1. ホーム
  2. FLCスタッフエッセイ

FLCスタッフエッセイ

2024.03.18 仕事
復職についての豆知識⑤ 復職に際して確認しておきたいこと

西村 麻里

 復職についての連載エッセイ、5回目の今回は、前回予告していましたように、復職に際してやっておきたいことや確認しておきたいことをお話したいと思います。

 これは大きく二つに分けられ、一つは自分自身が問題なく復職できる状態かについての確認、もう一つが職場側の環境や制度についての確認になります。

 

 まず自分自身の状態についてですが、病状が回復してきていても、仕事関連のことに触れると急激に具合が悪くなるということがままあります。これは仕事や職場のことを避けて過ごしていると気づきにくい面でもありますので、できれば実際に復職手続きを始める前に一度そのあたりが大丈夫かを確認しておきたいところです。

 具体的には、同僚などと会ったり職場や仕事のことについて情報交換したりができているか、まだしていない人はできるかどうか(実際復職を盤石にするためにはやっておくことがお勧めです)、職場の最寄り駅や建物の前まで行って気持ち悪くならないか、通勤ラッシュやスーツ・制服などに対して抵抗がないか、耐えられるか、あたりが大きなチェックポイントと言えます。

 

 そして職場側については、まず人事・労務的な面で、時短勤務や職務内容の軽減、残業時間の制限といった措置が受けられるかどうか、どの時点から正規の就業として勤務するのか、給与や有給休暇の付与はどうなるのかといったことが挙げられます。これらは密接に関係しており、かつ、職場によってかなり運用や規則が異なるので、自分の職場がどうなのかを確認することは重要です。

 例えば、ある職場では、時短勤務の間は休職中のリハビリという扱いで給与も交通費も支給されず(代わりに傷病手当等がある場合はそれが引き続き受け取れます)、フルタイムの勤務になった時点から正規の就業となって給与が発生するのに対し、別の職場では、正規の就業として時短勤務を扱うため交通費や労災などは適用される代わりに、時間が短い分受け取れる給与は少なくなる(そして傷病手当も受け取れない)といったことがあります。

 有給休暇についても、休職前に残っていた分が持ち越せるところもあれば、最初は全く付与されず、勤務を継続するにしたがって法に準じた日数分付与していく形を取るところもあります。復帰後に調子を崩した時や通院したい時に安心して休めるかどうかはかなり大きいことなので、しっかり確認しておきましょう。

 また環境面では、仕事中に調子が悪くなった時に休める場所があるかどうかを事前にチェックしておくことも大切です。休憩室やロッカールーム、保健室などがあればぜひ事前に一度様子を見に行っておいてください。またそういった施設が職場内にない場合、人のあまり来ない階段や廊下、あるいは近所の公園やコンビニなど、どこか避難できる場所を探しておきましょう。

2024.03.06 仕事
復職についての豆知識④ 復職における主治医・産業医の役割

西村 麻里

 復職についての連載エッセイ、ここまでは主に休職中のリハビリに焦点を当ててお話してきましたが、4回目となる今回は、リハビリも進んできて、実際に復職に向けて動き出す時期に目を移したいと思います。

 具体的に復職の話を職場との間で進め始めると、いろんな役割の人物が関わるようになってきますが、その中でも特に重要な役割を果たすのが主治医と産業医です。

 復職するにあたってまず必要になるのが、復職可能という主治医の判断です。その形は職場によって、診断書の提出を求められる場合もあれば、さしあたっては口頭で許可が得られればよしの場合もありますが、いずれにせよ主治医に「働けるくらい病状が回復した」と認められて初めて、復職手続きのスタートラインに立てるのです。また、復帰後の業務軽減や配慮の程度に関しても、主治医の判断が影響力を持つ場合が少なくありません。ここで重要なことは、仕事の内容や職場の制度について、主治医に十分な情報を提供することです。仕事の内容や忙しさ、また復帰時にどの程度の勤務が求められているのかによっても、最適な復職のタイミングが変わってきます。また、復職可能の判断が出た後は、職場側に主治医の見解を伝えることも大切になってきます。病状の説明や今後の治療計画、就業上必要な配慮などについて、自分から積極的に情報をもらい、職場側に伝えるようにしましょう。主治医と職場が本人を抜かして直接やり取りすることはありませんので、自分がパイプ役であることを肝に銘じてください。

 そして職場側で復職の判断を行うのが、多くの場合、産業医となります。主治医が病気が治ったかどうかの「疾病性の判断」をするのに対して、産業医はもう一度働くことができるかどうかという「機能性の評価」が仕事になります。つまり、病状の回復だけでなく、職場環境などの条件も含めた上で、本当に職場復帰が可能なのか、可能であればどのような方法で復帰をしたら再発を防げるのかなどを判断し、職場に助言することが産業医の役割となります。実際、主治医の許可は下りていたのに産業医の許可が出ず、休職延長となるケースも存在します。再発防止の観点からもそれは必要なことではあるのですが、産業医と会えるのは1回ないし数回の産業医面談の時のみ、という人も多いでしょうから、その時に自分の回復の程度をしっかりとアピールできるようになっておくことも重要です。

 産業医面談で聞かれることの多い内容は、休職中の生活の様子、職務遂行能力(集中力や記憶力、持久力等)の回復具合、休職に至った原因とその対策、復帰後の治療計画あたりです。いずれも、復職に向けてそれらがきちんと考えられていたり、整えられていたりするかが復職可否の判断に関わってきます。嘘や虚勢はのちのち自分の首を絞めるだけなのでおすすめしませんが、必要なことをきちんと落ち着いて伝えられるよう、ポイントを押さえてあらかじめ準備しておくようにしましょう。生活リズムの記録やリハビリのプランといった資料を見せたり、リワークやカウンセリングで取り組んでいることがあればその内容を伝えることもおすすめです。

