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トピックス by村本邦子

2012.02.27
2012年2月 世界の結婚と家族

 今年の年報の特集は「家族」である。大学院で、新たに「家族心理学」という科目も担当する。震災以降、家族に焦点が当てられ、家族の絆が言われる。家族に絆があればもちろん良いだろうが、絆がないのに、それを強調されると辛いものだ。こういう時だからこそ、あらためて家族を問い直したい。今回は、手始めに、世界の家族を見渡してみよう(宮本・善積編『現代世界の結婚と家族』放送大学テキスト、2008参照)。

 まず、統計的に言えば、どの国でも、平均すると、男性より女性の方が早く結婚する。アフリカ(北部と南部をのぞく)や中央・南部アジアの国々では、15歳〜19歳の女性の30%以上が結婚している。女性の結婚年齢が低い国においては、妻と夫の年齢差が大きい傾向があり、配偶者間に大きな不平等をもたらすことが多いと指摘されている。逆に、女性の平均結婚年齢が最も高い地域はカリブ海地域、北欧、北部アメリカとなっているが、これらの国々では法的手続きを取らないパートナー関係が増加していることをも示している。法的手続きを取らない親密なパートナー関係は、ラテンアメリカ・カリブ海地域では「合意ユニオン」と呼ばれ、教育水準の低い女性や農村部に多く、別れる時に女性が金銭的不利益を被ることが多いという。これだけ見ても、結婚が愛情よりも経済と密接に関係していることがわかる。

 家族とは社会制度であり、時代とともに変化してきた。「愛情によって結ばれた結婚と家族」というイメージは、「近代家族」と呼ばれ、日本においては、第二次世界大戦後に拡がったものである。その根底には、①男女のロマンティック・ラヴに基づく当事者間の結婚の合意 ②一夫一婦婚主義のもとで婚外性関係の排除 ③婚内子の正統性 ④法律婚主義 ⑤性別役割分業 という特徴があり、欧米では、こうした結婚観は、1970年頃から①性別役割分業への批判 ②国家による性関係の管理への批判 ③婚外子差別に対する批判 ④異性愛強制社会への批判 を受けるようになる。かくして、結婚の力点は、制度から関係性へと移行しつつある。結婚が制度モデルから関係モデルに変化すると、パートナー選択の自由度は上がり、対等性やセクシュアリティが重視されるようになる。つまり、パートナー関係は固定的でなく、破局の可能性を常に内包するものとなる。家族の「純粋な関係性」が増すほど、親密な友人やサポート・ネットワークが重要となり、この傾向が強まれば、結婚の意義は弱まっていく。

 このような変化を共有しつつも、結婚行動には文化的特徴がある。アメリカ、韓国は結婚を積極的に評価するが、フランスは結婚にこだわらずパートナーを必要とする。スウェーデンでは、結婚生活に「家事・育児の公平な分担」と「情緒的な結びつき」を重んじ、アメリカ、フランスでは、「性的魅力」「情緒的な結びつき」を、日本や韓国では、「収入」「経済的安定」が求められる。日本や韓国においては、結婚前後の生活に大きなギャップがあり、女性のM字型就労と男性の長時間労働が特徴であり、非婚率が高くなっている。

 ここからはデータに基づかない私の勝手な憶測だが、日本においては、結婚に求めるものの順位として「収入」「経済的安定」が一番に来るとしても、女性たちは、「家事・育児の公平な分担」「性的魅力」「情緒的な結びつき」のどれをも捨ててはいないような気がする。それでいて、欧米と比べると、自立した個としての家族成員というよりは、どこか共同体としての役割分担を求めている。男性はどうなのだろう?結婚は絵に描いた餅となりつつあるのだろうか。結果的に、親元に同居する未婚者が増加している。もちろん結婚しなければならないものでもないが、高齢化した親子が閉鎖系をなしていけば、子育てと一緒で、虐待的な状況が生まれる。中年期を迎えた「ひきこもり」の息子による介護の破たんや、母娘密着型の娘が母親の介護のために仕事をやめて孤立し、追い詰められていくパターンが、極端なケースではあろうが、事件を通じて耳に入ってくるようになった。これでは未来が拓けていかない。

