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2016.05.11 子ども/子育て
お弁当作り雑考 ー 日米での比較

                                        金山あき子

 春ですね。新学期もはじまり、わたしの娘の幼稚園のお弁当作りも、はじまりました。7年間のアメリカ生活から日本に引っ越してきて1年、いろいろな「逆カルチャーショック」を体験してきましたが、日本のお弁当文化もまたそのうちの一つかもしれません。

アメリカで娘をプリスクール(保育園・幼稚園)に行かせていた頃、よく作っていたお弁当といったら、タッパー入りご飯に、茹でたブロッコリー、プチトマト、そこにゆで卵があれば上出来といった、いたって簡素なもの。周りのアメリカ人達のお弁当にこっそり目をやると、これまたシンプル極まりないランチ。ピーナッツバターを挟んだだけのサンドイッチ。スティック野菜(にんじん)とパン。ケサディヤ(メキシコ風の薄焼きチーズパン)。りんごだけ。ジップロックにナッツだけ(!)などなど。自由だな〜。栄養は大丈夫かな?などと少しの心配はありつつも、私はこの、「自由」な弁当作りの雰囲気を、大いに楽しみ(楽をし)ました。特に、周りの母親達は、共働きの人が多く、彼女らの忙しいライフスタイルには合っているようでした。

しかしアメリカではやはり、子ども達の食事と健康が深刻な問題になっていました。多くの小学校でのランチのメニューはピザ、ホットドッグとハンバーガーのオンパレード。子どもたちがスーパーで買うアメリカ版のお弁当箱「ランチャブル」は、ビスケットとクッキー、プロセスハムとチーズ、砂糖が一杯のパックジュースが箱詰めされたもの。こういう状況もあって、アメリカにおける子どもの肥満の割合は増加の一途を辿っており、ランチの内容をヘルシーに工夫することや、子どもたちへの食育の必要性が叫ばれていました。

 

かたや、日本の「お弁当」は、海外でも"Bento"の固有名で通るほど、独自の文化です。運動会の日に見た、日本のお母さんたちの作ったお弁当のおかずのバラエティ、色どりや飾りの美しさには、目を見張るものがありました。帰国後は娘からも、「可愛いパンダのお弁当作って〜」と、かつてなかったリクエストが出るようになり、嬉しい反面、朝の忙しい時間に大変やな〜と複雑な気持ちも湧いてくるところ。「周りと違う」ことをあまり良しとしない日本文化の中では、一定の「クオリティ」を持った弁当を作る事が、お母さん達のプレッシャーになってくることもあるだろうなあ・・と考えさせられました。

そんな折、本屋さんで、「今日も嫌がらせ弁当(三才ブックス)」という本を発見。反抗期の娘の毎日のお弁当に、のりやチーズ、カラフルな食材で、時にブラックな、時に愛情いっぱいなメッセージや絵を描き、弁当の面をまるで切り紙細工のように仕立てながら、母親が娘に愛憎を伝えてゆくやりとりが、写真とともに綴られていました。つくづく、日本人にとってのお弁当は、アートや美的なものにもなり、濃密な感情の表現や、コミュニケーションのツールにもなりうるんだなあ、と再確認。「弁当」という小箱には、色んな思いが詰まっているのだ・・などと、しみじみしながらも、ずぼらな私はといえば、アメリカ式ランチボックスで、思いきり楽をする日もあれば、日本的に気持ちを込めて弁当を作る日もあり、 どちらも捨てがたい。でもどちらでも、あくまで「健康・簡単・楽しめる」弁当作り、という具合を保てるように。自分なりのいい塩梅、中庸を模索している今日このごろです。

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