 ちなみにここではわかりやすく産業医とのみ書きましたが、復職可否の判定や復職後の配慮の決定の行われ方は、職場によってかなり違います。シンプルに産業医が単独で行う場合もあれば、産業医や保健師、人事、上司などで構成される会議にかけられる場合もあり、また特に小規模なところでは産業医がおらず、人事担当や経営者がすべてを行う場合もあります。そういう意味では、復職にあたってまず最初に必要なのは、自分の職場の復職判定システムや復帰スケジュールを把握すること、とも言えますね。実際、復職手続きの前後の時期はやっておきたいことや確認しておきたいことがたくさんあります。詳しくはまた次回にお伝えできたらと思いますが、連載1回目でも簡単に触れてはいますので、よければご参照ください。

2024.02.12 仕事
復職についての豆知識③ 休職原因のふりかえりとキャリアの再構築

西村麻里

 復職についての連載エッセイ、3回目となります今回は、前回紹介したようなリハビリがある程度進んできたところで、次に取り組みたい内容についてお話ししていきます。

 リハビリがある程度進んで、気分や生活リズムもそこそこ安定し、仕事のことを考えたり、休職前のことを思い出したりしても調子が崩れるようなことがなくなれば、いよいよ後半戦。復職に向けてより具体的な内容に取り組んでいく時期となります。

 ここで主に取り組みたいことは大きく二つ、一つは休職に至った原因を分析して、復職後に同じことにならないよう対策を考えること、もう一つは、休職(場合によっては発病とも言い換えれますが)を踏まえて自らの今後のキャリアを見直すことです。休職原因にもよりますが、この二つは相互に関連していることも多く、同時並行で進めたり、あるいは休職原因のことがある程度つかめてから、キャリアについて考えていくことがおすすめです。

【休職原因の振り返りと対策】

 休職原因については、復職にあたっての産業医面談や上司・人事との面談でもよく問われることであり、復職を進める上では避けて通れないテーマとも言えます。一方で、考えろと言われたからってすぐ考えてわかるものでもないのがこのテーマの難しいところです。よく使われる手法は、しんどくなり始めてから休職に至るまでの経過を時系列で振り返ることですが、ただ振り返っても、自分の思い込みなども影響して、中々正確なところはつかみづらいものです。紙に書くなどしてできるだけ客観的に、できれば第三者の視点も取り入れて行えるのがベストですので、この作業は特にカウンセリングやリワークプログラムなどを利用しながら取り組むことがお勧めです。

 対策については大きく3つの方向性が考えれます。①自分の仕事の仕方やスタンスを変える、②自分の考え方や捉え方を変える、③職場側に環境調整などの対応を求める、の3つです。このうち③については、自分の職場がどこまで対応できるのか、制度的にも状況的にも見極めた上で、産業医面談や上司・人事面談などの場で交渉していくことになります。

【キャリアの再構築】

 休職せざるを得ない状況に至った、ということは、多くの場合、これまでと同じ働き方ではもうやっていけないことを意味しているとも言えます。もちろんその要因は様々で、異動や昇進などによって仕事内容が変わったからであったり、年齢や体力、あるいはプライベートの状況の変化などが影響している場合もあるでしょう。また最近では、時代の流れの中で会社自体が大きく変化した、というのが原因の一つである場合も少なくありません。いずれにしても、これまでと同じ働き方が難しい=これまで想定していたキャリアの進路を見直す必要があります。もちろん、見直した結果、これまで通りでも行けるだろうと判断されるなら、それも一つの結論です。ですが、一度お休みして余裕のあるこの機会に自らのキャリアを見直すことは、復職だけでなく今後の人生をよりよいものにするためにも大事なことです。

 キャリアを見直すにあたっては、復職後どう働くかという目先のことだけでなく、まずはそもそもなぜ今この職場でこの仕事をするに至ったか、それは自らのそもそもの希望と一致するものだったか、さらに、今の自分(特に休職を経験した自分)は以前と同じ希望を持っているのか、望むことは変わってきているのか、といったことを広く考えてみましょう。そうすると段々、今の自分が望むことと、それが自分が復職後にやるであろう仕事や働き方とどの程度一致して、どの程度一致しないのか、が見えてくるはずです。ここまでくればもうあと少し、自分がこの先職場に戻った時に、何を大事にして、何は妥協するのか、自分の優先順位を正確につかめれば、かなり見通しも立てやすくなるでしょう。そしてこのあたりのことは、先の休職原因への対策の検討ともつながってくるところとなります。

 これらの内容は、後半戦だけあって取り組むのも大変ですし、また一人進めていくのが難しい内容でもあります。一方でこれらがきちんと押さえられているほど、この次に控える復職にあたっての職場とのやり取りもスムーズに進めやすくなりますし、再休職の防止にも効果的です。これだけのことに取り組める状態だと、もう働けるくらい回復しているのではと感じられて復職へといそがれる方も多いのが現実ですが、復職を万全のものにするためにも、ぜひ焦らずにじっくり取り組んでいただきたいところです。

2024.01.31 仕事
復職についての豆知識② リハビリを行う際のポイント

西村麻里

 復職についての連載エッセイ、1回目では休職から復職までの流れを概観しましたが、続いては、実際に復職に向けてリハビリを始めるにあたってのお話をしていきたいと思います。

 リハビリを始める時期の目安については前回お話ししましたが、この時期の大きな特徴としては、回復してきた分、色々なことを考える余裕ができることで、かえって復職への不安や焦りが出てくることが挙げられます。焦りから急いで復職したもののやはり心身がついていかず再休職、となってしまう方も多いのがこの時期です。回復=復職ではなく、ようやく前半を終えたところ、ここから復職に向けてリハビリで整えていく後半戦が始まるのだ、という意識を持つことが、再休職を防ぐ上でも大切になってきます。

