張連紅先生に頼んでスーパーに連れて行ってもらった。夜が遅かったためか、なんとびっくり、すべての割引月餅は売り切れていて、決してディスカウントしないという有名メーカーの高級月餅しか残っておらず、勧められるまま、大きな袋に入った高級月餅をお土産に買った。翌日、大切に手に持って空港まで帰ったが、そちらに気をとられすぎて、なんと、パソコンをバスに置き忘れてしまった。

 パソコンは、来週、留学生が持って帰ってきてくれるが、ATMでカードが戻ってこず、結局、大金を留学生の家族に借りたりと、今回は、中国人留学生たちに大変お世話になった。もともと十五夜を祝う習慣は中国に由来する。私たちは、歴史を通じて、たくさんの文化を中国から学び、共有しているのだ。中秋の名月が次に満月を迎えるのは8年後だそうだ。どうか平和が続いていきますように。

(2013年9月)

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