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FLCスタッフエッセイ

2012.12.10 虐待
子どものトラウマ~2012年を振り返って

西 順子

 あっという間に師走、今年もあと僅かとなった。たまたま毎年12月にエッセイの順番が回ってくるので、12月は一年を振り返ってエッセイを書くことが多い。そこで今年も一年間を振り返ってみたい。

 今年の年明けはいいニュースでスタートした。このことはエッセイでも書いたが(2012年1月「トラウマと身体~SEと出会って」)、1月3日付でトラウマ療法ソマテイック・エクスペリエンス(SE)プラクティショナーとして認定されたメールが届き、後日認定証も届いた。三年間を通してSEという身体志向のトラウマ療法を学び、トラウマ、解離についてより深く理解することができるようになり、カウンセリングに来談される方々の症状の改善、軽減に役立てることができて有難く感じていた。一方で、こうして学べたこと、つまり身体のもつ自然治癒力について、もっと広く人々にも知ってもらい、心身の健康のために、あるいは予防的にも活かせてもらうことができればと願う気持ちだった。

 特に、子どものトラウマにも役立てたいという思いがあった。子どもの未来のために、子どものときによりよいケア、サポートを提供できれば・・と願うが、子どものトラウマの場合は、保護者との関わりが重要であるため、親子へのケアや働きかけをどう進めていけばよいか・・という課題を感じていた。性的被害を受けた子どもと親へのサポート、DVの状況から母子で逃れ、安全となった環境となって子どもに様々な反応や問題行動が起こるとき、子どもと母親に対するサポート、という課題であった。子どもに、保護者に、双方に、それぞれに支援が必要であるため、試行錯誤しながら取り組んできたが、もっと効果的な援助の方法を学べたら・・と思っていたところ、今年の1月半ば、子どものトラウマ治療研修についての案内が届いた。内容を見ると、SEと基礎を同じくしており(脳神経科学を基盤)、身体的な介入プログラムがいろいろ体験できるものだった。これは渡りに船?というか、ちょうどよい機会と、参加させてもらうことにした。昨年も同じ案内が届いていたが、昨年はまだSEを勉強中の身、関心はあるものの時期尚早で現実味がなかった。今年は次の課題に向けて一歩進めるときと現実的に考えることができた。

 そして6月、ボストンのトラウマセンターでの研修は、目から鱗というかとても刺激的だった。感想は日記やエッセイでも書いたが、身体に介入する方法として、トラウマ・ヨガ、子どもへの集団ゲームとドラマセラピー、自己調整セラピー、アートセラピーの演習を体験。どれもユニークで楽しみながら、自分の状態を自分で気づき、「コントロール」というより「調整」できるよう、自分自身の心身の状態とうまくつき合っていく力をつけるものであった。トラウマセンターに通う子どもは、複雑性トラウマ、つまり虐待を受けた子ども達である。子どもに応じて、さまざまな方法を組み合わせて、トラウマを乗り越えられるようエンパワメントする様子がうかがえた。また、子ども達が保護者との愛着の絆を育んでいけるよう保護者をコーチングする手法、親子相互交流療法(PCIT)についてのお話を聴くこともできた。センターでは、子どもと里親さんにPCITが行われていたことも印象的だった。虐待を受けた子ども・家族に、地域全体で関わっていることがうかがえた。施設見学もさせて頂いたが、施設では、虐待を受けて重い情緒障害をもつ子どもたち一人一人に即して目標を決め、目標に添って感情調整のスキルを学ぶなど、段階的に力をつけていけるよう体系立てて治療教育が行われていた。センターや施設のプログラム全体は、ARC理論(愛着・自己調整・能力モデル)に添って組み立てられている。10年前から、介入方法も変わってきたとのことだったが、より効果がある援助が提供できるよう新しい研究の成果が取り入れ、変化してくことは凄いことと圧倒される思いだった。

 この秋には、一年前から関心を持ち学びたいと願っていた子どものためのトラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT) の研修にも参加させて頂くことができた。TF-CBTは、子どもと保護者が一緒に取り組むプログラム。感想は日記にも書いたが、米国から来日下さった講師の先生の情熱には大変感銘をうけ、刺激を受けた。使命感をもって子どものトラウマに取り組んでおられるのが伝わる。私はたまたま、通訳付きロールプレイでお祖母ちゃんの役をすることになり、講師の先生が思春期の子どもの役(孫役)をされたが、ロールプレイでは、先生は思春期の子どもの微妙な感情を的確に表現されていた。これだけ感情移入して演技ができるのは、本当に子どものことをよく知り、理解しているからこそ・・と、先生のロールプレイには思わず涙が出そうになった。

 12月はあと、高知で行われる日本子ども虐待防止学会大会、東京で行われるPCIT(親子相互交流療法)の学術大会に参加する予定である。今年一年、学びたいと願ってきたことに、ご縁がつながって学ぶことができ、感謝の気持ちである。素晴らしい方々との出会いにも感謝。学ばせて頂いたことを消化吸収できるよう、そして子どもや子どもを見守る周囲の大人に還元できるよう、日々の臨床と向き合い、一歩一歩自分にできるところから取り組んでいければと思う。

