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トピックス by村本邦子

2009.11.30
2009年11月 トラウマからの回復とレジリエンス、そしてMTRR/MTRR-I

逆境を生きのびる力、レジリエンスについては、年報16号をはじめ、これまでもさまざまな機会に紹介してきた。そして、トラウマによる影響とレジリエンスを測るものとして、MTRR/MTRR-Iというものがある(これについては、「MTRR/MTRR-I導入のための予備的研究」参照)。メアリー・ハーベイさんらによって開発され、VOVプログラム(ジュディス・ハーマンさんらの暴力被害者支援プログラム)でずっと使用されてきたものだ。女性ライフサイクル研究所においても、必要に応じて使用してきた。

MTRRは、①記憶の再生への権限、②記憶と感情の統合、③感情への耐性と統制、④症状管理、⑤自己評価、⑥自己の凝集性、⑦安全な愛着関係、⑧意味づけという8つの領域のそれぞれについて、レジリエンス、トラウマによる損傷と回復を調べていくが、情報収集のためにMTRR-Iというインタビュー・フォームがある。基本的な考え方として、トラウマからの回復は、あきらかな精神症状の有無だけでなく、もっと多次元的に見るべきであるという立場に立つ。たとえば、①記憶の再生への権限の領域に関しては、トラウマによって損傷を受けているが、⑦安全な愛着関係の領域に関しては、あまり影響を受けていない(つまり、レジリエンスが見られるということ)という場合、この力をうまく利用して回復の可能性を模索するという方略が有効になる。

今月、メアリー・ハーベイさんが来日され、「回復初期におけるトラウマサバイバーのナラティブ見られる病理とレジリエンスを解きほぐす」というタイトルで講演された。現在、VOVでMTRRを使って行われている最新の研究の一部なのだけれど、トラウマからの回復初期にあるサバイバーのインタビューの語りに耳を傾けていくと、実は、レジリエンスと病理は絡まって共存していることがわかったという内容だった。つまり、レジリエンスは、白か黒か、そのあるなしを単純に論じられるものでなく、ひとつの現象のなかに病理とともにあるかもしれないということだ。たとえば、過酷なトラウマに曝された結果、精神病的な症状が現れ、ある種の超常現象を体験していたサバイバーが、同時に、自分を守ってくれる超越的な存在を感じることで自分を立て直し、現実的に機能していたなどの事例が紹介された。結局のところ、トラウマサバイバーと関わる臨床家が注意しなければならないことは、病理に眼を奪われてレジリエンスを見逃さないこと、逆に、レジリエンスに魅了されて病理を見逃さないことである。これは十分に納得のいく話である。

ここ数年、このMTRRの日本語版作成に挑戦してきたのだけど、実は、恥ずかしながら、途中で難航してストップしてしまっていた。今回、ハーベイさんにも助言を頂き、これを完了するために、MTRRのインタビューに協力してくれるモニターを募集したい(インタビューの後、MTRRの基準に従ってレジリエンスと回復の課題をフィードバックし、プライバシーに関わらない数値の部分を研究に使用させて頂くというもの)。関心のある方は、是非、お問い合わせください。
 
 

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