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トピックス by村本邦子

2014.05.10
最後の母系制社会モソ

 不思議なご縁があって、中国雲南省瀘沽湖(ロココ)の湖畔にあるモソ人の集落を訪れた。最後の桃源郷とも言われているようだが、母系制と通い婚で有名なところだ。上海乗り継ぎで3時間半、麗江へ。そこまでで1日がかりなので、麗江でナシ族の民宿に一泊して、朝まだ暗いうちに出発し、小さなチャーターバスに乗ってさらに250キロ。山を越え、谷を越え、でこぼこ道をえんえんと走り続け、途中、土砂崩れで1時間半ほど止まってしまったり、車の調子が悪くなって村の修理屋に寄ったりしながら、また1日がかりでようやく瀘沽湖に辿りつく。透明度が高く、青く静かに眠っているような美しい湖だ。入口には、「ようこそ女児国へ」の看板があって、100元(2千円弱)の入場料を払う。そして、そこからさらに20キロ、もっと厳しいでこぼこ道を山奥まで入って、ようやく目的地のワラビ村に辿りつく。大阪から丸2日の長旅だ。 

 モソ人たちは、「嫁を娶らず嫁がない」。母系制社会で、財産を女たちが引き継ぎ、カップルの関係は通い婚。成人式は男女ともに13歳だが、女たちは13歳になるとそれぞれ別棟の建物の1室が与えられ、互いの気持ちが確認されると、男が夜こっそりと彼女の部屋に忍び入り、朝まで一緒に過ごす。朝になると、男は実家に戻って働く。子どもが生まれると、母の属する大家族のなかで育てられ、男も女も自分の生まれた家で一生暮らすことになる。母屋にはかまどがあって、先祖が祀られ、それを見守るように家長(つまりはおばあさん)の寝床があって、その奥に生死門と呼ばれる小さな扉があって、その向こうには小さな部屋がある。家族はみな、その部屋で生まれ、その部屋で最後の息を引き取る。そういう意味では、一生というより、あの世でもずっと実家に属することになる。ちなみに、生死部屋以外で死んでしまった場合は、もう家族と一緒に暮らせないそうだ。

 知れば知るほど、よくできたシステムだと感心する。経済と恋愛を一緒にしないので、カップル関係は純粋に気持ちで成り立っていて、関係が破綻すれば、あっさりと別れる。しつこく聞いてみたが、そこでのトラブルはまったくないようだ。そこで引き摺るのはとても恥ずかしいことだし、また新しい出会いがある。ストーカーのようなこともないようだし、そもそも犯罪はない。一生、同じ相手と連れ添うカップルもあれば、相手が変わる場合もある。子どもは、経済という観点からも、養育という観点からも、父母の恋愛関係がどうあろうと変わりない安定した環境のなかで育つ。経済と恋愛をごっちゃにするから、愛はなくてもお金のために婚姻を続けたり、ひっついたり別れたりを繰り返しながら子どもがその間で振り回されることになるのだ。個人的には、モソのシステムがとても気に入って、世界中がこのシステムを採用すれば、戦争なんて起こらないのにと思う。要するに、競走というものがないのだ。

 と言っても、モソの人たちは新しく来るものにもオープンなので、違う部族との結婚もあり、外から入ってきた文化の影響で、さまざまなバリエーションがあり得る。以前は、麗江から瀘沽湖まで、車で1週間かかっていたというから、このシステムが今まで残ってきたのだろう。来年は瀘沽湖に飛行場ができ、3年後には麗江から瀘沽湖まで高速道路が通って2時間半で行けるようになるということだから、みなが訪れやすくなると同時に、この特別な家族形態を維持することは、とても難しくなっていくだろう。そのうえ、中国の一人っ子政策で大家族の維持、すなわち一家の働き手の十分な確保がだんだん難しくなっている。モソの人たちはとても寛容で争わないので、経済優先の価値観が押し寄せてくると、それに対抗する戦略を持つことがどのように可能なのかわからない。こんなふうに人類が現代社会を作ってきたのだと思うと哀しい気持ちになった。

 

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