 もうすぐ一年も終わろうとしています。皆さまがよき新年を迎えられますよう、お祈り申しあげます。

(2012年12月)

2012.07.10 虐待
ボストン・トラウマセンター研修に参加して

西 順子

 2012年6月26日~6月29日まで、アメリカのマサチューセッツ州ボストン郊外にあるトラウマセンターでの「発達途上のトラウマを受けた子ども達への最新治療研修」に参加、7月1日に帰国したところである。帰国して2日たったが、まだ余韻を感じつつ早速臨床の仕事に戻っている。「鉄は熱いうちに打て」ではないが、学んできたことをぜひ伝えたいという思いが残る研修だったが、まずはこのエッセイで、今感じていることを書き記しておきたいと思う。

 ここ数年、戦争によるトラウマの問題に関わるなかで、中国からスタートして、韓国、インドネシア、台湾とアジアの国々に行く機会をもつようになった。日本から離れて外国に身を置くことで、日本で暮らしていては当たり前と思っていることが当たり前ではないと、自分を相対化して見る機会となり、それはとても貴重な体験となった。特に中国でのHWHワークショップに参加するなかで、日本人としてのアイデンティティについて改めて意識する機会となった。それは日本人としての責任性である。

 そしてまた、この研修でも自分を相対化して見る機会となった。私が気づいたのは、心理臨床家としての責任性である。

 今回アメリカ訪問は初めて、しかもトラウマ研究の第一人者とされるヴァン・デ・コーク博士が設立されたセンターを訪問してお話を聞けるということだったので、ドキドキワクワクした興奮と緊張、期待する気持ちでいっぱいだった。

 研修では、コーク先生のお話をトップに、センターのスタッフ6名からお話を聞かせて頂いたが、まず、コーク先生のお話を聞いて印象に残ったことは、「闘っているのだ」ということだった。私にとっては雲の上の存在のような権威ある偉い先生というイメージであったが、雲の上ではなく、トラウマ研究者として、今現実の世界で、トラウマを受けた子どもの役に立てるよう、闘っているのだと胸に響いた。現段階では、発達途上でトラウマを受けた人達の診断名がない、今の診断名では子どもにとって悪いものになっていると研究を行い、「発達途上のトラウマ障害」という診断名をDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き)に提案している。もちろん、この診断名は科学的に調査されたもので根拠があると言う。その研究調査に基づき、50州の賛同を得て働きかけを行っているというようなことだった。でも壁があるとのこと。また、薬に頼らない治療として、トラウマをよくするためには何が大切か、とてもわかりやすくエッセンスをお話下さった(それは治療にかからない人達にも役立つもの。ぜひまた紹介したい)。

 コーク先生だけではない、お話下さったスタッフ(サイコロジスト、ヨガの先生など)の皆さんも、それぞれが研究をなさっていた。実証的な研究をして、きちんと評価を出している。トラウマ治療の新しい枠組み(ARC理論=愛着、自己調整、能力)も2003年に出来て、改訂をくわえながら、現在ではこのARC理論に基づく治療施設(日本で言うところの情緒障害児短期治療施設)での取り組みも行われている。施設見学もさせて頂いたが、理論的枠組みに添った施設でのケアが行われ、また施設をでた後は地域へと引き継がれていく流れを作っておられる。つまり、一貫して子どもの目標に添った教育、ケアが提供されている。

 社会、文化的背景の違いということはあるかもしれないが、まずは、トラウマに携わる臨床家の一人として、お話を聞かせて下さった皆さんのトラウマに関わる信念や姿勢、情熱、切磋琢磨する自己への厳しさ・・など、研究者、臨床家としてのプロ意識の強さを垣間見させて頂いた。

 私自身は・・というと、切磋琢磨して自己研鑽する姿勢を保ってきたつもりであったが、研究という姿勢には欠けていたように思われた。研究者ではないが、それでも自分が実践していることを客観的に検証することは大事なことであると、今回の研修で改めて考えさせられた。それは社会に対する仕事の責任性でもある。批判されることは苦手だか、例え社会の批判に晒されたとしても、それを論証できるだけの理論的根拠や依拠する考えをもつということである。

 一方で有り難いなと思うことは、私自身は研究熱心ではなかったものの、女性ライフサイクル研究所では、研究、臨床、予防啓発などコミュニティ活動が三位一体となって活動する場が与えられてきたことである。それは所長のポリシーでもあり設立当初より大事にされてきたものである。私自身は、研究が一番最後に後回しになってきたなと、そんな自分に気づくことができた。

 数年前、中国から帰ってきたときも、自分の責任性に気づいて、自分がしっかりと地に足が着く感覚があった。今すでに仕事に戻っているが、地に足をしっかりと着けて臨床に向き合える感覚がある。研究の大切さを自覚して視野にいれながらも、よりよい臨床サービスを提供できるように切磋琢磨していければと思う。また、学ばせてもらったことを、社会に還元していければ・・と思う。

(2012年7月)

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