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トピックス by村本邦子

2014.04.20
「わたし」に立ち戻って

 この春、23年半続けてきた女性ライフサイクル研究所の所長を降り、大学の方でも、5年間背負っていた役職を降ろした。娘はパートナーとともに家を出、フルタイムの仕事を見つけて頑張っている。息子は仕事をやめ、またもや新しい世界へ旅立とうとしているところだ。いっぺんにいろいろな責任をおろし、しみじみと、久しぶりに「わたし」に戻った気分である。もちろん、いろいろな役割を背負う自分も「わたし」には違いないのだけど、純粋に「わたし」のための「わたし」とでも言おうか。

 ずいぶん前のトピックで紹介したが、『愛着からソーシャル・ネットワークへ~発達心理学の新展開』(マイケル・ルイス/高橋佳子編、新曜社)という本がある。精神分析やボウルビィの愛着理論では、乳幼児期の母子関係を基盤にして他者との関係や自己概念を徐々に発達させていくことになっているが、ソーシャル・ネットワーク理論によれば、新生児は多数のネットワークからなる社会に生まれ、その中で発達し、社会化される。つまり、さまざまな関係性のなかで、異なる「わたし」が立ち現れる。多様なネットワークを持てば、多様な「わたし」と出会えるだろう。
 

 ケネス・ガーゲンは同じことを「関係的存在」(relational being)という言葉で表し(Gergen, 2009)、小田博志さんは、これに「縁」という語を当てている。実は、ガーゲンの同タイトルの本をキンドルで買って、この2年ほど、思い出したように持ち歩いて、少しずつ読んでいた。どこかに「本当の私」があるのではないかなどと考えて探し求めるのでなく、幸せの青い鳥は眼の前にいたように、「わたし」は、今ここにいて、新しい可能性を待っている。息苦しくて生きにくい「わたし」は、たぶん自分の関係性を狭め固定してしまっているのだ。
 

 役割や責任も、ソーシャル・ネットワークに含みこまれているものだろうが、それが肥大化すれば、その他のネットワークを押しつぶしてしまうだろう。仕事も子育ても、自分で選び育ててきた大切な人生の一部ではあるが、その陰で、出会いそびれた関係と「わたし」がある。これから、「わたし」はどんな方向を向いて、どんなことと出会っていくのだろうかと考えると、何だかわくわくする。そんなに大きく違ったことをしようと思っているわけではないが、もっともっと柔らかく開かれたいと思うのだ。

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