 子どもにとって家族の居心地が良すぎるのも、むしろ問題なのではないだろうか。家族を解放し、ゆるやかな絆を結んでいくこと。そのためには、制度に頼りすぎず、かと言って、家族に「純粋な関係性」を求めすぎない方が良いのかもしれない。家族以外の親密な友人やサポート・ネットワークを大切に。家族はこれからどこへ向かっていくのだろうか。年報の成果を楽しみに。

2012.01.22
2012年1月 イスラムの模様

 スペイン旅行でもっとも心を魅かれたものがイスラム文化であり、なかでも、その模様である。壁、天井、窓枠、庭の石畳にいたるまで、ありとあらゆるところに、繊細で美しい模様が散りばめられている。あまりの美しさに言葉を失った。イスラム文化についての知識はないが、それが何かスピリチュアルな意味を含んだものであることは想像できた。辛うじて思いついたことは、イスラムは偶像崇拝を禁じるために、抽象的でシンボリックな図柄が高度に発達したのだろうということだ。

  帰ってから、少し勉強してみたいと思って調べたが、あまり情報はなく、1冊だけ『イスラム芸術の幾何学〜天井の図形を描く』(ダウド・サットン著、武井摩利訳、創元社)という本を見つけた。さっそく注文したが、小さな絵本のようなきれいなものだった。情報量は少ないが、初心者にはちょうどよくて、まだ十分には理解しきれていないが、とてもわくわくする内容だった。

 この本によれば、宗教美術は、物質を使って霊的世界を表現し、その場を訪れた人々の霊的生活を支え、世界をどう理解すればよいか、世界の背後にある捉えにくい現実をどう把握すればよいかを教えるものである。イスラムのデザインの視覚構造には、アラビア文字のカリグラフィーと抽象的な装飾模様というふたつの面がある。後者、つまり、装飾模様には、さらにふたつの中核要素があり、ひとつは幾何学パターン、もうひとつは理想化された植物模様(アラベスク、唐草、葉、蕾、花など)である。

 幾何学パターンは、もっともシンプルな円から出発する。まず、ひとつの点を思い浮かべて欲しい(文字で説明するのは難しいので、興味があれば、是非、作図してみてください)。点を拡張すると線になる。この線を最初の点のまわりに回転させると円ができる。円は、「一」「単一性」「唯一性」の完璧なシンボルである。この円の円周上の1点を中心にして、最初の円の中心を通る第二の円を描く。できた交点を中心に順々に次の円を描くと、中央の円のまわりに計6個の円が描かれる。これは、コーランに記された天地創造の6日間の理想表現だという。この構造を無限に広げていくと、平面を充填する正六角形のタイリングが作り出される。これ以上の説明は無理なので、関心があれば本を読んで頂くとして、ここに「ソロモンの印章」(6つの角がある星)が現れてくる。

 このように、コンパスと定規を使って、一定の規則に従い、単純なパターンから数限りない複雑な抽象模様ができる。アラベスクのデザインは、幾何学パターンを補完する。アラベスクは、植物のリズムや生長のエッセンスを視覚的に抽出し、原型としての「楽園の庭」を想起させることにあるという。アラベスクモチーフの基本である渦巻は、原初的かつ普遍的なシンボルで、生命およびそのサイクルと結びつき、カリグラフィーとともに用いられたり、空いたスペースが花や葉で埋められたりする。

 一定のパターンを習得すれば、おそらく自分で新たなデザインを創りだすこともできるはずだ。もちろん、宗教性抜きには無意味なのだろうが、それでも、仮に、偶然、美しいデザインを創りだすことに成功したとすれば、そこには深い象徴的意味を見出すことができると言われれば、信じてしまうだろう。アルハンブラ宮殿(グラナダ)やアルカサル宮殿(セビリア)、モロッコで本当にたくさんの美しいタイルや透かし模様を見た。もう少し知識を身につけて、世界中を旅することができたら。異なる他者を理解し、尊敬するところから、平和は始まる。これを機会に、もっとイスラムの人たちのことを知りたいものだと思った。

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