 さて、ではリハビリとは具体的にどういうことをしていけばいいのでしょうか。大きく4つに分けて説明していきたいと思います。

1.生活リズムの把握と回復

 特に睡眠覚醒リズム(いつ寝ていつ起きているか、昼寝も含めて)を中心に、できれば記録シートなどを活用して客観的に把握した上で、徐々に働いていた時に近い生活リズムへ近づけるよう整えていきます。ただ、リハビリ中はリハビリの負荷による疲労が蓄積されやすいので、普段より長めの睡眠時間を確保するよう心がけてください。

2.身体機能の回復

 療養生活によってどうしても身体機能や体力が低下しています。身体的疲労による再発を防ぐためにも、ウォーキング等の軽度な運動を少しずつ取り入れていきましょう。最初からやりすぎず、少しずつステップアップすることが重要です。疲れて他の活動に支障が出てはやりすぎなので、今の自分にとってちょうどいい運動量を見極めましょう。

3.認知機能の回復

 身体機能だけでなく、集中力や記憶力、注意力といった認知機能も療養生活において錆つきがちです。最初は漫画や雑誌などの軽いものを読むところから、徐々にレベルアップさせていきましょう。読むことがある程度できるようになったら書くリハビリも取り入れてください。市販のドリルや脳トレなども有効です。

4.復職に向けた心のトレーニング

 自分の考え方のくせや問題解決パターン、ストレス解消法などを見直し、再び職場でストレスにさらされた時に、前とは違う新たな対応ができる自分を獲得し、再発防止を目指します。これは一人で取り組むのが一番難しいリハビリです。市販の復職のためのワークブック等でも取り組むことはできますが、客観的視点が入るほど有効なリハビリでもあるので、一人ではあまり効果を感じられない場合は、リワークプログラムやカウンセリングでの取り組みも検討してみましょう。

 いずれのリハビリも、その時その時の自分の状態に応じた適度な負荷で行うことが一番有効です。冒頭でも述べたように、この時期は特に焦りが出やすいので、ついやりすぎてしんどくなってしまわないよう、できれば家族や主治医などの周りの声や目も借りながら、着実に進めていきましょう。

 病状も右肩上がりでは回復せず、一進一退となるのが普通です。また、リハビリも、確実な復職を目指すなら最低でも数か月、できれば半年は見ておきたいところです。急いで進めたり、調子の波に一喜一憂せず、数週間くらいのスパンで自分の状態をとらえていくように心がけてください。

2024.01.20 仕事
復職についての豆知識① 休職から復職にかけての流れ

西村 麻里

 ブログでも予告していました、復職についての豆知識の連載、1回目となります今回は、まずは休職してから復職するまでにどのような経過があるのか、を概観していきたいと思います。

 厚生労働省が出している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、職場復帰支援の流れを5つのステップに分けています。そのまま載せると難しい言葉が並んでわかりにくいので、わかりやすく書かせていただくと、下記のようになります(元データが知りたい方は厚生労働省のHPに載っていますのでご参照下さい)。

 【第1ステップ】休職を開始し、療養・治療を行う段階

 【第2ステップ】本人からの復職の意志表示や主治医による復帰可能の判断などが示される段階

 【第3ステップ】職場側が、復帰が可能か検討したり、復帰支援プランを作成する段階

 【第4ステップ】最終的な職場復帰の決定の段階

 【第5ステップ】職場復帰後のフォローアップの段階

これを見ていただいただけでも、復職しよう、と考えてから、実際に復職するまでには、結構なステップがあることが想像できます。ただ、こちらの手引きはどちらかというと職場側の視点に立って書かれているもので、特に第3~4ステップなどは休職者側から能動的に何かをする段階ではありません。これを、より休職者、あるいは復職に向けての休職者側の準備、という視点で書き直すと、このようになります。

 【第1ステップ】(前半)治療に専念し病状の回復を最優先する時期

         (後半)一定の回復が見られ、療養中心から復職のためのリハビリに移行していく時期

 【第2ステップ】リハビリをステップアップさせる&休職原因に向き合い再発防止策を検討する時期

 【第3ステップ】復帰後のレベルを想定したリハビリを行う&職場と具体的な環境調整を行う時期

 【第4ステップ】職場への事前挨拶や同僚などからの情報収集等、復職直前の準備を行う時期

 【第5ステップ】復職後、調子を崩さないよう注意しながら少しずつ復職を確実にしていく時期

 こうして見ていくと、復職に向けて自分が今何をしたらいいのか、を考えるには、自分が今どのステップにいるのかを知ることが重要であることがわかります。一つの指標は主治医の判断ですが、おそらく一番判断に迷うのは、第1ステップにおいて、療養中心からリハビリへと移行するタイミングかと思います。焦って早くにリハビリを始めてしまうと、効果が得られないどころか病状の悪化を招きますし、逆にいつまでも休養ばかりしているといざ復職となった時に心身がついていかないという事態になります。

 実際に復職支援を行う際には詳細なチェックシートを利用したりするのですが、ざっくりとした目安としては、夜にまとまった睡眠がとれて午前中から活動することができること、仕事や職場に関わるものに接しても大きく動揺したりしんどくなったりしないこと、の2点をクリアしていればリハビリを始めてもいい時期に来ていると考えられます。

 繰り返しになりますが、焦って十分な療養を行わなかったり、過度なリハビリを行うことは、かえって回復を遅らせます。そしていったん回復してきていた調子が落ちてしまうと、自信の喪失ややる気の低下にもつながりかねません。自分が今どの時点にいるかを常に意識して、できればやや余裕を持ったペースで進めていけるのが理想的ですね。

