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FLCスタッフエッセイ

2004.08.10 トラウマ
「戦争とトラウマ」を考えて

西 順子

 今年の年報では、「戦争とトラウマ」をテーマとして取り上げることとなった。私は「戦争体験の語り継ぎと次世代」について考えてみたいと、語り継ぎについてのインタビューを行った。6月には、広島を訪問し、平和記念資料館も見学したが、自分が知らなかった原爆の真実を知り、衝撃を受けた。その体験については年報に書いているが、もっと歴史から学ばなければと、今年の夏は戦争に関わるドキュメンタリー番組などを見ている。今回は、その中から印象に残ったことを書いてみたい。
 8月1日、『NHKアーカイブス・ヒロシマの記憶「これがヒロシマだ~原爆の絵アメリカをいく」1982年(昭和57年)』をみた。被爆により全身に大火傷を負った松原美代子さんは、「原爆の絵」を携えて、アメリカ人に原爆の絵を見てもらい、国連に軍縮を訴えるために渡米し、各地を訪問している。原爆の絵は、松原さん自身が書いた絵も含めて広島市民が書いた絵であるが、それは、人間が住む世界とは思えない光景の絵である。「体験を語るのは辛いし、私の話を聞くことは皆さんにとってもきっと辛いことだと思います。でも、過去を振り返ればよりよい未来を築け、同じ過ちを繰り返さないですみます」とゆっくりと英語で、声を絞り出すようにスピーチする松原さんの姿は印象的だった。松原さんはご自身のことを「ヒロシマ・サバイバー」と呼んだが、サバイバーとしての叫びと願いが伝わってきた。
 訪問先での、ハイスクールの学生も印象的だった。「アメリカ人がそんなことをしたの、悲しいわ」という女学生。他人事ではなく、自分の国がしたこと率直に受けとめた。「アメリカ人を憎んでないの?」という質問に「昔は憎んでました。○○さんに出会って(一緒に各地を訪問してくれている方)、アメリカ人でもこういう人がいると思ってからは、アメリカ人ではなく戦争を憎むようになりました」と答えた松原さん。一方で、地域によっては、出演したラジオ番組には抗議と非難の電話が鳴り止まなかった。「日本はアメリカの傘の下に入って、守ってもらっているくせに」「戦後日本は平和が続いてるじゃないか」・・など。それでも、「絵を見てもらえればわかってもらえずはず」と決して希望を失わない松原さんが印象的だった。現在は、70歳を超えたというが、「私に残された時間はあと少ない」と今も年に二回は海外を訪問し、平和を訴えているという。
 8月8日は、読売テレビ『ドキュメント'04「逃亡者の遺言」』をみた。渡辺さんは現在90歳、大阪に住まうが、戦争当時は沖縄の陸軍兵士だった。「もういっぺん久米島にいってね。あんなことあった、こんなことあったということを、辛い思い出、思い出したくないような思い出ですけど、一辺行って、本当に申し訳ありませんでしたということを言いたいんです」と、真実と向き合うために渡辺さんは久米島に向かった。
 沖縄戦末期、米軍が迫ってきており、このままでは殺されると思った渡辺さんは、突撃の数日前に、7人で海に逃亡した。当時は「この地獄から抜け出したい、きれいな海で死にたい」と思ったが、「逃亡した負い目が今でもある。今でも死んだ兵隊に申し訳ないと思っている」という。漂流してたどり着いたのが久米島。久米島では、住民が渡辺さんを温かく迎えてくれ、ない食料を分け、病気の手当てをしてくれた。でも、そこで渡辺さんが見たのは、海軍通信隊の住民虐殺だった。通信隊の疑心暗鬼から、スパイ容疑とみなされたものは即刻処刑されたが、それは4家族20人という。渡辺さんは、同じ時期、同じ島にいながら、通信隊の行動を止めれなかったことに後悔が残ると話す。犠牲者の遺族を尋ねた渡辺さんは、「本当に申し訳ありません。日本の兵隊の1人として、心からお詫び申し上げます」と謝罪された。また、島の高校では、当時のことを語り、若者に向かって「私の遺言として、戦争とはどういうことか、国家とはどういうことか、本当に真剣に考えていただいたら・・と思う」と話された。渡辺さんの「申し訳ない」という言葉に、今も背負う罪悪感、苦しみの重さを感じる。最後に、島の人々に温かく迎え入れられ、涙を流されたことも印象的だった。
 松原さん、渡辺さん、心に深い傷を負いながらも、戦争の被害、戦争の加害の側面に向き合い、人と向き合おうとする人がいることを知った。マスレベルで起こった戦争を、体験した一人の人間として、未来への願いを込めて、語り継いでいこうとしている人がいる。そうした人々の声にもっと耳を傾けていきたいと思う。歴史は繰り返すといわれるが、悲劇が繰り返されないように、歴史の真実から学んでいきたい。
今年11月発行予定の年報14号、ぜひ、1人でも多くの皆さんに読んでいただけたらと願っています。


(2004年8月)

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