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トピックス by村本邦子

2015.04.19
鋼鉄のシャッター

    来月、平和心理学のワークショップをすることになっているので、そろそろ準備をと思い、カール・ロジャーズの『鋼鉄のシャッター~北アイルランド紛争とエンカウンター・グループ』(パトリック・ライス著、畠瀬実+東口千鶴子訳、コスモライブラリー)を読んだ。1985年、オーストリアのルストに、17か国の政府の要人ら50名を集めて行われた4日間のワークショップ「ルスト・ワークショップ~中央アメリカの挑戦」については、すでに紹介した。(http://www.f-lifecycle.com/muramoto/2011/07/000191.php

   「鋼鉄のシャッター」の方は、イギリスが12世紀にアイルランドを支配して以来、独立をめぐって何世紀にも渡る憎しみと紛争が泥沼化していたことに対して、1972年、北アイルランドのベルファーストから来たプロテスタント4名、カトリック4名、英国陸軍大佐1名をメンバーにして実施された3日間のエンカウンター・グループである。ロジャーズは、PCA(パーソン・センタード・アプローチ)をグループに適応し、晩年はその活動を紛争解決に絞っていくが、先駆けとなったのが「鋼鉄のシャッター」である。

   その仕掛け人は、著者パトリック・ライスだった。ライスはイエズス会の神父で、アイルランドのイエズス会修道会が「コロキューム(討論会)」と呼ぶグループのファシリテーターとして招かれ(ライス自身は、「エンカウンター・グループ」と呼んでいる)、3年に渡って関わりを持ち、アイルランドに身を置く中で、状況へのコミットメントを強めていく。コロキュームへの期待が高まり、ファシリテーター養成の研修が開かれ、その中から、北アイルランド紛争に対するエンカウンター・グループを映画化しようという企画が生まれてくる。紛争関係にあるそれぞれのグループを代表する参加者の条件を検討し、バランスを考えたうえで、暴力のさなか、まさに命懸けで参加協力者を求めて、各グループのリーダーたちと渡り合い、資金を集め、ロジャーズも巻き込んで、ようやく実現に到った。ライスは、グループを中立なものにするために、神父であることをやめさえした。

   「鋼鉄のシャッター」とは、グループの中で使われ、映画のタイトルとしてピックアップされた言葉だが、死と背中合わせの毎日を生きながら、正気を保ち暴れ出さずにいられるために使われていた防衛メカニズムの比喩だった。「そのシャッターの向こう側にいる別の私は・・・感情的で不条理に満ちた危険な人格で、もし私がそいつを自由にしたら・・・私は何か暴力的なことをしたくなるだろう」。この「鋼鉄のシャッター」こそが、このグループに参加し、語り合うことを可能にした一方、グループでの人間的出会いを妨げるものとなった。しかし、これが話題にできたことで、葛藤を抱えるグループのすべての人の共通項として、急激に距離を縮めるキーワードとなった。

   映画の解説において、ロジャーズは、「このグループの参加者たちのほとんど全員がその後、自主的に会合を続け、ひとりのプロテスタントとひとりのカトリックがチームとなって両セクトの教会で映画上映会を開き、討論の機会を持った。その結果、数年のうちに、数千人がエンカウンター・グループに参加し、数百人をファシリテーターとして訓練することができた」と報告している。本著を読めば、「鋼鉄のシャッター」のその後の物語は生易しいものではないということを痛感させられるが、それにしても、この取り組みが北アイルランドに与えた影響がどれほど大きいものだったかは疑いようがないだろう

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