2021.08.10 エッセイ目次
目次:FLCエッセイ

カテゴリー別:

[カウンセリング] 
2021年06月  認知からトラウマにアプローチする~トラウマへの認知処理療法(CPT)のご紹介その②
2020年02月  認知行動療法ワークショップに参加して
2018年01月  カウンセリングの窓から~女性の心理的成長のための四つの課題
2017年03月  カウンセリングの窓から~花をいけること
2016年07月  もう一人の自分の声に支えられて
2015年10月  トラウマとレジリエンス~カウンセリングで大切にしていること [トラウマ]
2015年05月  カウンセリングの窓から~母娘の心理と癒し〈娘編〉
2015年03月  カウンセリングの窓から~思春期の娘と母〈母編〉
2015年02月  カウンセリングの窓から~女性の傷つきと怒り
2015年01月  カウンセリングの窓から~人生の選択に迷うとき  「女性の生き方」
2014年11月  カウンセリングの窓から~私って誰? 本当の私らしさって?
2014年08月  『モモ』の世界と時間泥棒-時間泥棒・・VS心理療法?!-
2014年07月  カウンセリングの窓から~性暴力被害への理解と対応を
2013年10月  安全な場所を創る 
2011年05月  セルフケアのヒント~肯定的な感覚(リソース)を強める
2011年06月  「心」と「身体」をつなぐトラウマケア  [トラウマ]
2007年07月  トラウマ反応とケア          [トラウマ]
2007年01月  身体感覚との対話
2005年10月  人生の物語を紡ぐ  

[トラウマ]
2019年10月  認知からトラウマにアプローチする~トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSD:CPT)のご紹介その①
2015年04月  セルフケアのヒント~アートセラピーの手法を用いてトラウマに対処する
2014年06月  女性のトラウマとセルフケア
2014年05月  女性のトラウマとライフサイクルの危機~映画『8月の家族たち」を観て考えたこと 
2013年12月  クリスマスカレンダー
2013年09月  中秋の名月
2013年05月  環境とつながる~「今、ここ」にいること   [カウンセリング]
2012年01月  トラウマと身体~ソマティック・エクスペリエンス(SE)と出会って
2011年10月  市民の力~被災地に心を寄せる人々
2011年02月  恐怖症の克服
2009年12月  安全でサポーテイブなコミュ二ティを創る 
2008年08月  非暴力と平和を願う~その2
2008年07月  ドラマの力
2008年05月  非暴力と平和を願う
2006年12月  今年のキーワード~トラウマ心理療法、アート、選択
2004年08月  「戦争とトラウマ」を考えて
2003年09月  トラウマ・キルト・プロジェクトの夢

[虐待]

2012年12月  子どものトラウマ~2012年を振り返って   [トラウマ]
2012年07月  ボストン・トラウマセンター研修に参加して  [トラウマ]


性的虐待]
2014年11月  性的虐待の発見と対応・ケアを   [トラウマ]
2011年12月  子どもへの性的虐待を考える~臨床的援助と予防と  [カウンセリング][トラウマ]
2011年10月  見知らぬ人からの手紙

[DV]
2015年12月  ドメスティック・バイオレンス(DV)家庭で育った子どものトラウマと回復 [トラウマ]
2015年11月  DVを受けている女性を支える~なぜ逃げられないのかを理解する
2015年07月  DVを受けている女性を支える~家族、友人、知人として
2014年08月  DV被害者支援と支援者支援
2012年09月  安全でサポーティブなコミュニテイづくり~相互信頼を実感して


[いのち]
2016年04月  語り部バスに参加して
2015年08年  生と死と、自由と愛と~『レ・ミゼラブル』を観て思い巡らしたこと [本/映画]
2007年06月  生老病死~病院臨床に関わりはじめて
2007年03月  嬉野の「命の水」
2005年04月  秘密の世界
2005年04月  安全といのち
2003年05月  自然の声に耳を傾ける

[こころとからだ]
2019年02月  安眠のためのセルフケア
2018年01月  生理にまつわるエトセトラ
2017年09月 「やめてみる」ことで変わる,こころの休息-コミックエッセイ「もっと、やめてみた。」より-
2016年12月     牧場でのひととき-リソースを育む
2015年12月     カナシミのちから(映画インサイド・ヘッドを観て ※ネタバレ注意) [本・映画]
2015年08月  日々のほのぼのエピソード探し
2015年05月     からだの声に耳をすます
2014年10月  女性のストレスとストレスマネジメント
2013年02月  ヨガ入門Ⅱ
2011年05月  ヨガ入門
2010年09月  ドキドキとワクワクは、生活のスパイス
2009年09月  ソマテイック・エクスペリエンス(SE)トレーニングに参加して
2009年07月  身体の声を聴く~身体感覚のリズム
2008年08月  ワークショップ体験~体とつながる
2007年01月  身体感覚との対話  [カウンセリング]
2005年12月  アロマとともに・・・
2005年08月  心の声を信じる
2004年02月  自転車は相棒

[仕事]
2016年03月  あなたのキャリア・アンカーは?~シャインに学ぶ「自分らしい仕事生活」
2004年10月  文化祭の季節に思う

[ライフサイクル]

2020年12月  年末のご挨拶~感謝の気持ちを込めて
2018年01月  2018年を迎えて思うこと~女性のライフサイクルと共に
2014年09月  女性のライフサイクルと仲間
2014年04月  初心忘るべからず
2011年07月  人生の折り返し地点で
2010年11月  お弁当の楽しみ
2009年09月  ひとり旅
2009年06月  おさがり
2008年04月  新車がやってくる!
2007年04月  棚の整理は心の整理

[子ども/子育て]

