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FLCスタッフエッセイ

2018.01.08 カウンセリング
カウンセリングの窓から~女性の心理的成長のための四つの課題   

              
                                     西 順子

今年度の女性心理学フリートークでは『女はみんな女神』の読書会を行っています。
私自身、『女はみんな女神』との出会いは27年前にさかのぼります。以後、本書は人生のバイブルともいえるような存在となってきました。自分らしさを肯定できると同時に、人生の困難を乗り越えるための知恵を授けてくれたように思います。

今回、このエッセイでは、先月12月の読書会でテーマとなった「錬金術の女神、愛と美の女神アプロディーテー」から「心理学的成長の比喩としてのプシュケーの神話」を紹介したいと思います(『女はみんな女神』326-330頁)。この神話は、「女性が発達させなければならない四つの課題」を表しています。

女性が人生の途中で道に迷い悩むとき、この「四つの課題」は普遍的なものとして、現代の女性にも通じるものがあると思います。神話をイメージするだけでも混沌から抜け出して、知恵と勇気と冷静な落ち着きを得られるように感じます。皆様にとっても、人生の困難を乗り越えて成長するヒントとして何がしか役に立てていただければ幸いです。

■プシュケーの神話とは

『女はみんな女神』の著者ボーレンは「心理学的成長の比喩としてのプシュケーの神話」と題し、女性が心理学的成長するための比喩として重要な象徴的意味を解説しています。

神話にでてくるプシュケーは、エロース(愛の女神アプロディーテーの息子)と再び結ばれることを求めている人間の女性で、何よりも人間関係を大事にして、他の人々に対して本能的あるいは感情的に反応します。プシュケーはエロースと仲直りするために女神アプロディーテに自分を差し出しますが、アプロディーテーはプシュケーを試すために四つの課題を与えました。四つの課題とは、女性が発達させなければならない能力を象徴しています。ではこの四つの能力とは何か、ボーレンの解説と共にその課題をみていきましょう。

■ 課題1~種の選り分け

プロディーテはプシュケーをある部屋に連れていき、うず高く積まれた種の山を見せた。それはトウモロコシ、大麦、キビ、エジプトマメ、レンズマメ、ソラマメの種がごちゃごちゃになったものである。そしてプシュケーに、晩までにそれらの種を種類別に分けなければならないと言いつける。プシュケーはその仕事をこなすことができないように思われたが、アリの一群が彼女を助けにやってきて、種を種類別に分け、それぞれの山に盛り上げた。

重要な決定をしなければならない女性もしばしば、互いに葛藤しあう感情や鎬を削る忠誠心を、まず一つ一つ選り分けなければなりません。「種の選り分け」は内面の仕事であり、女性が自分の内面を正直に見つめ、自分のもろもろの感情、価値観をふるいにかけ、重要でないものから真に重要であるものを選り分けることが求められるのです。

これは混乱した状況にとどまり、事態がはっきりするまで行動しないことを学ぶことであると解説されています。アリとは直観のプロセスの比喩であり、プシュケーがアリを信頼したように、「種の選り分け」のプロセスは、意識的なコントロールを超えて、自分の直観を信じることが大切となります。

例えば、やらなければならない仕事、周りとの人間関係、家族のなかで起こる様々な問題など、「問題が山積み。どこから手をつけていいか」という状況はよく起こることです。
また「やりたいことがたくさんあるけれど、どこからどういう優先順位で手をつけていいか」と思い悩むこともあるでしょう。考える時間もなく、突発的に問題が起こり、巻き込まれることもあるでしょう。あるいは、焦りから慌てて行動に移しても、空回りして消耗し、更に状況が悪化してしまうこともあります。
そんな時、まずは一度立ち止まり、自分の内面を見つめて「種の選り分け」をすることが役に立つことを教えてくれています。

■ 課題2- 黄金の羊毛の獲得

アプロディーテが次にプシュケーに与えた命令は、太陽の恐ろしい牡羊から黄金の羊毛を獲得せよということであった。太陽の牡羊たちは野原にいる巨大で攻撃手で角のあるけだものであり、互いに衝突しあっている。もしプシュケーが彼らのなかに入って、その羊毛を獲得しようとするなら、きっと踏みつぶされるであろう。その仕事ができそうもないと思われたそのとき、またしても、助けがやってきた。今度は緑色をした葦(あし)である。葦は日が沈むまで待つようにとプシュケーに忠告する。その時刻になれば牡羊は散らばって寝るからである。それで彼女は、黄金の羊毛を刈り取ることができた。

象徴的に言えば、黄金の羊毛は力を表しており、それは女性が何かを達成しようとするとき、破壊されずに獲得する必要があるものです。人間関係を大事にするため傷つきやすい女性は、他者たちが権力や地位をめぐって鎬を削っている競争の世界に入っていくとき、そこに含まれるもろもろの危険に気づかないなら、傷つけられるか幻滅し「踏みにじられ」てしまうでしょう。

これは権力を得ながら同情心に富む女性であり続けるという比喩です。プシュケーのような女性が傷つけられずに黄金の羊毛を獲得するためには、観察し、待ち、段階を追って間接的に権力を獲得するのがよいと教えてくれています。

例えば、私はこの神話から、DVから逃れた女性のことを思い浮かべました。
自分の「自由に生きる権利」を守るためには、DV男性から離れるしかないと決意したとき、女性は観察し、待ち、その時を見計らいます。もちろん、女性一人ではなく、そこには葦のように助言し、相談にのってくれるも味方の存在があります。安全に家を出るとき、安全に生きる権利を自分の手に取り戻す重要な一歩を踏み出したといえるでしょう。