2018年06月  フィンランド便り①~フィンランドの保育園事情
2016年08月  アメリカの出産で感じたこと-サポーターの大切さ
2016年06月  「スマホに依存している」といわれる姿の向こう側
2016年05月  お弁当作り雑考-日米での比較
2016年04月  子どもたちにとっての喪失体験-出会いと別れの新学期-
2015年01月
  思春期の子どもの世界--通過儀礼と心の成長
2015年11月  出産や子育てを語ること-否定的感情を語る-『楽しく、出産』を読んで
2015年10月  
大人も子どもも楽しめる絵本のすすめ  [本/映画]
2015年08月  思春期の子どもの成長を支える~「バケモノの子」を観て思い巡らしたこと [カウンセリング]
2015年06月  "落ち着かない子ども"の気持ち
2014年12月  大人と子どもをつなぐ絵本の魅力
2013年11月  温かい関係性を育む~「具体的にほめる」ことの勧め
2013年07月  思春期の山を乗り越える
2013年01月  子どもの行動に困ったとき~親子の相互関係を育もう
2010年03月  巣立ちの春
2009年01月  子どもたちの巣立ちを迎えて
2008年02月  受験生とのつきあい方
2007年11月  私の原点~「つながり」の体験   [仕事]
2006年09月  子どもの時間
2006年03月  巣立ちの予感・・・
2003年12月  子どもな学ぶ~人とのつながり、そして平和
2003年07月  懇談の季節に・・・

[女性の生き方]
2018年 04月       はじめまして
2017年 05月  女性にとって「自分らしい生き方」って?
2013年 04月  すーちゃん、まいちゃん、さわこさん
2006年 06月  元気の素
2005年 07月  大阪のおばちゃんパワー

[コミュニケーション]
2017年09月  ネガティブな気持ちの伝え方・断り方~アサーション・トレーニングからヒントを得て~
2015年07月  子育て中の夫婦間コミュニケーションのヒント
2014年12月  夫って/妻ってこんなタイプ!! 夫婦間ストレスを減らすコツ?!
2014年10月   あたりまえやん」、ほんとかな?  - コミュニケーションのヒント-
2014年07月  祖母と孫~ジェネレーションギャップ編~
2012年06月  みやげ話
2007年06月  ストレスとつき合う
2003年12月  クリスマスのしあわせ
2003年10月  ほっと一息の瞬間

[五感]
2018年11月  古くて新しい
2017年11月  おでかけしてみませんか? ・・・京都「国宝展」を訪ねて・・・
2015年08月  アロマの楽しみ -ディフューザー作り-
2011年08月  夏の香り
2011年04月  ホームベーカリー
2010年08月  古代エジプトの香油
2008年10月  おしゃれを楽しむ
2006年06月  五感を楽しむ

[自然]
2017年08月  ヒヨドリの子育てから・・
2017年07月  「緑の親指」にあこがれて-植物を育てる極意
2016年10月  ハーブでリフレッシュ!
2016年03月  蒸留水ことはじめ-3.11の日に
2013年04月  カウアイ
2011年02月  朝のジョギング
2009年04月  自然のエネルギーに満たされて~西表島体験

[コミュニティ]
2018年12月  対人援助学会第10回大会に参加して
2018年10月  フィンランド便り③-オープンダイアローグに触れて
2018年07月  フィンランド便り②-フィンランどの暮らし

2014年06月  「居場所とは何か」~学会発表のご報告
2014年03月  支えられ、助けられて
2014年02月  私の庭
2013年12月  リーダーシップ~白熱教室に学ぶ
2013年02月  編み物をしながら ・・・
2012年11月  クリスマスの贈り物
2012年03月  マジョルカにて・・・
2012年01月  スペインから「フェリース・アニュ・ヌエボ ! 」
2010年12月  2010年を振り返って~女性ライフサイクル研究所・設立20周年
2007年11月  「パールノート♪」をよろしくね!
2004年10月  前を向いて歩こう♪♪♪

[本/映画]
2014年08月  思い出のマーニー~思春期のこころ   [子ども/子育て]
2014年06月  苦手克服のコツ~池田暁子さんの整理術! シリーズから 

2021.06.29 カウンセリング
認知からトラウマにアプローチする 〜トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSD : CPT)のご紹介その②〜

朴 希沙

前回の「認知からトラウマにアプローチする 〜トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSD : CPT)のご紹介その①〜」では、CPTにおけるトラウマに関する考え方を紹介しました。

今回は、12回という限られた回数の中でCPTがどのようにセッションを進めていくのか、架空の事例をもとにその概略をご紹介します。

〜数年前、Aさんは自動車事故に巻き込まれ、あやうく命を落とすような体験をしました。その後Aさんは道を歩くときにはいつも警戒するようになり、些細なことでもひどく驚くようになりました。恐ろしい夢を繰り返し見たり、当時の恐怖や映像がありありと蘇ってきたりします。自動車事故のニュースが流れると動悸がし、急いでチャンネルを変えます。次第にAさんは外出がおっくうになるとともに自分の未来に対しても悲観的に考えるようになりました。Aさんは現在、家にこもってしまう生活が続いています。このようなAさんを見かねた家族はトラウマに関する専門的な治療とカウンセリングを受けることをすすめました...〜

◎CPTのセッションの段階

・はじまり

 治療に訪れたAさんは、まずは医師からPTSDの症状について確認を受けました。そして、CPTができるカウンセラーを紹介されました。初回のカウンセリングでは、PTSDとは何か、なぜ回復が進まないか、回復の道に向かうためにCPTで何に取り組むかについて説明を受けました。毎回練習課題が出されるという話を聞いて、Aさんは尻込みをし、果たして自分にそんなことが出来るだろうかと不安に感じました。しかし、カウンセラーから「CPTではこれまでの"回復を妨げる考え方"から"新しい考え方"を身につけることを目指します。限られたセッションの時間内で、これまでの習慣を変えることは非常に困難です。日常的に課題に取り組み、新しい考え方を身につける練習を行うことがとても大切で、少し骨が折れる作業ですが取り組めば取り組むほどに効果があるでしょう」と聞き、もうこんな生活はうんざりだと感じていたAさんは、思い切って取り組むことを決意しました。

・初期

 まずAさんがカウンセラーとともに取り組んだのは、トラウマティックな出来事について「何が起こったか」ではなく「なぜそれが起こったのか(原因)に関する自分の考え」と、「それが自分の思考や行動にどのように影響をしたのか」をしっかりとふりかえることでした。トラウマ後に回復を妨げてきた考え方を見つけ出す試みを行うとともに、出来事・思考・感情のつながりについて、それぞれ区別をつけ、どのように関係しあっているのかも学んでいきました。

・中期

 中期では、これまでの自分の考えを問い直し、その特徴を見直すことにチャレンジしました。毎回のセッションでは宿題が出され、自分に特徴的な思考や解釈のパターンを見つけたり、考え直すことに取り組んだりすることは骨が折れましたが、取り組めば取り組むほど、トラウマに対する反応が少なくなってきたことをAさんは感じました。また、自分に特徴的な考え方について知り、その幅を広げることでトラウマとなった出来事に対してだけでなく、他のことに対しても捉え方が以前より柔軟なものに変わっていきました。

・後期

 後期では、これまで培ってきた様々な技法を土台に、いくつかのテーマについてじっくりと考えることに取り組みました。それは、「安全」「信頼」「力とコントロール」「価値と親密さ」といったものです。こういったテーマについて、トラウマティックな出来事が起こった後自分の信念がどのように変化したのか、様々な角度から考え直していきました。

 カウンセリングが始まったころ、Aさんは「なぜ他の人ではなく、私がこんな目に?」という疑問に苛まされていました。しかしCPTの過程で日常的に課題に取り組み、新しい考え方を身につける練習を行うことを通して、次第にAさんの考え方は変化していき、それに伴って感情や感覚も変わっていきました。カウンセリングが終わった今、Aさんはこれまで避け続けていたトラウマと向き合うことが出来た自分をとても誇らしく感じました。そして自然な感情を否定するのではなく十分に感じ、以前よりも現実に対する柔軟な見方を身につけることが出来た自分の成長を感じました。

 以上、架空の事例を通してCPTの全体の流れをご紹介しました。実際には一進一退を繰り返しながら少しずつ変化は訪れると思いますが、これまでCPTを知らなかった方にも少しでもご興味を持っていただければ幸いです。女性ライフサイクル研究所では、CPTを始めとしたトラウマに対するアプローチに力を入れています。今後も、一人でも多くの方のお役に立てるよう、学びと実践に尽力していきたいと思います。

【参考文献】

CPTの概略を知りたい方には↓

伊藤正哉、樫村正美、堀越勝著 『こころを癒すノート:トラウマの認知処理療法自習帳』 創元社

CPTを専門的に学びたい方には↓

PA・リーシック、CM・マンソン、KM・リチャード著 『トラウマへの認知処理療法:治療者のための包括手引き』

2021.02.02 カウンセリング
認知行動療法のワークショップに参加して

                                         西村 麻里 

 

 先日、といってももう昨年になってしまいますが、日本認知療法・認知行動療法学会のワークショップに参加しました。

 今の社会状況ですので、会場に集まっての実施ではなく、オンラインでの開催でしたが、ブレークアウトルームという、オンライン上で小グループに分かれての話し合いが多用され、家にいながらにして他の参加者の方たちとの交流もできる貴重な機会となりました。

 ワークショップのテーマは、認知行動療法の実践においてつまずきやすいポイント、というものだったのですが、私自身は認知行動療法を中心に据えたカウンセリングを行うことは滅多になく、他の技法と組み合わせて、テクニックの一つとして活用することがほとんどなので、本来認知行動療法がどういう風に行われ、何を目的として、何を大切にするのかということを改めて認識させられる思いでした。

 そこで、今回はこのワークショップを通して得た、私なりの理解や、私が実践する上で意識したり、大切だと思っていることをお伝えすることで、皆様の理解の一助となれたらと思います。

 

 私が普段行っている他の心理療法もそうなのですが、多くの場合、カウンセリングでは、お会いしているその時間の関わりに大きな焦点が当たります。

 認知行動療法ではそうではない、というわけではありませんが、しかし、それ以上に重要になってくるのが「ホームワーク」の存在です。

 ホームワーク、と言うと、つい学校の宿題のようなイメージを持たれるかもしれません。

 確かに、次に会う時までにこれを書いてきて、とワークシートを渡されることもありますし、その時の気分はまさに宿題を出された子どものようなものかもしれませんが、認知行動療法におけるホームワークの本質はそこではありません。

 

 カウンセリングの時間の中でできることには限界があります。

 例えば週1回のペースで通っていただいたとしても、残りの6日間はカウンセラーは一緒にいません。

 つまり、カウンセリングルームの中だけで何かがうまくいったり、いい状態になれたりするだけでは、実生活において生きやすさを感じることは中々できないのです。

 そこで、カウンセリングの中で話し合ったことを実際の生活の中へ持ち帰り、それでうまくいくかどうかを試してもらう、それこそが認知行動療法の重要なホームワークなのです。

 もちろん一度でうまくいくとは限りません。うまくいかないことの方が多いでしょう。

 でも、その試した結果を次のカウンセリングの時に報告してもらって、一緒に検討を重ね、よりよいやり方を見つけて、また試してきてもらう。

 それを繰り返していくことで、その方にとってのベストが段々見えてきます。

 