■課題3--水晶のフラスコを満たすこと

三番目の課題は、小さな水晶でできたフラスコを禁じられた川の水でそれを満たすことであった。この川は、もっとも高いところに位置する崖のてっぺんにある泉から冥界のもっとも深いところへと滝のように落ち、大地をめぐって再びその泉から現れてくる。プシュケーはその川を見つめていると、フラスコをいっぱいにするという仕事はできそうにもないように思われてきた。今度は、一羽の鷲がやってきて彼女を助けた。

鷲は距離をおいたパースペクティブで風景を見つめ、必要とされているものをつかむために急降下する能力を象徴しています。プシュケーのような女性は個人的なことにあまりにも関わっているために「木ばかりが見えて森が見えない」でいます。
関係を重視する女性にとって、人間関係で何らかの感情的な距離をとることは重要です。そうすることで全体のパターンが見えてきて、重要な細部を取り出し、意味のあるものをつかむことができると教えてくれています。

例をあげるとすると、親子喧嘩や夫婦喧嘩などでお互いに相手のよくないところが見えて、「どうしてそうなの?」と相手を否定したり、批判したり、問い詰めたりするコミュニケーションパターンになり、喧嘩がエスカレートしてしまうことがあります。そういう時は、まずは感情的に距離をとることが必要といえるでしょう。距離をとり、全体がみえれば、何を本当に大切したいのか、大切にしたいものがわかるものです。そして、それを得るためにどんなコミュニケーションをとればよいか見えてくるでしょう。

■課題4 ノー(NO)を言うことの学習

第四の、かつ最後の課題は、ある小さな箱をもって冥界にくだり、それを美の香油で満たしてくることであった。プシュケーはその仕事を死に等しいものと考える。今度は、遠くを見る塔が彼女に忠告を与えた。あわれな人々に出会って彼らから助けを求められても、三回「心を固くして同情心に動かされず」彼らの懇願を無視し、歩み続けなければならない。もしそうしなければ、彼女は永遠に冥界にとどまることになるであろう。

目標を設定して、助けを求められてもそれを固辞することは、人間関係を大事にする女性にとっては-特に困難です。三回ノーを言うことでプシュケーが達成する仕事は、「選択」を行うということです。

多くの女性は人から何かを押し付けられて、自分自身のために何かをすることから注意をそらされています。彼女らはノーを言えるようになるまでは、何を計画しても、また自分にとって一番よいどんなことでもそれを成し遂げることができないと言います。

例えば、もし女性がノーを言えないとどうなるでしょうか。
他者のために自分の時間とエネルギーを費やし、他者の世話したり働き続けると、心身ともに疲弊してしまい、自分のためによいことができないばかりか、心身の不調に陥ってしまうことにもなりかねません。

ここまで、『女はみんな女神』から四つの課題についてみてきました。
最後に、著者ボーレンは次のように言っています。

この四つの課題を通してプシュケーは成熟します。彼女は自分の勇気と決断力が試されるごとに、もろもろの能力と強さを発達させます。しかし、何を獲得するのであれ、彼女の根本的な性質と重要だとみなすものは変わりません。彼女は愛の関係を重視し、そのためにどんな危険をも冒し、そして勝利するのです。


■カウンセリングの窓から

女性が人生の問題について悩むとき、この四つの課題に直面していることも多いのではないでしょうか。自分自身の経験として、カウンセラーとしての経験からも実感します。

カウンセラーとしての経験では、女性がカウンセリングに初めて来談されるとき、混沌とした状況において、何をどこからどうしたらよいか、どう手を付けていいかわからないと混乱していることが多いものです。カウンセリングでは、混沌した状況を整理しながら、もろもろの感情や考え(価値観)、身体の声に耳を傾けながら、大切にしたいものを大切にできるように重要なものを「選り分ける」作業のお手伝いさせていただいています。

また、他者にノーを言うことが課題であることも多いものです。他者の気持ちがわかり愛するがゆえに、よい娘、よい母、よい妻として周囲の期待に応えようとして自分を見失ってしまい、かえって大切にしたいものを犠牲にしてしまうこともあります。
あるいはノーを言うときに、抑えていた感情がいっきに爆発したり、攻撃的になってしまい、他者に伝わらないばかりか自己嫌悪に陥ってしまうこともよくあります。

そんな時、まずは自分の感情について認めることが大切です。感情によい悪いはありません。どんな感情も認められるべきものです。感情を認めることができたなら、その次には、その感情の源(例えばトラウマとなっている過去の未解決の感情・葛藤など)にも目を向けてみることも必要です。カウンセリングでは、感情を認め、理解し、緩和したり消化するお手伝いをしています。

物事の見方、捉え方が変わることで感情が変わることもあります。感情が抱えられるようになり、本当に大切にしたいものを大切にする決意をもてれぱ、現在に焦点をあてて、自分も相手も尊重する自己主張(率直な自己表現)も可能となるでしょう。

プシュケーの神話から、女性の人生の課題は個人だけの問題だけではなく普遍的な問題でもあると知ることで、勇気づけられ、心強く感じられるのではないでしょうか。

カウンセリングでは、女性が困難を乗り越えて、自分が大切にしたいものを大切にできるように、人生のある時期を共に寄り添う伴走者となれればと願っています。


【引用文献】
『女はみんな女神』(ジーン・シノダ・ボーレン著、村本詔司+村本邦子訳)新水社。

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