 さらに、この作業を長くに渡って重ねていると、カウンセラーの助けがなくても、自分で認知行動療法のスキルを用いることができるようにもなってきます。

 私自身は、こちらの方がより大きな目標だと意識しています。

 ある程度のところでもう大丈夫そうだと、一時的な立て直しとして使われる方も多いですし、それももちろん有意義なことですが、何度も繰り返して最初はうまくいかなかったところから少しずつ身に着けていかれて、

「自分でこんな時はこれを使えばいい、と気づいて、落ち込まないようにすることが出来ました!」

と晴れやかな顔で報告いただいた時などは、認知行動療法の実力というものをひしひしと感じます。

 

 とはいえ、認知行動療法も万能ではありません。

 やはり人によっての向き不向きもありますし、困られていることの内容や症状によってのいわゆる「適性」もあります。

 私が認知行動療法をメインとして行わず、いくつもある技法のうちの一つ、として用いている理由もそこにあります。

(誤解を招かないためにお伝えしておくと、認知行動療法を主な専門とされている方は、認知行動療法自体をアレンジして幅広く対応できるようにされています。私にはそれができない、というだけの話です。)

 でもやはり、一つの技法として必ず持っておきたい、と思わされる、底力を感じるものでもあります。

 

 最後に、今回のワークショップの中で一番私が印象的だった、講師の先生の言葉を共有して終わりたいと思います。

「今まで生きてきている、ということは、全く適応がないということはありえない」

 どんなにしんどくても、どんなにうまくいかないと思っても、今まで生きてこられている、というそのこと自体、自分ができていることがあるという、確かな事実なのです。

2020.12.31 ライフサイクル
年末のご挨拶~感謝の気持ちを込めて

                                       西 順子

2020年も残すところあと僅かとなりました。
皆様方の温かいご支援や励まし、ご協力のおかけで、無事に2020年の業務を終えることができました。お世話になりました皆様、研究所に来談くださいました皆様に心から感謝いたします。

2020年10月1日には研究所創立30周年を迎えましたが、年頭より「感謝を形にする」を目標に一年通して「30周年の記念」に取り組んだ年となりました。コロナ禍においても「できることを」と、オンラインによる一般向け講演会、専門家向け研修会、スタッフ向け研修会を開催し、たくさんの皆様にご参加いただくことができました。これも講師の先生方はじめ、ご支援くださる皆様のおかげと心から感謝いたします。

記念イベントの一つとして、年報『女性ライフサイクル研究』の無料配布も行っています(2021年3月末まで)。当時のスタッフが毎年熱心に取り組んだ論文、20数年の歴史が詰まった年報を一人でも多くの皆様にお届けし、何かのお役に立てればと願う気持ちでおります。

また、この一年は価値観や行動の「変化」を迫られた年でありました。人と人とのソーシャルディスタンス(社会的距離)が必要となり、カウンセリングにおける「安全な場とは何か」の問い直しが必要となりました。マスク着用、換気、消毒などの感染予防対策、カウンセリングのオンライン化など、試行錯誤しながら「安全な場」を考える一年でもあったと思います。変化に柔軟に対応することが求められる一方、本当に大切なもの、大切にしたいものは何か、にも気づかされました。コロナ禍という危機的状況であるからこそ、これを乗り越えるために、これまで以上にスタッフで力を合わせることが必要となり、逆に、それぞれの持てる力を発揮し、つながりが深まった年でもありました。スタッフを支えてくださっている皆様にも心から感謝いたします。

私自身はというと、今年も反省すべきところが多々あります。自分自身の至らなさ、未熟さに気づくと、胸が痛みます。30年という年月が経つからこそ、「初心(=未熟さ)忘るべからず」が大切であることを思い起こし、謙虚な気持ちを忘れずに精進し、成長することができればと思っております。

さて、2021年はどんな年になるでしょうか。
女性ライフサイクル研究所も既に31年目に入りました。まだまだコロナ禍が続きそうですが、この闇のなかを手探りながらも、女性や子どもの笑顔が見れるようにと、希望に向かって歩み続けたいと思います。

2021年が皆様にとって希望がもてるよいお年になりますように心からお祈り申し上げます。


今年も研究所の鉢植えが花を咲かせてくれました。
IMG_7139 (002).jpg


2019.10.09 トラウマ
認知からトラウマにアプローチする 〜トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSD:CPT)のご紹介その①〜

                                                                                    朴 希沙

「話を聴いてもらうだけでよくなるんですか?」「カウンセリングに意味があるんですか?」

 カウンセリングに対する、このような疑問をしばしば耳にすることがあります。カウンセラーがクライエントの話をただ「ふんふん」と聴き、受容する。そのようなイメージが一般的に浸透しているからかもしれません。

 しかし、一口に「カウンセリング」と言っても実は様々な種類や技法、考え方、歴史的背景が存在します。またうつや不安といった特定の症状によりエビデンス(治療効果に関する検証がなされているもの)が高い技法や治療法が存在し、新たな技法やその効果についても日々研究が行われています。様々な技法の中から何が最もお話してくださる方に合うのか、カウンセラーに何ができるのかを丁寧に見極めながら進めていくことが、カウセリングでは大切な作業のひとつになります。

 私は、普段は「認知行動療法(Cognitive Behavior TherapyCBT)」の技法を取り入れながらカウンセリングを行っています。認知行動療法では、人の「内面」や「心」というものを、①「認知(考え方や捉え方や解釈、イメージ等)」②「感情」③「身体反応」④「行動」に分けます。そこでは、無理に感情を変えようとするのではなく、まず考え方や捉え方の幅を少しずつ広げることを試みます。そして、これまでとは違うパターンの行動を実験的に行ってみる等、考え方と行動のレパートリーを増やすことを通して気持ちや身体反応にも働きかけようとします。このようなCBTは、うつや不安を始めとした多くの症状や悩みの整理に活用されています。

 さて、私は半年ほど前、女性ライフサイクル研究所のカウンセラースタッフ数名とともに「トラウマへの認知処理療法(Cognitive Processing Therapy for PTSDCPT)」に関する二日間の研修を受けてきました。

CPTはアメリカで2000年前後に開発され普及された比較的新しい心理療法で、基本的には12回のセッションによってトラウマの治療を集中的に行います。PTSDに対するエビデンスも蓄積されていますが、日本ではまだ広く知られていません。今回の研修も、CPTの開発を中心的に行ってきたPA・リーシック教授が来日し、開催されました。

これからCPTのトラウマに関する考え方、12回という限られた回数の中でCPTがどのようにセッションを進めていくのかといったことを2回に分けて書いていこうと思います。

CPTにおけるトラウマの考え方

 CPTは、トラウマ体験によって生じるPTSD(心的外傷後ストレス障害)に特化した心理療法です。それではまず、一体どのような症状がPTSDに当たるのか、その診断基準を以下に抜粋してご紹介します。

PTSDの症状

 PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)とい言葉は、災害や事故、事件に関連して耳にすることも多くなり、一般にも広く行き渡るようになりました。私自身も、日頃PTSD症状を抱えておられる方への対応に取り組んでいます。PTSDとは、危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など、精神的な衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されることで生じる、ストレス症候群のことをさします(日本トラウマティック・ストレス学会より:http://www.jstss.org/topics/01/  )。

 主な症状は、①侵入症状、②回避症状、③認知と気分のネガティブな変化、④過覚醒です。「侵入症状」とは、何かがきっかけとなり生じる、自分では思い出したくない記憶のことを指します。「フラッシュバック」と呼ばれることもあります。眠っているときは、悪夢として現れるかもしれません。

次に「回避症状」とは、思い出したくない記憶を思い出させる可能性がある刺激を避けることを意味します。特定の場所や状況、人を避けたり、避けようと努力したりすることがその例です。そこには、「記憶そのもの」を避けることと、「記憶を想起させるもの」を避けることが含まれます。このような避けること(回避)は、短期的には思い出さずに済む、恐ろしい感情に巻き込まれなくて済む、という効果が得られるのですが、長期的にはPTSDの症状を長引かせてしまうのです。

また③トラウマティックな体験をした人は、恐怖や怒り、罪悪感や恥などのネガティブな気分が持続するだけでなく、自分自身や他者、世界に対する否定的な信念や予想を持つことがあります(例:「私が悪い」「だれも信用できない」等)。④過度な警戒心や集中困難の状態、ときに自己破壊的な行動を示すことも、その症状のひとつです。

・トラウマティックな出来事を経験した後のPTSD症状からの回復と未回復

 トラウマを経験すると、誰しもに一時的なPTSD症状が生じます。それは、異常な出来事に対する正常な反応なのです。しかしCPTでは、トラウマティックな出来事からのPTSD症状からの「回復」と「未回復」に注目します。

 トラウマティックな出来事を体験すると、私達は自然に恐怖や怒り、悲しみといった感情を感じます。これは、CPTでは出来事に対する「自然な感情」と呼びます。

一方、トラウマティックな出来事が生じると、多くの場合私達はその「原因」について考えるようになります。「あのとき〇〇さえしていれば」、「こんなことが起こったのは私の責任だ」...起こった出来事「そのもの」ではなく、こうした「考え」からも感情は生じます。それは、多くの場合恥や罪悪感といったものです。

実は、先に示した「自然な感情」は十分に感じ、時間がたてば自然におさまっていくことが分かっています。しかし一方で、「考え」によって生じる感情はその考えが変わらない限りいつまでも持続し、強い感情を引き起こし続けます。私達は「自然な感情」と「思考から生じる感情」とを普段区別することはないのですが、両者の違いはCPTでは非常に重要なことです。

 また、自分ではコントロールできないような恐ろしい記憶に押し入られ、その記憶や感情、自分の考えに耐えられないと思ったら、そこから逃げよう、避けようとするようになります。もちろん、トラウマティックな出来事に取り組むことは避けたくなることなのは当然のことです。しかし、実はそのような「回避」こそがトラウマからの回復を妨げるとCPTでは考えます。

 つまり、CPTでは思考によって「作られた感情」と出来事そのものから生じる「自然な感情」とを区別し、トラウマティックな出来事から自然に生じる感情を湧いてくるのに任せて回避せずに体験し、十分に感じることができれば、トラウマから回復していくことができる、と考えるのです。「自然な感情」は、必ずおさまっていくからです。そのためには、トラウマティックな出来事が「なぜ」起こったのか、その原因に対する自分の考えや解釈(「あの時自分が〇〇さえしていなければ」「自分が悪かったから」等)について丁寧に検証し、必要があればより現実的なものに修正していく必要があります。なぜなら、原因に対する過度な思い込みや現実とは異なる考えが、トラウマティックな出来事について思い出したり感じたりすることを妨げ、結果的に症状を長引かせていることがあるからです。

 以上、今回はCPTのトラウマに関する考え方を中心に紹介しました。次回はどのようにセッションを進めていくのかについて、その概略をご紹介できたらと思います。

                        ・・・続く

【参考文献】

CPTの概略を知りたい方には

伊藤正哉、樫村正美、堀越勝著 『こころを癒すノート:トラウマの認知処理療法自習帳』 創元社

CPTを専門的に学びたい方には

PA・リーシック、CM・マンソン、KM・リチャード著 『トラウマへの認知処理療法:治療者のための包括手引き』

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

© FLC,. All Rights Reserved.